朽ち果てた水族館が…
夕まずめの海…大きな岩の三ツ石が見えてるから俺の大好きな真鶴半島だ。 伝馬の漁船で漁師の松五郎と鯛を釣っている。手ばねのシャクリ… エサは車エビ…サイマキだ。
「夕日がオー、あの三ツ石の20センチぐれいの時に、ここいらの鯛は口を使うだおー」
夕日が真っ赤に燃えて、三ツ石の上に落ちて来た。その時だった! 俺のシャクリ竿が空中で止まり、竿の先がいっきに海中に持って行かれた!
海底に突っ込んで行く、明らかに大鯛の当たりだ!今までに経験のない物凄い当たりだ!
そ奴は海底をユラユラ泳ぎ、俺たちの伝馬船を沖に引っ張って行く。 俺は無我夢中で大鯛との決死のやり取りに夢中だ。
気がつくと、辺りは闇夜だ!引きずられた釣り糸が夜光虫の海面を切り裂き、万華鏡のような美しさだ。あまりの眩しさに目を閉じた…
再び目を開けると…そこは廃墟の中…どうやら朽ち果てた水族館なのだ。 どの水槽にも水がなく、蜘蛛の巣が張っている。
水草の代わりにキノコが生えている。照明は裸電球一個だけ…そのぼんやりした灯りに照らされてまだ水の残る水槽に鯛が一尾泳いでいる。
8キロはありそうな大鯛だ。よく見ると鯛の口に釣り針が刺さっている。 鉛をつけたテンヤ針…俺が作った俺の針だ!
エライ事をしてしまった!俺は朽ち果てた階段を駆け上がり、大水槽の中に飛び込んだ!あいつを海に帰さなければならないのだ!
鼻に水が入って来る…苦しい…これは子供の頃、いきなり海に飛び込んで、いつも経験していたあの咽ぶような感覚だ。
懐かしいなぁ…しかし、これは苦しいぞ…どうしよう…夢はここで終わっている。あの鯛はどうしているのだろう…。いつか夢の続きを見てみたいな。 あの朽ち果てた水族館は実在する。危ないから場所は言えないけれど…
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