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発注における「欲しかったのはこれじゃない」をどう防ぐ?システム開発会社代表に聞くコツ

業務で発注を担当している方のなかには、理想とずれた納品物ができあがってしまい「欲しかったのはこれじゃないんだけど……」と頭を抱えた経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

そんな受発注における「これじゃない」は、いったいどうしたら防げるのか。今回お話を聞いたのは、スマホアプリなどのシステム開発を手がける三恵クリエスの代表取締役・木幡勝弘さんです。

メイン業務である顧客のシステム開発以外のスポット業務を中心として、比較ビズでの発注も行なっている木幡さんに、発注者・受注者両方の立場からのご経験と、そこから見えてくる「これじゃない」の原因、解決策を聞きました。


発注先をどのように選定する?電話や対面など口頭で話す大切さ

──普段、発注をする際は、どのような業務を依頼していますか?

木幡:ひとつは、われわれの専門外のエンジニアリング分野での依頼です。社内インフラとして新しい製品を導入する際に設定や構築をお願いしたり、現在のオフィスに引っ越してきた際に、サーバー群の移動とネットワークの再構築をお願いしたりしました。 

また、過去には会社の人事評価制度の構築を依頼したこともあります。比較ビズで募集をかけると、この要件ではそんなに応募が来ないかな、と思うような少しニッチな案件でもけっこう応募が集まるので、非常に助かっています。

木幡勝弘。三恵クリエス代表取締役。明治大学経営学部卒業後、数社を経て2000年に三恵クリエス代表取締役に就任。

──複数集まった応募のなかから、発注先をどのように選定していますか?

木幡:どんなに急いでいるときでも、電話やZoomなどで話すのは大事ですね。口頭で話すと、「こちらの要望をどのくらい深く理解してくれたか」ってなんとなくわかると思うんです。また、われわれが外注するのは基本的に社内に知見がない分野なので、こちらが気づいてない論点や注意点を先回りして挙げて、それに対する解決策を提示してくれるような相手だと信頼できます。

これに加えて、先ほども挙げた人事制度の構築のときは、「自分たちに合うものをつくってくれるかどうか」の見極めが非常に難しかったです。人事制度というのは、A社にとっていいものがB社にとってもいいものとは限らないですからね。

そのときに指標としたのは、僕らと同じようにシステム開発を事業とする会社の人事制度をつくった経験があるかどうか。もちろん開発会社と一口にいっても求めるものや課題はさまざまですが、ひとつの安心材料にはなると考えました。

「これじゃない」を回避するための重要ポイント、「期待値のすり合わせ」とは?

──これまでの発注経験のなかで、提供されたものやサービスと発注意図のあいだにずれが生じてしまい、「これじゃない」となった経験はありますか?

木幡:それが、あまりないんです。おそらく、われわれにあまり知見がない分野を知見のある会社に発注しているので、よくも悪くも期待のレベルが高すぎないのだと思います。

弊社がシステム開発を請け負うときにも、「期待値コントロールをきちんとする」ということは大切にしています。お客さまの期待値を、われわれの力量で達成できる現実といかにすり合わせるか、というところのマネジメントですね。

木幡:発注者の立場としても、「何がどこまでできていれば満足なのか」という期待のレベルをきちんと設定して、それを相手とすり合わせることによって、ある程度「これじゃない」は防げると考えています。

──例えば人事制度の構築のときには、木幡さんからの期待をどのように伝えましたか?

木幡:われわれがなぜ人事制度をつくり直したいと思っているのか、当時感じていた課題を整理して伝えました。「制度をつくる」はあくまでも課題を解決するための手段なのですが、それ自体を目的ととらえてしまうと、結局課題が解決されない制度になって「これじゃない」となりかねなかったと思います。そうならないよう、あくまでも、最終目的を見失わないように気をつけましたね。

──プロジェクトが走り出してからは、どういった点に留意して進めましたか。

木幡:「最終ゴールを達成するために、いつまでに何をする」というマイルストーンをあらかじめ定めることですね。途中経過で区切ってその都度確認をしながら進めれば、最終ゴールの地点で「これじゃなかった」となるリスクは減らせると思います。

