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【二次小説】『待ち時間には昔のアルバムでも』

「アッサム様!こんなものを見つけましたわ!!」

ローズヒップさんの大きな声がダージリン様のプライベートルームに響き渡った。彼女が持っているその分厚い冊子には『MEMORIES』という文字が金色の箔押しで刻まれていた。

「大きな声を出すんじゃありません、ローズヒップ。はしたないですよ」

たしなめるように言いつつアッサム様が冊子を受け取る。私は紅茶の準備をしながら皆の声に耳を傾けている。
アッサム様の隣に座るダージリン様が少し呆れたように言った。

「よく見つけたわね。奥の方の棚にあったはずなのに」

「ダージリン、これはいわゆるアルバムでしょう?私たちが見てもいいの?」

確認するアッサム様にダージリン様は頷いて見せた。なんだか普段より照れている気がしたのは私だけだろうか?
お礼を言ってアッサム様が冊子をめくった。ローズヒップさんも食い入るように顔を近付けている。

「これって小さい頃のダージリン様ですか?可愛らしいですわぁ~!」

「本当ね。髪型も今とは全然違うからなんだかとても新鮮だわ」

私も二人の後ろからアルバムを覗き込む。小さい頃のダージリン様が青空を背にしてこちらにピースサインをしていた。弾けるような笑顔が印象的で目を引かれる。

「ダージリン様も昔はこういう快活な女の子だったんですね」

私たちの反応を見ていたダージリン様はちょっと笑ってから言葉を紡いだ。

「フフ。目の前で昔の自分について話されるってなんだか不思議ね。今も昔も私は私なのに、こうして見るとやっぱり全然違うものね」

ダージリン様は少し懐かしそうに目を細めた。

「私もまだまだ未熟者ですが、ダージリン様みたいなお嬢様になれるようさらに精進致しますですわ!!」

ローズヒップさんが目を爛々と輝かせながら言った。

「そう思うならまずは部屋の中での声の大きさをきちんと守りなさい、ローズヒップ」

苦笑しながらアッサム様がローズヒップさんを落ち着かせる。いつもの私たちの光景だ。
私はティーセットを運んで来ながら皆に声をかけた。

「お待たせしました。紅茶の御用意ができましたよ」

「ありがとう、オレンジ・ペコ」

ダージリン様がカップを手に取り香りを確かめた。口元が満足したように綻ぶ。
アッサム様が再び口を開いた。

「それではオレンジ・ペコがティーセットを用意してくれたことだし、そろそろダージリンのお誕生日会を始めましょうか。ダージリン、乾杯の挨拶をお願い」

カップを目の高さに持ってきてダージリン様がいつもの口調で告げた。

「皆、今日はありがとう。素敵な時間にしましょうね。・・・・・・乾杯」

「「「乾杯!」」」

紅茶の熱さが心地よく口の中に広がった。いつも通りの、けれどもいつもより特別な時間が始まるのを感じる。

-こんな楽しい時間も、いつかは変わりゆくのだろうか?-

ふと、そんなことを想った。写真の幼くてお転婆に見えたダージリン様が今は気品溢れる淑女へと成長したように、私たちが一緒にいて過ごすこの時間も、いつかは移り変わってゆくのだろうか?

けれど、それでいいのかもしれない。変わることは決して悪いことではない。少なくとも、何かを大切にしたり、さらに高みを目指したいと願うのならば、変わってゆくことは必然なのだ。変わるから、前に進めることもある。
いつか必ず、私にも訪れるだろう。「変化の時」が。それを嘆く自分ではなく、きちんと向き合える自分でいよう。そう想った。

「この世で変わらないのは、変わるということだけだ」

突然隣から聞こえてきた静かな声に驚いて目を向けた。ダージリン様の優しい目が私を見つめていた。あたかも、たった今の私の逡巡を全て見透かしているかのように。
僅かな時間、見つめ合ってから私たちは声を出さずに微笑み合った。横ではローズヒップさんがまた何かをアッサム様に注意されている。私はカップを置いてからダージリン様の方に視線を戻した。

「ジョナサン・スウィフトですね」

「正解」

ダージリン様が嬉しそうに微笑みながらウインクした。


〈FIN〉

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