青山塾の話②-1年目のベーシック科
前置き
青山塾の基本的なこと
前回に引き続き青山塾のことを振り返ります。
その前に青山塾の基本的な説明をしておきます。
まず青山塾には3つクラスがあります。
ベーシック科、イラストレーション科、ドローイング科です。
そして3名の講師の方々、作田えつ子先生、井筒啓之先生、木内達朗先生が教えてくださいます。
ベーシック科は3名の先生が担任という形になっていて授業の回数はほぼ均等です。
イラスト科は木内先生が担任、ドローイング科は作田先生と井筒先生が担任です。
僕は1年目ベーシック科に通いました。
これは青山塾を修了した友達が2年行って1年目はベーシック科、2年目は好きな科に行けばいいよと言っていたからです。
もし1年目どの科に行くか迷っている人がいたら僕もベーシック科をおすすめします。ベーシック科は在籍されている3名の先生の授業をバランスよく受けられます。
そしてベーシック科に通っていく中でもっと教えてもらいたいと思った先生の科(あるいはもっと受けたい授業のある科)を2年目に選ぶというのがオーソドックスな流れだと思います。
そしてもう一つ、ベーシック科は青山塾に通うのが初めての人が殆どなので友達が作りやすいという点もあります。授業内容も初めて青山塾に通っているということを前提に作ってあります(レベル自体は高いです)。
入塾を検討中の方に、青山塾の修了生であり、活躍されているイラストレーター船津真琴さんのnoteを載せておきます。前回書き忘れました。
青山塾を紹介する記事です。とても心を動かされました。
授業について
授業は大きく分けて2つあります。1つ目は実技の授業。2つ目は課題講評の授業です。
実技の授業はまずその日のテーマ(例えば明度差について)について軽く説明を受け、残りの時間で実際に描いていくというものです。
最初の説明が殆どなくモデルの方を見てドローイングしていくという授業もあります。
課題講評は出されたテーマに沿った課題の絵を授業外の時間で描き、授業の時間に先生が講評するというものです。
課題はだいたい2週間前に発表されます。
Zoomで行われることもあれば教室で行うこともあります。
僕は課題講評が青山塾の目玉授業だと思っています。思い出が多いのも課題講評の授業です。
課題は「赤」とかシンプルなものもあれば「秋のモチーフを使わずに秋を表現する」といった複雑なものもあります。
課題講評の授業はまずホワイトボードに自分が描いてきた絵を張り出すところから始まります。
ずらっと並んだクラスメイトの作品を見ていると、この時点で講評を受けていなくても自分の描いてきた絵がどうなのか何となく分かってしまいます。
その後先生が課題の趣旨を説明し、1人数分間ずつ講評を受けていくことになります。
自分の番が来るまでは生きた心地がしません。
いい絵が描けなかったと思う日は何か奇跡を願い、上手く描けたと思う日には何か致命的な見落としをしているのではないかと恐れおののくことになります。実際両方ありました。
絵の具で描けるかという不安
入る前は不安だらけですがその中でも大きな不安がありました。
絵の具を殆ど使ったことがないということです。
僕は絵の具を使ったことがほぼありませんでした。
特に2020年の11月、絵を描くぞと思い立ってからは1度もありません。
ずっとデジタルで製作していました。
だからまず何をどうすればいいのか分からないという状態でした。
だいたいの課題は画材が自由ですが、実技は殆どアクリルガッシュを使います。
入る前は最低限絵の具を使って課題はデジタル(iPadのProcreate)で製作しようと思っていました。
ベーシック科の思い出
思い出深い授業を振り返っていきます。
だいぶうろ覚えなので合っていない部分もあると思います。
初めての授業
初めての授業は作田先生のドローイングの授業でした。
B4サイズの紙に配られた写真の女性をアウトラインで描くというものです。20分くらい描いて、いったん講評です。
あまり上手くいっていないのは分かっていました。
そもそも僕は線画がとても苦手なんです。
張り出されたクラスメイトの絵を見ると色んな人がいました(多分)。
綺麗な線で苦労せずに描いている人、逆に苦労しただろうけど精一杯描いたことが伝わる人。
作田先生はゆっくり、丁寧に、紙いっぱいに描くのよと仰っていたと思います。
素直に言われた全力で通り描いてみます。
急に上手くなったりはしません。
でも自分の線が全然違うことに驚きました。確かに何か掴んだぞと思いました。
この体験、掴んだものがとても大事でした。
そして無意識のうちに授業への取り組み方を方向づけたように思います。
それは全力でやるということです。
下手で恥ずかしいんですがそれでも全力で取り組んでみる。ちなみに線画は今でも苦手です。
初めての講評
5月になって初めて課題講評の授業がありました。テーマは「赤」です。3枚まで提出していいとのことです。
雰囲気も何も分からないので何枚かiPadでラフを描いてみてよかったものを絵の具で清書してみました。
講評の時間がやってきます。
明らかに自分よりも上手な人が何人か(あるいは何人も)います。
しかし井筒先生の評価は意外なものでした。
いい絵どうかではなく、見た人が何も言われなくても「赤」というテーマが分かるかという軸で評価しているんです。
僕の絵を見て井筒先生は「下手なことを抜きにして100点」と仰いました。とても嬉しくてよく覚えています。
僕は(特に青山塾で取り扱う意味での)イラストレーションは「伝えるもの」ということを何となく理解しました。
井筒先生のモデルドローイング授業
