詩吟の起源や発展の歴史について仮説を立てて想像してみる(その2)
前回の続きです。
5.詩吟の流行その2
詩吟が流行ったタイミングその2は「昭和初期」です。
年代でいうと1920年代以降。
まぁ実際は1970年代に向かって詩吟人口が激増し、最終的に400万人とも言われるようになったのですが、その起点となったのが1920年代かと思います。
この時期における最重要人物が「木村岳風」という方。
5-1.近代吟詠の祖、木村岳風について
近代吟詠の祖と言われており、日本の詩吟業界を代表する団体の一つ「日本詩吟学院」の創設者です。
簡単に経歴を追ってみましょう
1899年 長野県諏訪市に生まれる
1921年 詩吟に出会う(22歳)
1927年 詩吟普及のための全国行脚を開始(28歳)
1936年 日本詩吟学院を創立(37歳)
1952年 逝去(52歳)
大きなポイントは2つだと思っています。
①詩吟を普及させるために吟法を確立させたこと
②全国行脚を行い、日本全国にお弟子さんを作ったこと
①詩吟を普及させるために吟法を確立させたこと
この方は、まだ整っていなかった「詩吟の作法」みたいなものを研究し、形として完成させた方です。
音階はどうするとか、節調はどうするとか、詩文の区切り方はどうするだとか、そういったものを歴史から研究し作り上げたのです。
それまでは詩吟というのは「漢詩を好き勝手に吟じる」というものだったのでしょう。
幕末時代は、意気軒高の志士たちが漢詩を作っては叫ぶように吟じる「高歌放吟(こうかほうぎん)」というスタイルも流行っていたそうです。
これでは芸としての形にならず、学んだ人がいても、何から学べばいいのか、どこに向かって鍛錬すればいいのかなどが分かりません。迷子になります。
形ができることで、言い方を変えれば「商品」ができたんですね。
もし、商品が「じつは色んな形をしていて、上手く説明できないんですけど、良いものなんです~」みたいな説明をされても買いたいと思いません。
受け取った人も、他の人に勧めようと思っても勧めにくくなります。
だから「形を作る」というのは普及させる上でとても大切なステップなのです。
②全国行脚を行い、日本全国にお弟子さんを作ったこと
モノを普及させるには、商品を作り、営業して売らなければいけません。それと同様に、詩吟に形ができたとしても、伝えて回らなければ伝わりません。
その、おそろしく大変で地道なことを一人で成し遂げたのも木村岳風なのです。
晩年、この全国行脚の大変さがたたって体調を崩したのですが、それほどに全身全霊をかけて全国を回り、実際に全国各地にお弟子さんを作ったそうです。
そのお弟子さんが、それぞれが核となって、時には流派を立ち上げたりして、1970年代に向かって詩吟が広まっていくエンジンとなったのです。
理想を語るだけでなく、自分の足を動かして行動する。その行動力・実行力には頭が下がります。
6.一個人の力で詩吟は普及したのか?
では、木村岳風によって、詩吟は普及したのか?
答えはノーだと僕は思います。
昭和初期というのは文字通り、激動の時代でした。
そのころの出来事をざっと並べてみましょう。
1904年 日露戦争勃発(~1905年)
1914年 第一次世界大戦(~1918年)
1920年 世界恐慌
1922年 関東大震災
1931年 満州事変
1937年 日中戦争
1939年 第二次世界大戦
1945年 敗戦
1946年 GHQ統治が始まる
全体の流れを言うと、
日本が帝国として歩みを進めた時代であり、敗戦してそのプライドがズタズタになった時代でもあります。
木村岳風は1927年から全国行脚を始め、その間に満州事変や日中戦争が起こっています。
当時の日本としては、国民が一致団結して、士気を高めていく必要があり、そこで詩吟が注目されました。
明治維新を成し遂げた志士たちの漢詩は精神を鼓舞するものが多く、愛国精神をかき立てるものも少なくありません。
これらを詩吟として、軍や学校で吟じることが進められたのです。
つまりは、国による後押しがあったのです。
しかし1945年に敗戦し、GHQによる統制が始まりました。
本来なら、ここで国による後押しが無くなったので、それと一緒に詩吟も消滅してもおかしくは無かったと思います。
しかし実際は、1970年代に向けてどんどんと詩吟人口が増えていきます。
これは仮説ですが、GHQによりアメリカ文化がどんどんと入ってくる中で、逆に愛国心がかき立てられ、それが詩吟に向かったのではないかと思います。
さらには、全国行脚によって日本各地に生まれたお弟子さんが詩吟教室や組織を作り、ベビーブームと相まって、詩吟人口の増加に寄与したのではないかと考えます。
木村岳風の功績と時代の流れ。
この両方が相まって、最大400万人とも言われる詩吟の普及があったのだと僕は思います(※400万人の数字の根拠はいまだに見つけられていませんが…..苦笑)
では、今後、詩吟は普及する未来があるのか?
ここまでの経緯を踏まえた上で、次回、僕の考えを書こうと思います!