吉野拾遺 上 01 主上吉野ノ宮ニテ御歌ノ事

【主上吉野ノ宮ニテ御歌ノ事】

 先帝の御世、世の中うつりかはりてもてきて、吉野の仮宮にわたらせ給ひ、憂かりし年も、事のさわぎの内にくれはてて、春たつといふばかりはる御節会のさまもいとかなし。きさらぎの半過ぎゆくほどに、御庭の桜のやうやう咲き出でたるを御覧ぜさせ給ひて、匂当の内侍に仰せられける御歌、

 ここにても雲ゐのさくら咲きにけり ただかりそめのやどとおもへど

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