きたじまさん

しがないフロント 分譲マンションの難しさと複雑さと興味深さと

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マガジン

  • 世にもよくある物語

    マンション管理の世界でよくあるどこかの日常を切り取ったお話を集めました、全てフィクションです。1本3分で読めます

  • 新人フロントさくらの奮闘記

    新人フロント花井さくらちゃんが一人前のフロントになるまでのすったもんだの物語です。

最近の記事

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マンション管理という仕事〜フロントとして生きている〜

なんだかでっかいタイトルになってしまったが、わたしは新卒で今の会社に入ってから、約10年間ずっとマンション管理の担当者、いわゆるフロントという仕事をやっている。 フロントって何?って人がいると思うので、ざっくり説明すると、分譲マンションに住む人たちは、マンションを維持管理するために管理組合という団体を作る。作るというか、勝手に作られて所属する。 その居住者たちの集まりである管理組合が主体となって清掃や会計や修繕や各種苦情対応等をするのは大変なので、一般的には管理会社と言わ

    • とうとう訪れた、その日

      ふとこの方の記事を読んで思い立ったので書いてみた。 フロントは常に人手が足りない。気がする。 というか、現実、本当に足りない。 これは、近未来のような、近い未来のような、そんなフィクション。きっと、フィクション。 その日は暑い夜だった。陽が落ちても三十度を越える気温で、冷房が手放せない8月の初旬。佐藤の部屋のインターホンが鳴った。 「佐藤さん、とうとう、きましたよ、うちにも解約通知。」 そうため息をついて言ったのは、理事長の田中だった。 「3ヶ月後です、、、いつ

      • Q.大規模修繕工事を行う理由について

        例の記事、読んだか? え?なんの話ですか? 今、Twitterのマンションクラスタ界隈で盛り上がってるやつだよ、 ああ、これですか? へー…なかなか面白いこと書いてますねw じゃあ、問題。 とあるマンションが、大規模修繕工事を計画的にやるべき理由を、ソフト面、コンプライアンス面、経済面のそれぞれの側面から説明してくれ。 なんですか、その問題?受験問題みたいですね。 こういうの答えられて、正しい方向に管理組合を導けてこそのフロントだろ? じゃあ、まずは、ソフト

        • 大規模修繕工事のすゝめ(後編)

          前編はこちら 会社に戻った花井は、早速理事長の田辺に連絡を取った。出来る限りの手伝いをするので、なんとか無事に総会を迎えましょう、そう声掛けしたものの、田辺の声は暗かった。 花井は、手元資料に、必要と思われる内容を列記していった。 今回の大規模修繕工事の概要、施工会社、予算、予備費の使途、下地数量の工事前後比較、建物の特徴、今回の工事の要点、次回工事のための注意点、引き継ぎ事項、今回工事の除外箇所、アフターサービス概要、アフターサービス点検予定、保証期間一覧… 「桐生

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        • 世にもよくある物語
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        • 新人フロントさくらの奮闘記
          9本

        記事

          大規模修繕工事のすゝめ(前編)

          管理組合において、組合員は持っている持分に差はあれど、どの組合員も平等だ。偉い人もそうでない人も、管理組合の前では、ただの一組合員だ。 そんな一組合員に、どこまでの責任を求めるのか?その期待にどこまで答えるのか? 世帯数50世帯に対して、出された設計見積金額は8000万。 足りない。元々、6000万の予定だったのだ。大規模修繕修繕のための劣化調査をしたら、金額が跳ね上がって出てきた。 こんな杜撰な金額を出してくる管理会社を、設計監理会社にしていいのか? そういう声が

          大規模修繕工事のすゝめ(前編)

          虎として生まれて

          何故こんな運命になったか判らぬと、先刻は言ったが、しかし、考えように依れば、思い当ることが全然ないでもない。 理事長であった時、己は努めて人との交わりを避けた。理事は己を倨傲だ、尊大だといった。実は、それが殆ど羞恥心に近いものであることを、理事は知らなかった。 勿論、曾て建築に携わり凄腕といわれた自分に、自尊心が無かったとは云わない。しかし、それは臆病な自尊心とでもいうべきものであった。 そう、反省できるのは、山月記が物語であるからだ。 本物の虎は、そうはいかない。

          虎として生まれて

          新人教育について本気出して考えてみたら恵方巻を売る気になってきた話

          最近、中途入社向けのOJTのような、新人教育研修を任されることがあり、結構日々楽しくしている。 新しいものを覚えていく新人さんたちは、 まだ目が曇っていなくて、 返事がはっきりしていて、 新しい業務やプラスアルファの作業に文句を言わない。 最高だ。 彼ら彼女らをこのままキラキラした状態で保存してあげられないものか、とミイラ作成みたいなことを考えたときに、この仕事の極意、とまではいかなくてもコツとか教えてあげられないものだろうか、と思った。 精神論的な話でいけば、これまで

          新人教育について本気出して考えてみたら恵方巻を売る気になってきた話

          それでもわたしたちは怒られるようにできている

          「あなたたちのせいでとんでもないことになったんですよ。謝ってください。」 シンとした薄暗い公民館の一室に声が響いた。 「吉本課長、そろそろ、花井も3年目になりましたし、マウステージ西大島を引き継ごうと思うんですが」 「そうだな、、桐生がいつまでもやる組合じゃないしな」 「確かにそうなんすけどね、まあ、言ったらアンチな組合ですからね、、大丈夫かな…」 マウステージ西大島は、築16年を迎えた、低層ファミリーマンションである。 桐生が担当してもう4年になるこのマンション