井筒先生の名物授業モデルドローイングについても書いておきます。
モデルドローイングとはモデルさんを見ながらドローイングする授業です。
この場合のドローイングとは毛筆の習字のようにアタリをとったりせず、極力線を消したりもせず描くことを意味します(多分)。
授業の最後にみんなの作品を前に張り出して軽く講評してもらいます。
僕はこの授業がとても苦手でした。単純に下手だからです。
僕は線が苦手なんですが、見たものを紙に描写するバランス感覚もないんです。
人の顔や形を見た通りに描けなくてバランスが狂ってしまいます。
結局4回あったモデル授業で褒められたことは1回もなかったと思います。
井筒先生が授業内の時間に一緒に描いた絵を見せていただいたことがあるんですが驚きました。
特別なことをしていないのに井筒先生が描いたということが分かるんです。多分100人が描いた中からでも分かると思います。
木内先生の講評
木内先生とは初めての授業の時に少し時間をとって面談をします。
自分が描いたお気に入りの絵を見ていただきながら話すんですが、反応は良くありませんでした。
その日のために1か月くらいかけた絵を持って行ったんですが、それをスルーして「うーんこれは結構いいんじゃないですか」と間に合わせで入れたスケッチを指さしていました。
好きな、絵を描く人も挙げるんですが、みんな流行りのイラストレーターですねと一言。
僕は憧れのイラストレーターである木内先生と初めて話す緊張で言葉もろくに出てきません。
最後にはもっとイラストレーター以外にも色々な人の絵を見るといいですよと仰っていました。
木内先生との面談は少し苦い思い出となって終わります。
6月になって初めて木内先生の講評があります。
テーマは「裏」です。
僕はとても頑張って描きます。とてもとても頑張って描きます。
講評前日、夜なべしながら泣きたい気持ちでした。
どうしても出来上がりつつある絵がいいものに思えなかったからです。
(長時間絵を描いていると良し悪しを判断できなくなります)
泣きたい気持ちで迎えた講評、木内先生の第一声は「かっこいいですね」でした。
とても嬉しかったです。
そして、この調子でアクリルガッシュで描いていくといいと思いますよという言葉をいただきました。
単純な僕はそれ以後絵の具で描いていこうと思います。
描いた絵のダイジェスト
ここからは描いた絵のダイジェストです。
一年通して
ベーシック科はとても勉強になりました。
絵を描く力と価値観についての成長を振り返ってみます。
まずペインティングの技術については特筆すべきことはないように思います。
描いた分だけ順当に技術が上がっていったという感じです。
成長したもののまだまだこれからだなと思っていました。
価値観については大きく変化がありました。
大きく分けると以下の通りです。
絵の具を使っていこうと思う
いい絵の概念が変わった
見たことがない絵を描きたい
絵の具を使っていこう
「デジタルは描かせてくれる」
どのタイミングで聞いたのかは忘れましたが木内先生の言葉です。
実際に絵の具を使ってみてあまりにも描けないので驚きました。
入る前は「課題はすべてデジタルで描くぞ」と思っていました。
でも結局1つ目の課題で絵の具を使ってみてからずっと絵の具を使い続けています。
上手く描けなくて悔しくて絵の具を使おうと思った面もあります。
でも結局は絵の具が楽しいから、いい絵を作れるからという理由の方が大きいと思います。
絵の具で描くと全てをコントロールできません。その分偶然が生まれます。特に質感に大きく表れると思います。
ムラやカスレが意図せず良くなることが多々あります。
いい絵の概念が変わった
それまでは現実的ではない描写の絵の魅力がよく分かりませんでした。
青山塾に通って色々な人の絵をみたためかいいなと思う絵が多くなりました。
これはとても大きな成果だと思います。
例えばパウルクレーの「花開いて」です。
四角の配置や色の使い方、明度の使い方などがいいなと思いました。
色んな絵の良さが分かれば分かるほど、自分の絵にもその良さを反映できるということにも気付きました。
描くことと同時に見ることも大切にしていこうと思ったのでした。
見たことがない絵を描きたい
ひたすら課題を描いていくうちに何となく目標ができました。
見たことがない絵を描きたい。
描いた絵を並べて見たときに描き方にばらつきがあるのは色々模索しているからだと思います。
どう描いていくか定まらず苦しかったのですが、焦らず色々やってみようという気持ちもありました。
まとめ
イラストレーターを志す人は小さいころから絵が好きで描いてきたという人が多いようです。それはベーシック科でも同じでした。
レベルが高く、授業についていくのに精いっぱいでした。
課題講評でいい絵を提出できなくて、たくさん落ち込みました。
いい絵を描くクラスメイトにたくさん嫉妬もしました。
青山塾に入ってすぐに他の人との差に驚いて、それからなるべく素直に授業を受けようと努めました。
結果として絵を描いた経験が乏しいのは良かったと思います。
RPGのようにレベルが低いうちはどんどん成長していきます。
成長していける実感がモチベーションになっていたと思います。
青山塾とは直接関係ないのですが、授業が終わった後には毎週のようにクラスメイトとお酒を飲みに行きました。
授業を振り返りながら一緒に飲むビールはとても美味しいです。
これはやはり教室に通って一緒に授業を受ける醍醐味だと思います。
時々先生が参加して下さることもあって楽しかったです。
だいぶ長くなりましたが1年目は終わりです。
次回で最後です。2年目イラストレーション科のことを書いていきます。