「トレードオフ」は円滑なコミュニケーションのコツ

──本業であるシステム開発の受託業務においては、発注者の求めるものとのすれ違いを感じた経験はありますか。

木幡:最近は、情報システム担当が社内にいらっしゃるようないわゆる大企業を顧客としているので、大きなすれ違いはあまりないのですが、かつてはよくありました。

やはりどうしても、開発における「できること」「できないこと」の常識というものがあるのですが、社内に情報システム担当がいない、なおかつ発注経験があまりない企業の場合、システム開発の常識的には難しいことをご要望されてしまうケースもあるんです。

木幡:そういうときに、先ほどもお話しした「期待値コントロール」がしっかりできる担当者がお客さまとの窓口に立ち、「できること」「できないこと」を上手くお伝えできればよいのですが、それができないとお客さま主導で流れていって、最終的にはどちらにとってもあまり望まない結果になってしまうことが多いと感じます。

──受注者側として「期待値コントロールができる担当者」というのは、具体的にどのようなことができる人なのでしょうか。

木幡:シンプルですが、コミュニケーション力がある人ですね。例えば、「これはできません」と伝えなければならないときでも、伝え方によって相手の受け取り方は大きく変わります。

こうしたときに実践できるわかりやすい手法としては、「トレードオフ」があります。仮に約束した納期に間に合いそうもないとなったら、代わりにプラスアルファでできることを考えて、それと合わせて交渉するとか。ただ「納期をずらしてください」だけでは、相手からすれば何のメリットもない話ですから、譲歩してほしい点がある場合には、こちらが譲歩できる点を一緒にお伝えするとご理解いただきやすいと思います。

この「トレードオフ」は、お客さまのほうから提案いただくこともあります。発注者としても、途中で事情が変わり要件や仕様を変更しなければならないケースは往々にしてありますから、それを受注者に伝える際に「トレードオフ」を使うとスムーズにいきやすいのではないかと思います。

「いちばんのこだわり」だけは絶対に死守すると、満足度が高まりやすい

──受発注における「これじゃない」が生まれてしまう原因について、「期待値コントロール」以外に思い当たることはありますか?

木幡:「そのお客さまがいちばんこだわっているもの」だけは絶対に死守することが重要だと思います。例えば、値段やスピードよりも品質をとにかく重視するお客さまなら、アプリの公開後にバグなどが見つかると一気に信頼が失われますので、われわれが受注者となるときは、そこをものすごく気をつけていますね。

──つまり、発注者としては「ここだけは外してほしくない」というポイントをあらかじめ整理して受注者に伝えることが大切ということでしょうか。

木幡:そうですね。できるなら、そうするに越したことはないと思います。ただ、私たちもお客さまとやりとりしていて難しいのが、プロジェクトを進めるなかで、最初の打ち合わせで聞いたこだわりとは別の点がより優先度の高い事項として上がってくる場合もあるんです。特に発注にあまり慣れていないお客さまだと、具体的に進めるなかで自分の本当のこだわりがわかってくるところもあるのでしょう。

その対策のためにもおすすめなのは、短期間で終えられる小規模のお取引を、一度実際にやってみることですね。すると、発注者側も自分のプライオリティーが見えてくると思いますし、受注者側からも理解を深めることができます。また、法人とはいえそれぞれ企業のキャラクターもありますので、その相性が合うかどうかも見極められると思います。

──最後にあらためて、プロジェクトを成功させるために発注者、受注者がそれぞれ気をつけたいことについて教えてください。

木幡:受注者側からは、成功事例だけではなく失敗事例も、できることだけではなくできないこともしっかりと伝えること。発注者としては、経験豊富な受注者であるかどうかを見極めると同時に、相手が専門家であるというリスペクトを忘れず、理想と現実を上手くすり合わせながら落としどころを一緒に探っていく姿勢が大切だと思います。

三恵クリエスさまオフィスにて撮影。

取材・文:原 里実 
写真:竹田 靖弘 
制作協力:CINRA, Inc.
編集:丸山 恋(比較ビズ編集部)

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