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カメレオンの目と僕の耳で考える抗菌薬と薬剤耐性

しがない獣医学生です。

大学卒業研修の一環で、エキゾチック動物のクリニックにて4週間研修を受けました。

まあ、とにかく、モルモットとカメが多かったです。あとカメレオンかな。

そんなある日のこと。

一匹のカメレオンがやってきました。飼い主さんによると

  • 弱ってる

  • エサ食べない

  • 排泄しない

  • 目から若干粘性の液体が出てて固まっている

ちなみに、カメレオンは、腎臓病に罹患しやすく、そのまま回復できずに死に至ることが珍しくありません。

で、今回は、カメレオンの目に関して注目したいのですが、まずは細菌検査のためにサンプルを取りました。続いて、目を生理食塩水で洗浄しました。と、この段階で、先生が抗菌薬を処方しました。細菌検査の結果はまだ出ていませんが、サルモネラ菌と推定しての処方でした。ちなみに、後日の検査結果はサルモネラ菌でした。

「シプロフロキサシン (ciprofloxacin)」です。

液体で目薬の容量で使用するタイプ


シプロフロキサシン (CPFX)とは、第二世代ニューキノロン系抗菌剤 です。主に、グラム陰性菌に対して高い効果を発揮します。

シプロフロキサシンは、AMEG - Categorisation of antibiotics in the European Unionで「Category B: “Restrict”」に分類されています。

「Antibiotics in this category are critically important in human medicine and use in animals should be restricted to mitigate the risk to public health. Should only be used in veterinary medicine when no alternative from category C or D could be clinically effective. Especially for this category, use should be based on susceptibility testing, whenever possible.」

「このカテゴリーの抗生物質は人間の医療において極めて重要であり、公衆衛生へのリスクを軽減するために動物での使用は制限されるべきである。獣医療においては、カテゴリーCまたはDの代替手段が臨床的に有効でない場合にのみ使用するできである。特にこのカテゴリーにおいては、可能な限り感受性試験に基づいて使用を判断すべきである。」

んー。このカメレオンの場合、爬虫類はサルモネラ菌を持ってることが多いから、そうだと仮定して、いきなりシプロフロキサシンでいいのかな。というか、生理食塩水で洗ったら、かなり綺麗になってるけど、このタイミングで抗菌薬必要なんかな?今回の抗菌薬使用のメリットとデメリットはなんだろう?これが、理論と現実の違いなのかなーとか思いながら、どうするのが適切なんだろうと考えていました。

抗菌薬と薬剤耐性菌の問題:対策を講じず、耐性率が現在のペースで増加し続けた場合、2050年には年間1,000万人が死亡すると予測されており、これは現在のがんによる死亡者数を上回る見込み。

とまあ、あれこれ思索に耽っていると、
数日後、風邪をひきました。鼻水が止まらない。咳が出る。
病院へ行きました。

すると、耳道が赤い。耳かきのしすぎがバレました。癖なんです。
よくないですね。

で、僕の耳に抗菌薬が処方されました。

薬局にいくと、見覚えのあるパッケージ。
「おい、これ、この前、カメレオンの目にやったやつやんけ!ワテの耳はカメレオンと同レベルなんかい!」と心の中で叫びました。


獣医療分野では、まだまだ人医療の薬剤を使用しています。抗菌剤も例外ではないです。

「まじかー。これええの?なんかなー」って感じで、会計を済ませました。

すると、さらに数日後、一匹のウサギがやってきました。
片手間だったので、よく覚えていないのですが、そのウサギの耳にシプロフロキサシンが処方されてました。

「ワテの耳は、ウサギちゃんの耳です。」と心の中で呟きながら、将来の薬剤耐性問題への恐怖にそっと蓋をして、僕は自分の作業を続けました。

僕は、いきものが大好きです。カメレオンもウサギも好きです。ただ、エキゾチック動物をペットにするのは、反対派です。密猟密輸や病原菌拡散や放流による生態系への影響などの問題を考慮し、もう身近なペットは犬猫でいいやんと思ってます。

例えば、モルモットは尿路感染が多いです。そしたら、スルファメトキサゾール/トリメトプリム配合剤を処方。マジで、めちゃくちゃ用意しました。他にはカメがよくきていましたが、条件付特定外来生物のミシシッピアカミミガメが多く、「そんなやつには何があっても抗菌薬を使うな」とつい心の中で思ってしまいます。決して、カメを愛してはいけないといっているのではないんです。その人にとっては大切な家族だということ、重々承知です。僕も幼き頃は縁日で手に入れたミシシッピアカミミガメを飼っていました。石の間に挟まって、溺れて死んでしまいましたが。

エキゾチックペットとして、個人の下で様々ないきものが飼われ始めると、多方面で厄介ごとが増えると思います。
犬猫以外のいきものは、動物園など特定の管理下でのみ、安全に触れ合うのでいいんではないでしょうか?

エキゾチック動物のペット化禁止は、薬剤耐性菌の増加を防ぐ一手にならないでしょうか?
あるいは、極端に爬虫類ペットには抗菌薬の使用を禁ずるとかなら効果的でしょうか?

まあ、ヒトから犬猫に耐性菌が拡がっている可能性があるかもしれないし、僕が風邪と診断された際にレボフロキサシンが処方されたことがあったり、何かあればとりあえず抗菌剤を要求する飼い主さんがいたり、

とても複雑に絡み合ったこの薬剤耐性菌問題には、非医療関係者個人にもある程度の知識が必要であり、獣医療業界と人医療業界の足踏みを揃える必要もありますね。

んー。難しいなー。

と耳かきに勤しむしがない獣医学生でした。

ちゃんちゃん。


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