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#15 【書評】体験格差

皆さんはこの「体験格差」という言葉をそもそも聞いたことがあるだろうか。

経済格差でも教育格差でもなく、体験格差。

自然・文化・社会的に必要である様々な体験を十分に受けることができないことを表現している。

今回はこの第3の格差である体験格差についての本を紹介する。

今井悠介氏著『体験格差』。本書では実際に体験格差に直面している家庭に向けた支援を行っている筆者がデータとリアルな当事者とのインタビューをもとにこの体験格差をなくしていくために必要なことを記している。

実際に支援を行っている方というわけで、なかなかリアルな現状が見えてくる。特に本書中盤における体験格差当事者の方々に行ったインタビューは、それぞれの方がどれほど大変な思いをして生活をしているのかがよくわかる。

そしてそれは全く人ごとではないということ、社会としてなんとか助けていかなければならないということをひしひしと感じさせられた。

体験は贅沢品か?

まずここで問われている体験とはどんなものなのかを定義しておこう。

体験とは、文化的・社会的な娯楽であったり、自然に触れ合うなどといった様々なものを指している。具体的には旅行や習い事、休日のお出かけなど多岐にわたる。

体験格差がこれまであまり日の目を見てこなかった理由はいくつかあるが、一つに「体験は必需品ではない」という認識があったからだ。

つまり体験はなくても生きていける。つまり体験は無駄なもの=贅沢なものとして、経済的・社会的に余裕のある人だけが行うものと思われてしまっているのだ。

しかし、体験というのは嗜好品ではなく、生きていくのに必要な必需品である。経験というのはお金よりも尊いものであるし特に子供の頃の体験というのは大人になっても覚えているものだ。

何より体験というのは、その人の選択肢の幅を広める。楽器を弾く体験を一度もしたことがない人間が、将来演奏家になりたいとは言わないだろう。

自分で体験したことでなければその人の選択にそもそも入ることがない。つまり、体験の格差はそれだけ将来的な選択肢の幅が小さくなってしまうのだ。これがこの「体験格差」の残酷な部分なのである。        

再生産されてしまう現実

さらにこのような格差は再生産されていることが多い。

現状貧困に苦しんでいる親もまた、自分が幼少期の頃同じような境遇に陥っていた場合がかなり多く、実際本書に登場する方々もシングルマザーの方が多く、そのシングルマザー自身が子供の時は同じようにその母親がシングルマザーだった場合がほとんどだ。

この問題が難しいのは、この再生産のループにハマってしまうとどんどんと悪い方向に進んでいってしまうことだ。運よく抜けられるか、誰かかが梃入れしなければその子供、またさらにその子供とどんどん連なっていく。

一体どうすればいいのかいいのか、正直私にはわからない。そりゃ私が思いついたアイデアで解決するような問題なら今こうして困ることもない。

多分この問題は何かこれ!という解決策が生まれて解決する問題ではない。雑草を抜くように日々少しずつ地道な活動を通していくしかこの問題は解決できない。

そうしていくには我々が自分の生活ではないどこかで、全く違う生活をしている人がいる、自分は恵まれているのだからこそその分を誰かに還元してあげよう、そう思うのが大切なのではないだろうか。

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