木版画ができるまで
最近は木版画で絵を作っています。「描いています」でもいいんでしょうか?
それとも「刷っています?」
この前出来上がった作品があるのでメイキング記事を書いてみます。
僕は木版画について誰かに教わった訳でもなければ、体系立った教本などを読んだこともありません。
手探りでやってみている状態です。
ちゃんと教育を受けた人からみるとかなりデタラメだなと思われるかもしれません。
でもそれもいいなと思います。ガラパゴス的進化というか、セオリーを知らないので他とは違う変なものができているような気がします。
そんな感じでかなりデタラメな木版画を紹介します。
アイデアスケッチ・ラフ
ラフを作っていきます。
ほとんどiPadのProcreateで描いています。
上の画像がアイデアのおおもとです。
ピンクの田んぼを描きたかった記憶があります。
結局このアイデアは形にならなくてiPadに眠ったままでした。
それでもやはり描きたくて、青山塾の課題に絡めて描いたりしました。
でも乗り物がメインテーマだったので田んぼに力を入れて描く余裕がありませんでした。
そして最近になって、次はどんな絵を描こうかと思った時に頭をよぎったのがピンクの田んぼです。
版画はとても時間がかかるので、今までは複雑な絵を避けてきました。
でも今回は挑戦してみることにしました。
下描き用のデータを作る
ラフができたら版木に転写する下描きのデータを作っていきます。
まず画像の左右を反転させます。
版木と刷った絵とは反転するからです。スタンプなどと同じですね。
次に版を分けていきます。
基本的には同じ色の面を1つの版に配置するという考え方です。
ただ1つの色ごとに1版使うと版木の数が膨大になってしまうので、なるべく詰め込んでいきます。
ここら辺はほとんどパズルみたいな感覚です。
ここで失敗すると摺るときに2度手間3度手間になります。
今回は7版です。上の画像も7色に分かれていると思います。
基本的に絵の具は重ねていきません。隠ぺい力が弱いので透けてしまうからです。
いわゆる抜き合わせです。
逆に透けさせたい部分は版同士が重なるように配置します。
今回は傘の反射と縁の部分、抜き合わせが大変そうな稲とその影が重なるようになっています。
版木に下描きを転写する
版木に下描き用の線を転写します。
地道な作業ですが、失敗するとその分版ズレするので結構気を使います。
色々試してみましたが今のところ一番ズレないのはカーボン紙を真似した方法です。
まずデジタルの下描きをコピー機でプリントします。
ひっくり返して黒い面のエッジの部分を濃い鉛筆でこすっていきます。
全部塗ったら表面を上にして板に張り付けます。
あとはボールペンなどでなぞるだけです。
こんな感じ↓になります。
ちなみに版木はホームセンターで買えるベニヤ板を使っています。
品質はあまり良くないです。
木版画に適した芯材にもシナノキを使った彫りやすいベニヤもあるらしいですが、値段が5~10倍くらいするので使ったことはありません……。
版を彫る
いよいよ版を彫っていきます。
写真を取り忘れました。
この画像↓をもとに……
この版↓ができます。
版を彫る作業はかなり労力がいりますが、正解が見えているので無心で作業できます。
ちなみに使っている道具はこんな感じです。
上から
ホビールーター(刃研ぎ用)
丸刀(安物)
印刀
丸ノミ
丸刀(細いの)
見当ノミ
デザインナイフ
です。
基本的には印刀やデザインナイフでエッジを彫って余分な場所を丸刀や丸ノミですくっていきます。
絵の具を作る
刷るための絵の具を作っていきます。
水彩絵の具やポスターカラーがベタ刷りには適しているようです。
僕は近くにあったからという理由でアクリル絵の具とアクリルガッシュと使っています。
いつかポスターカラーも試してみたいです。
絵の具の他にはメディウムやでんぷん糊、水なども入れています。
できた絵の具は密閉容器に入れておきます。
絵の具を作る段階でカラーラフも作ります。
筆で塗るのと刷るのでは濃さが違うのであまり参考にはなりません。
紙を湿らせる
摺りに入る前に紙を湿らせます。
湿らさないと摺ったときに紙がシワなってズレてしまったり破けてしまったりします。
ベニヤと濡れた紙で刷るための紙をサンドイッチにして湿らせていきます。
挟んだらひっくり返したり、霧吹きで水分を足したりしつつ10分ほど待ちます。
湿り方にムラがあると版ズレするので結構デリケートな作業です。
そして何版も刷るとこの待ち時間が長く感じます。
摺り
紙が十分に湿ったら摺り作業です。
最初に版木を霧吹きで軽く湿らせます。
版木の凸部にでんぷん糊と絵の具を乗せていきます。
刷毛で均一に伸ばします。
紙を見当に合わせてのせます。
見当というのはこれ↓です。
紙を合わせる目印に使います。
紙の上に当て紙をのせバレンで摺っていきます。
摺り終わったら絵の具を乾かします。
10分くらいかかります。長い。
時短しようとドライヤーで乾かしたこともありましたが、湿り具合にムラがでたので止めました。
多色刷りの場合、絵の具が乾いたらまた紙を湿らせて、摺って、乾かして、湿らせて、摺って……の繰り返しです。
ちなみに下が摺りの順番です。
数えてみると50回以上摺ったことになります。
結構諦めようかと思いました。
以下画像のダイジェストです。
まとめ
今回は過去で1番複雑な絵を刷ってみました。
独特のテクスチャができるのが自分にとっての木版画の魅力です。
ビニール傘の表現も実験的にやってみましたが面白くできたので満足です。
スキャンが上手くできなくて調整してみましたが、やっぱり実物の方がいいです。
いつか展示をしてみたいです。
その為にはまず作品を作らないといけないんですが。
時間はとてもかかりました。
浮世絵が分業制だったのも納得です。
一方で沢山刷れるというメリットもあります。
漫画とかで料理を「一人分作るのも二人分作るのも手間は一緒だから!」というシーンがありますがそれと一緒です。
筆で同じ絵を2枚描く場合、ラフを含めて労力は1.5くらいでしょうか。
版画だと労力は2枚でも1.05くらいな感じです。
版画はクライアントワークというより、絵を刷って売るのに向いているような気がします……。
とりあえず今の目標はHB WORK コンペです。
それまでに枚数を揃えなければいけません。
今のペースでは全く間に合いません。
そこで今まで苦手意識のあったデジタルに取り組んでみようと思っています。
目指している絵が見えてきたので、それをデジタルで再現してみたいです。
もちろん版画も続けていきます。
最後まで読んで下さりありがとうございました!