【ハーブ天然ものがたり】松明花
ベルガモット香がする松明のような花
晩夏にも花をたのしめる、開花期のながいハーブのひとつに松明花があります。
花のカタチが炎をイメージさせるので松明と名づけられ、原種は緋色ですが白、ピンク、紫などカラフルに花を咲かせます。
葉の香りがミカン科のベルガモット(アールグレイティーの香りづけにつかわれる)に似ているそうでベルガモットと呼ばれることもあります。
松明花は北アメリカ原産で花の蜜がハナバチをさそう蜜源植物でもあり、ビーバームとも呼ばれます。
学名 Monarda didymaから、園芸業界ではモナルダと呼ぶのが一般的なようです。
原産種がアメリカのハーブたちには、自然界を兄弟姉妹と考えていたネイティブの人々の、こまやかでリスペクトのある植物とのつきあいかたを示唆する教えがたくさんのこされています。
松明花はおもに、よりレモンの香りがするもの、レモンとオレガノをブレンドしたような香り、ミントの香りがするものなど種がいろいろあることから、柑橘系のベルガモット香をベースにして多様な香りをたのしめる茶葉となり、くらしに定着していたようです。
飲用以外にも、葉を植物オイルに浸して髪をととのえ、頭皮マッサージなどにも使用していました。
松明花の葉にはチモールという、タイムにも含まれる成分が入っています。
殺菌、消毒、防腐効果があり、ネイティブの人々は浸出液やオイルを吹出物にあてたり、風邪のときは蒸気吸入したりして使用しました。
若きころたずねたアメリカで、オスウェゴティーという名で売られている松明花のハーブをみたことがあります。
オスウェゴ族というネイティブの人々が、アメリカに入植した人々にお茶としての有用なつかいみちを教えたことからその名がつけられたそうです。
赤い花びらもまざっている乾燥ハーブをひとさじもらってくんくん。
オレガノとミントとタイムをまぜたようなハーブなんだな、と感じたのが正直なところで、ベルガモットの名がつくほど香りが似ているというのは、日本にもどって調べてから知りました。
生花の状態ではより柑橘系の香りがするのか、わたしの利きハーブがへっぽこで、五感をつかった官能検査力がとぼしかったのか、ともかくオスウェゴティーからベルガモット、松明花へと線がつながったのは帰国後でした。
オスウェゴティーをみつけたお店は日曜日だけひらかれるテント市のような広場だったので、そこの店主さんは自分で育てた手作りハーブを販売していたのかもしれません。
不眠症や、慢性化した風邪の症状によいと説明してくれ、スチームにして吸引すると即効性があると教えてくれました。
手浴、足浴は洗面器ひとつでおてがるに気分刷新できる方法のひとつですが、顔浴(フェイシャルスチーム)はいつも期待以上の効果を実感できるスグレモノです。
アメリカは1493年から1776年までの植民地時代をへて独立した国で、独立戦争の火種となった事件のひとつに「ボストン茶会事件」があります。
輸入税をとりたて、お茶の貿易を独占しようとしたイギリスに反発して、アメリカに移住した人々がボストン港を襲撃し、船につんでいた茶葉をすべて海に放り投げた事件です。
この騒動でイギリスとの関係が悪化して茶葉が不足したとき、オスウェゴティーが代用品として飲まれるようになり、人気が高まったという逸話がのこされています。
松明花はオスウェゴ族の名がついた茶葉ではありますが、ネイティブ・アメリカンの多くの部族が薬用植物として親しんできた長い歴史をもつハーブのひとつでもあります。
モナルダ属を和名にするとヤグルマハッカ属。
アメリカ固有種で、いつごろ日本にはいってきたのか調べきれませんでしたが、野生種は約15種ほどあり、おもにイギリスで改良された園芸種は50種をこえるそうです。
なんどか日本のハーブ園で松明花をみかけたことがありますが、属名の「ヤグルマハッカ(モナルダ)」と表記されているものもありました。
ナンバー・シックス
スタンディング・ストーンという意味をもつ部族名(英語の発音でオナイダ)のネイティブの人々も、松明花を薬用植物として活用してきた歴史をもっています。
