パーフェクトデイズ
昨年末から年初にかけて、映画好きの範疇を超えて広く話題になったこの映画を今さら語るのは憚られる。でも「好きな映画は何?」と映画好きな人に訊かれると、50%以上の確率で「ベルリン天使の詩」と答えて来た私にとって、ヴィム・ベンダース監督の作品は特別なのだ。ヴェンダースの「都会のアリス」「パリ・テキサス」そして「ベルリン」はどれも印象的で、その中でも特に小津安二郎の影響を強く受けていると勝手に私が思っている「ベルリン」は、学生時代、レンタルビデオをダビングしたVHSテープが擦り切れるほど何度も繰り返し再生した。(当時はこういう著作権を侵害する行為を罪悪感なくできてしまうおおらかな時代だった、レンタルビデオはツメが折られていたが、その穴にセロテープを貼れば簡単にコピーができた。)
ベルリンも東京物語も、鑑賞後に私が抱く気持ちはほぼ同じ。多分、ヴェンダースの小津解釈に私もいたく共感しているのだと思う。取るに足らないつまらない日常、人に優しくなれず自分のことで精一杯の日常。でもそんな日常にも、感動的なこと、ささやかな幸せ、生きることの価値を見つけることはできる。限りある命を生きる意味はここにある。小津もヴェンダースも、優しい天使の視線で人間讃歌をうたっていた。ベルリンから35年を経てリリースされたパーフェクデイズも、より日本人にわかりやすいカタチで、そのテーマを貫いていた。主人公平沼を演じた役所広司の演技も良かった。普通のおじさんを見事に演じた。
サントリーBOSSのCMで、トミーリージョーンズの宇宙人のシリーズはもう20年くらい続いている名作だが、私はこのキャッチコピー「このろくでもなき、素晴らしき世界」が大好きだ。この世の中はろくでもない。でも、それでも何物にも代え難い素晴らしいものだ」小津やヴェンダースが言ってることと一緒ではないか。
ヴェンダースの映画のおかげで、若い頃から「幸せとは何か」について自分なりの考えを持つことができていた。自己顕示欲や虚栄心に振り回されない人生を歩むことが少しはできたような気がする。だから、パーフェクトデイズを観て、54歳になった自分との答え合わせができたような気がして、嬉しかった。
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