吉野拾遺 上 02 天女ノ歌ノ事

【天女ノ歌ノ事】

おなじ帝、豊明の節会をせさせ給へるに、あまりにかたばかりなるありさまを、おぼしなげかせ給ひけるに、袖振山のまぢかく見えわたりければ

 袖かへす天津をとめもおもひいでよ よしののみやのむかしがたりを

うちなげかせ給うて、月ふくる迄おはしましけるに、御夢ともなく、袖ふる山の上よりしら雲のたなびきて、南殿の御庭の冬がれし桜の木末にとどまりけるに、それかとばかりおぼしやらせ給へるに、をとめの姿うちしをれたるが

 かへしなば雨とやふらむあはれしれ 天津をとめの袖のけしきを

となくなく詠じて、雲にかくれたるを、ご覧じおくらせ給うて、御心ぼそげにわたらせ給ひし御ありさま、わすられがたくこそ。

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