本を読ませてくれない喫茶店
初めて降りたつ駅。どちらに向かっていいのかわからず、もたもたしてると14時をすぎてしまった。ランチは14時までなのだ。まあいっか。
ドアを開けると優しそうなおかみさん。
一人なのに広い席に案内してくれる。
ランチ価格にならないのならコーヒーか紅茶以外にしてみよう。
「スパイシーカレーとアップルティーください」
「もし普通のコーヒーでもよければセットがありますよ」
「14時すぎてますが大丈夫ですか?」
「大丈夫です。」
「レモンティーお願いします。」
わーい。
じゃあその浮いた分あとで珈琲も飲もうかな♡
読もうと思って持ってきていた本を開く。
奥の席に10代後半か20代前半くらいの若い女性が座った。おかみさんが注文を取りに行くと
「まだ決まってなくて…」
「お食事なさいますか?」
「それも含めて決めたくて…」
まず、喫茶店に若い女性がいるだけでも、
おっ。となるのに、はきはき喋る姿がなんとなく気になる。若いのに珍しいなあと思ってたら
「○○の娘です。覚えてますか?」
奥の席に座った若い女性がおやっさんに話しかけた。
「ああ!あの○○さん、△△のコーヒー豆が好きなね、盛岡出身だよね、あの娘さんかあ。お母さんのお腹にいる時から知ってるよ、もうこんなに大きくなっちゃったの?」
個人情報もなんのその。
ランチが終わって落ち着いた店内。
おやっさんは女性の近くの席に座って話し込む。
なるほどね。昔よく来てたのね。
この、親に連れられて来てた子供が大人になって友人と来るのって、なんか良いよね。
サラダ到着。
開いた本を閉じる。
普通なんだけど美味しいやつ。
作り置きじゃなくて、ちゃんと、今、作りました的なね。
すぐにカレー。
すっっっっごくいい匂い!
今度は誰とこようかな。とりあえず夫は連れてこなきゃだわ。誰かを連れて行きたくなる店。
レモンティーが届く。
さて、本を読もうとすると
「はい、ピース。」
さっきの女性とおやっさんが写真を撮っている!笑
どうやらご両親は離婚したらしく、両方の親に写真を見せたかったらしい。
個人情報もなんのその、そのニ。
持ってきた本は、
カレルチャペック 山椒魚戦争
作者の響きもよいし、題名もワクワクする。
まず、表紙がかわいい。山椒魚が沢山いる。
山椒魚が知恵をつけて人間と戦うSFらしい。
やーばー。あつい。
さて、読もうか…と
おやっさん、みかんを差し出してカットイン
よかったらどうぞ。
やーばー!!!!!!
あ、あ、あ、ありがとうございます!
みかんでてきた。。。実家かなー。
あのさー。
昔の店ってこうだったよね。なんか色々でてくるの。
まず、おかきがでてきて
サラダ
メイン
コーヒーか紅茶 クッキー付き
最後はバナナ
的な。これでもかって色々。
幸せだなあ。
みかんたーべよっと。
みかんの後はなんだろ、コーヒーか?
いやー合わないなあ。
メニューくださーい。
あ、他の人が頼んだコーヒーの香りが…
やっぱコーヒーだな。
別のお客さんが
「今日のケーキはなんですか?」
おやっさん
「シュー…トレイン…」
「えっ?なに?」
「シュートレインとコンポート」
わたしからおやっさんは見えないのだが、多分何か文字を見ながら喋ってる風。
さっきおかみさん、でてっちゃったんだよなー。
今おかみさんがいないからちょっとわからないのかもな。
おやっさん、もしかしてシュトーレンじゃない?
お客さん
「じゃそのシュー…なんとか」
おやっさん
「シュートレイン…チューチュートレインね」
お客さん
「あーはいはい、チューチュートレインで。」
私、一人静かに爆死。
誰かが一緒にいたら笑いをこらえきれず、
危うく嫌な客になってたと思う。
はい、100万円のおつりね、と同じくらい昭和で愛おしい。
おやっさん、シュトーレンがわからなかったのではなく、チューチュートレインが言いたいがためのわざとなのか?
わからない。わからないままにしておこう。
コーヒーが全然決まらない。
おやっさんがきて
「何にします?」
てきくから
「何にしましょう…バランスが良いのが好きなんです。酸味はちょっと苦手」
「苦味は?」
「苦味は大丈夫です。」
「じゃコロンビアはどうでしょう。」
メニューにはほんのりとした甘みの文字
好きなやつだわ。
「コロンビアでお願いします。」
いいなあ喫茶店。住める。喫茶店に住みたいなあ。いや、わざわざいくのがいいんだよな。
ディズニーランドがすごく好きな人がディズニーランドに住みたい、でもわざわざ行くのがいいんだよねってのと似てると思うんだー。
コロンビアが届く
一口すすった瞬間
おやっさんがひょっこり頭だけ壁からだして
「どう?」
「美味しい♡好きな感じです。」
「よかったー。読む?」
「読む♡」
あれ?岩手日報の号外。
これ、岩手日報の人がわざわざ新幹線で東京に持ってきて配ってたやつじゃない?
お客さんにもらったのかな?
新聞を広げる。
気持ちがよい!
私は新聞を読まないのだが、なぜ夫が砂塚珈琲店を好きになったのかって、新聞が置いてあったから。コーヒーを飲みながら新聞を読むという行為が好きだったらしい。
私は初めて喫茶店で新聞を広げたのだが、思い切り広げて読めるのって快感。これは広々としてるからだ。
いやちがう!
だからー、新聞じゃなくて本を読みたいんだってば。
おかみさんが戻ってきた。
ブロッコリーを一つ買ったはずなのに
二つも入ってる どうしようって。
なに、その不思議すぎる話。
みんな帰ってみんな居なくなった。
私ひとり。
突然おやっさんが話しかけて来た。
「世の中面白くないから、新聞作ろうと思ってね。」
おやっさんが私の斜向かいに座った。
座ったな。。。もう、本を読むのを諦めて閉じた。
「今からその新聞に書くネタを今から四つ話しますから。どれがよいか教えてね。」
「はい…。」
四つの小話が始まる。全てにちゃんとオチがある。話として完成されたものでおもしろくて感心した。
「全部、それぞれ面白いですよ。全部載せたらどうですか。」
「それがさー、文章にすると全然面白くないのよ。」
おやっさんが先月号を持ってきて見せてくれた。
「…
…
…
…ぜんっぜん面白くないですね!」
言っておくが初対面だ。お互い爆笑した。
おかみさんが奥で頷いている。
新聞じゃなくて、しゃべった方が絶対面白いですよ。店の奥で寄席やったらいいんじゃないですか?
そうだよねぇ
というところで、お客さんが入ってきて
おやっさんは何事もなかったようにさっと立ち上がり、お水とメニューを取りに行く。
17時。
私が来たのは14時。3時間もいたのか!?
3時間もいて1ページも本が読めなかった店。
好き。
好きなんだが今の瞬間を逃すと私、帰れなくなりそうだからもう帰るわ。さようなら。またね。
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