          それでもわたしたちは怒られるようにできている

          駐車場トラブルとマンションにとってのルールの話

          ↑この翌週のお話です 先週起こった、花井のラーメン屋号泣事件について、有田から桐生に報告した。 「俺が休みの間にそんなことがあったんだ、有田対応ありがとなー」 「そうなんです!有田さんのおかげでなんとかなったので大丈夫です!本当ありがとうございます、ご迷惑お掛けして本当に申し訳ありません!」 「まあ、誰でも通る道だから、ちゃんと次に生かせばいいんだよ、結果なんとかなったし。課長にはお礼言っておいてね」 「まあたしかに駐車場問題って厄介だよなー」 「…でもわたしから

          駐車場トラブルとマンションにとってのルールの話

          深夜のラーメン屋で流した涙と駐車場トラブルについて

          「もし、俺がお前がやったようなミスをしたら、一つの会社が潰れるんだ。」 花井は、言われた言葉を何度も何度も頭の中で反芻しては、出てくる涙を堪えながら言った。 「すみません、、わたし、本当に申し訳なくて…」 堪えきれない涙は彼女の丸い瞳を震わせて、そのまま流れていく。 「花井ちゃん、そんなに泣いても仕方ないから、、、」 「とりあえず、伸びるから食え」 「はい…」 ズルズル… 花井が新しく担当したのは、今までよりも少し立地のいい都心にあるマンションだった。 担当

          深夜のラーメン屋で流した涙と駐車場トラブルについて

          正解はひとつじゃない〜新人教育の難しさ〜

          これの続きっぽい話です 🐀「全く…桐生は、教育担当のくせに受け身っていうか人事っていうかだから惜しいんだよなあ…」 「でも桐生さんはいい先輩ですよ!」 🐀「なんか花井ちゃんは、桐生のこと結構信頼しているよね。意外。頼りない!とか思ってそう」 「そんなことないですよ〜 あと、わたし、桐生さんにフロントマンとして大切なこと結構教わってるんです」 🐀「…あいつ、そんな気の利いたこと出来たのか?」 ー1年前の9月某日ー 🐀「花井ちゃん、半年間の研修お疲れ様〜事務所のこと

          正解はひとつじゃない〜新人教育の難しさ〜

          平等ってなんだろう?〜初めてのエレベーター更新〜

          「先輩、、、わたし、何がしたくてこの会社に来たのか分からなくなってきました…」 目の前であからさまにうな垂れる花井の姿を見て、桐生は思った。 「これは花井には荷が重かったかな…」 マンションが30年を超えた頃に、乗り越えなくてはならない壁がある。 それがエレベーター更新だ。 エレベーターは大体マンションの寿命を60年とかで計算した場合の折り返し地点にあたる、30年くらいで交換が必要になる。まさにマンションにとっては一生に一度、の工事である。 なので、フロント担当で

          平等ってなんだろう?〜初めてのエレベーター更新〜

          全戸の給水給湯管更新をした話(後編)

          前編はこちら ありがとうございます!!! 金子は何度も頭を下げた。 そこから、理事会へ今回の漏水の一部始終についての話をして、工事提案と役員選任の話を提案した。 工事については難色を示す役員もいたが、決め手は、太田の一言であった。 「専有部とはいえ、これだけの漏水が発生しているにも関わらず、この工事を進めなかったことは、管理組合の怠慢、ひいては理事長の過失だとして訴えることも考えている、と私は被害者の方から言われました。工事提案をして総会にかけることは、今後の役員を

          全戸の給水給湯管更新をした話(後編)

          全戸の給水給湯管更新をした話(前編)

          前回音の話をしたので、今回からは漏水の話をしたいと思う。 フロントと漏水とは切っても切れない関係にあると思う。 たかが漏水、されど漏水。 第一弾は、全戸の給水給湯管更新をすることになったマンションの物語。 はじまりはじまり… 金子が担当したそのマンションは、ヴィンテージマンションといえば響きはいいが、30年目を迎えた古めのマンションだった。立地がいいこともあり、年月とともに、区分所有者が住まなくなった結果、半分以上の住戸が賃貸に出されており、残りの住戸のオーナーも高

          全戸の給水給湯管更新をした話(前編)

          騒音物語〜たかが掲示文、されど掲示文〜

          掲示文ひとつで、こんなことも起こりうるというお話です。作った掲示文の先にあなたは何を見ていますか? 202号室 三上は後悔していた。マンションに住むのは、これが初めてではない。前に住んでいた高井戸のマンションもここよりずっと古かった。それでもこんなに音はしなかったはずだ。 朝起きてから寝るまでずっと音が聞こえている。 あ、今はリビングにいるな。あ、子どもが起きてきた。走っている。掃除機を掛けて、ダイニングテーブルに座っているのか、椅子を引き摺る音がする。 今何をして

          騒音物語〜たかが掲示文、されど掲示文〜

          夢庵で昼食を

          鶴田は、新卒で管理会社に入り、現在5年目を迎える心優しい青年であった。 鶴田はおどおどしたところがあり、いわゆる仕事が出来る方ではなかった。同期とも比べられてはダメ出しされ、同僚にもいじられ、部下であるはずの管理員から、担当者を変えてくれと言われることもあった。 鶴田は、フロントの必須資格である、管理業務主任者を持っていなかった。ここ4年間、ずっと毎年あと一点で落ちていた。 社内では、自己採点で鶴田より一点高ければ合格だぞ、と揶揄する者もいた。 お客様からのアンケートで

          夢庵で昼食を