ストップ メイキング センス
今年の2月、東京で病み、休職させてもらったおかげで時間を持て余していた私は、何度も池袋の映画館に足を運んだ。この期間に観た作品は、いちいち自分の心に刺さったのだが、この作品は逆に刺さった棘を抜いてくれて空っぽにしてくれたように感じ、ありがたかった。40年前のライブ映像を4K仕様にレストアした作品だが、IMAXの迫力画面と迫力音響、そしてこのバンドのメンバー、特にフロントマンのデビッド・バーンと、ベースのティナ・ウェイマスのカッコよさに痺れた。
1983年のライブ。当時13歳、中学生だった私は兄の影響もあり、洋楽ばかりを聴いてはいたが、トーキングヘッズはそんな私にとっても尖りすぎていて、近寄りがたい存在だった。デュラン・デュランやカルチャークラブ、トンプソンツインズやメンアットワーク、駆け出しの洋楽ファンだった私の情報源はベストヒットUSAがメインで、当時のメジャーヒット楽曲で十分刺激的だったのだ。そこからFMラジオや雑誌(ロッキングオンやミュージックライフ)に後々食指を伸ばしていくことになるのだが、結局トーキングヘッズは深堀りしないまま、この歳になってしまっていた。「私たち、尖ってて洗練された音楽やってます」という少しお高くとまっているような印象を持っていたトーキングヘッズ。彼らの音楽が、こんなにもカッコよくて、ソウルフルだとは思わなかった。今、聴いてもまったく古さを感じさせない。
音楽ライブと音楽ライブ映画は、同じようで違う。音楽ライブは同時間を共有する聴衆との一体感がその最大の魅力で、これは映画ではまったく敵わないのだけど、映画は映像をどう切り取るかで、音楽の背景にある物語を感じることができる。ただ音源を聴くだけでは気が付かないそのアーティストへの思いが深まっていく。この作品の監督が「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミだから、というのもあるだろう。メンバー一人一人の個性がよく伝わってくる。特にベースのティナ・ウェイマスが印象的だった。大人の美しさがあるのに、女の子の可愛いさもある。自由なのに献身的で、尖っているのに優しい。恐るべしのギャップ萌え。
IMAXの上下左右の大画面のせいもあるが、我を忘れての没入っぷりだった。気が付いたら自分の体も揺れていて、嫌なことをすべて忘れさせてくれた。MAKE SENSEとは「筋が通る」とか「つじつまが合う」という意味。なのでこの映画に激しく同意しながら邦題をつけるとするなら「ロジカルシンキングなんてやめちまえ!」ということになる。まさにこの作品は、頭で考えるような作品ではない。頭を使わずに、心が、体がどう感じるか、に任せてただただ楽しめばよい。そういう風にちゃんと考えて作ってあるのが、憎たらしい。