オナイダ族の名は、敵部族に追われて森のなかに誘導され、いよいよ窮地に追いこまれたときに、姿をけして難をのがれたという伝説から、石に姿を変えた立石の民として知られるようになります。
立石の民、または大きな木の民と呼ばれ、5部族(現在は6部族)が戦いをやめて平和を誓い結束したつながりのなかで、「中央の炎を守るもの」となったオナイダ族の人々は、松明花のことを「創造主によって与えられた6番目の薬」と考え、リスペクトをこめて「ナンバー6」と呼んでいたといいます。
数秘術では奥義的に6はすべての赤い花をあらわすもので、太陽の魔法陣(6マス×6マスの正方形)をつくります。
時代も文化もちがうはるか遠い異国の民が「ナンバー6」と称えたことを知ってか知らずか、日本で松明花と名づけられたベルガモット/モナルダは、太陽の化身として地上世界に降ろされた、火の精霊たちの止まり木なのかもしれません。
物質的に計測可能な解釈では、「炎」は気体がもえるときにみられる光と熱で、燃えるほどに周囲の空気の密度をちいさくして、上昇気流を発生させます。
物質的密度がうすまれば、そこには精神性が充満してくるものなんだな、という感覚はいまやわたしにとってのコモンセンス。
瞑想や変性意識へはいる練習をするときは、できるだけモノのない空間のほうがやりやすいと感じることも、ままあります。
世界中にある火祭りは絶えることなく伝承され、日本でも松明の火は神聖なものとして、晩夏に催される祭りや神事、送り火や灯篭流しなど、異界とわたりをつけるための背景もそのままに伝統がうけつがれてきました。
火をもやすことは精神性を優位にして、上昇気流にのって太陽意識にきざはしをかけるという(意図すれば発動される)奥義なのかもしれません。
古の人々が自然界への畏怖をいだいていたころは、火をおこすことも神聖な儀式だったのだろうと想像しています。
夕暮れどきに人々があつまり、香りよい植物の枝をくべて香煙につつまれながら、炎をとりかこみ、神性について語りあうと、肉体を超越する体験へと精神が解放されて、瞬時にすべてのものとのふかいむすびつきや、神聖な感情にひたることができたのではなかろうか、と。
それは現代社会の粋をあつめたエンタメに勝るとも劣らない、今風にいう娯楽みたいなものだったかもしれません。
時間と空間、肉体を超える体験をほんの数秒でもしてしまうと、否が応でもすべてとのつながりを思い出してしまうので、結果森羅万象を敬うことにつながっていったのではないのかな、と。
ネイティブ・アメリカンの人々が伝統的にスマッジスティックやスウェットロッジなど、ハーブの煙や蒸気を神聖な儀式に欠かせないものとしてきたのは、特定の神(あるいは精霊)と、特定の植物とのむすびつきに精通していたからだろうと考えています。
千夜一夜物語に綴られる夢の世界との架け橋や、インド・チベットに伝承される霊的秘儀も、火をともし香煙をくゆらすことからはじまり、内的世界に入ってゆきます。
日本の香文化も繊細な感性をもつ民族らしい伝統儀式がうけつがれ、儀式としてのプロセスをおごそかに踏むことで、精神がとぎすまされ、かすかな気配にも心がひらいてゆく。
所作や立ち位置、言霊や音をおなじようにくりかえしながら、場をととのえ、周囲の空気を変化させて神聖な気配を充満させてゆく奥義は、香道に限らずあらゆる側面で活用できる古人の智慧だと思っています。
おうちのなかで雑音を遠ざけ、湿度、温度、風の通り道をちょうどよく調整して、大きな布をひろげ、その上に薫香のためのお道具をならべ、ろうそくに火をともす。
それだけでも香煙が緞帳のように周囲に降ろされて、日常的サザエさん劇場の幕がとじられてゆき、神聖な気配にみたされた内的世界へ参入することができるんだろうな、と。
ナンバー6と呼ばれる松明花は、地表に太陽の魔法陣じゅうたんを敷きつめて、炎のからだをもつ存在たちをうけとめる、グランドカバーなのかもしれません。
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