本物の偽物
デジタルで久しぶりに絵を描いた。
自分が過去に刷った木版画に似せた絵だ。
実際のところ木版画風なだけで、デジタルで描いたことはすぐにバレてしまうだろう。
Photoshopで描くことは筆や版木を使うよりもずっと簡単だ。
いくらでもやり直しができるし、いちいち混色に悩むこともない。
だけど魅力的な絵を描くのは絵の具を使うよりもずっと難しく感じる。
どうしても強さや厚みのようなものが足りなくなってしまう。
それは画材の文脈のようなものだったり、偶然性だったりするんじゃないだろうか。
何でもできてしまうからこそ、どういう絵にしたいかモチーフだけでなく、スタイルにまで強いイメージが必要になる。
そうは思えないかもしれないけれど、木版画を刷るときに完璧に仕上げようと思っている。
そしていつも完璧には程遠い。
分かりやすいものだと版ズレやカスレだ。
でも終わってみるとそれが絵にとっていい働きをすることがある。
コントロールできない部分が情報量を多くし、絵に安らぎのようなものを与えているのではないだろうか。
デジタルで版画風の絵を描いていると、特に摺りのクオリティが高くなってしまう。
版ズレは起きないし、カスレがないテクスチャを使えばカスレもない。
そうやって完璧に仕上げると木版画に見えない。
僕の目指している木版画には失敗も含まれているということだろう。
そこでミスをわざと再現することになる。
これが難しい。
版画を刷るときはなるべくミスをしないようにしているので、その反対のことをしている。
だからあまりにもカスレがあったりすると、わざとらしくなってしまう。
多少の妥協も必要なのかなと思う。
そもそも今回の絵は、僕の技量で不可能なほど木版画としては複雑な絵だ。
初めから矛盾している。
でも複雑な絵も描きたくてデジタルを使ってみたのに、木版画に寄せるために簡単な画面にするのも本末転倒だ。
結局僕は本物ではなく、本物の偽物を目指すことにした。
まだ達成できていないし、見る人はそれを気にするのかという疑問は残る。