【ハーブ天然ものがたり】シナモン
世界4大スパイス
胡椒(ブラックペッパー)に丁子(クローブ)、ナツメグ、シナモンは世界4大スパイスと呼ばれているそうな(シナモン記事を書くにあたってはじめて知りました@_@;)。
数多あるスパイスのなかで4大入りしたのは、くらしのなかでとくに身近な存在ということや、近代数百年のあいだにおおきく流通市場にくいこんできたハーブ、という背景があるのだと思いますが、現代日本でポピュラーなキッチン・スパイスといえば胡椒と、シナモンがギリギリ入っているかいないか…という感じでしょうか。
ネットから世界をみわたすと、シナモンはカレーやお肉料理に欠かせないスパイスとして、豊富なレシピをみつけることができます。
日本でシナモン風味のたべものといえばニッキ飴とか八つ橋、アップルパイ、シナモンロールにチャイやカプチーノなど、スイーツ&ドリンクのくみあわせが普及している印象がつよく、かくいう私もシナモンをおかず料理でつかうことはほとんどありません。
インドの七味唐辛子的なミックス・スパイス「ガラムマサラ」は4大スパイスがキホンみたいなところがあるので、こだわりのカレー屋さんメニューを踏破していくうちに、たっぷりおなかにおさまっていることもあるのだろうと思います。
我が社のある下北沢はカレー天国みたいな町なので、東京に行くたびにカレー屋さんを開拓して新メニューに挑戦していますが、すりたてのホールスパイスでつくっているであろうカレーは、一口ほおばるとその香りにうっとりして、食べたあとほんとうに元気になります。
商業品としてポピュラーなシナモンは大別すると、スリランカや南インドの熱帯地方を原産とするセイロン・シナモン(学名 Cinnamomum verum、古くはC. zeylanicumと表記されています)と、
中国やインドシナを原産とするカシア・シナモン(学名 C. cassia、C. aromaticum など)があります。
スティック状のものや粉末状のものなど、シナモンとよばれる商業品は肉桂属、学名 Cinnamomumの複数の樹木から得ることができます。
樹皮の外皮をはいで内皮をくりんとまるめたシナモンスティックは、セイロン・シナモンの場合うすくてパイ生地みたいに何層かに分かれているので粉砕しやすいです。
カシア・シナモンはかたくて一枚ものなので、風味の繊細さに欠けると評されますが、市場におおく出まわっているのは圧倒的にカシア・シナモンのほうです。
なかにはくりんとまるめられないほどにかたくて肉厚の内皮もあり、木のカケラみたいな形状で販売されているものもあります。
日本ではニッキ、ニッケイ、カシアとも呼ばれ、どれも肉桂属の樹木から得られます。
漢方薬では桂皮と表記され、日本薬局方にも収載されており、温熱作用のある生薬としてふるい歴史をもっています。
葉っぱはシナモンリーフとしてお茶になり、樹皮はもちろん葉にも香り成分がはいっているので、葉から蒸留されたシナモン・リーフという精油も市販されています。
沖縄にはカラキとよばれるシナモンの木があり、民間療法などで活用してきた歴史があるそうです。
日本に自生する肉桂属は、ほかにも藪肉桂、学名 Cinnamomum yabunikkeiがあります。
関西から沖縄に分布している別名クロダモのことですが、雑木林などに自生し、庭木や垣根などに使用しているおうちをみかけることもあります。
葉っぱと根っこにシナモンの香り成分をもっているものの、アロマ・ハーブ業界で商業利用はしていないと思います。
花のつぼみや樹皮から得られる精油は皮膚への刺激がつよく、葉っぱから得られるシナモンリーフの方がいくぶんマイルドなので、つかい勝手がよいように思います。
個人的なケースではからだの深部にどうしようもなく冷えが入りこんでしまったなぁと感じるときのレスキューアロマとして、バスタブに1,2滴たらしたり、ホホバオイルに混ぜてトリートメントなどでつかっています。
(シナモン精油には禁忌事項があり、妊娠中の使用はおすすめできません。ワンダ・セラーさんの本には「内分泌系を強力に刺激する」とあります)
ミルラ(没薬)のものがたりはこちらの記事に綴っています。
胡椒のものがたりはこちらの記事に綴りました。
丁子(クローブ)のものがたりはこちらです。
シナモンバードと不死鳥フェニックス
古代エジプトで死者の肉体を保存するミイラをつくるときに使用されていた古参ハーブのひとつ、シナモンは伝統的にキフィという香にも使用されていました。
シナモンは15世紀ころからはじまる大航海時代から、希少なハーブやスパイスが自生する土地を植民地化して、奴隷労働によるプランテーションを展開する強国(イギリス、スペイン、ポルトガル、オランダなど)によってくりひろげられる、スパイス争奪戦の渦中にありました。
スパイス戦争が熱を帯びる以前は、シナモンはインド、中国、エジプト相互間の重要な交易品として流通していたといいます。
商人たちは西洋人にシナモン産出エリアをけっして口外することなく、こぞって神秘的な逸話つきで商品の価値をつりあげたともいわれています。
商人口伝プロモーションの原点となったのは、古代ギリシャ時代の歴史家、ヘロドトス(BC485年ころ~BC420年ころ)が書きのこした文献から、『巨大な鳥、シナモンバードはシナモンの木が生える未知の土地からシナモンスティックを集めてきて、切り立った崖に巣をつくるのにつかっている』というのがあります。
古代ギリシャの哲学者、アリストテレス(BC384年~BC322年)も『シナモンバードは未知の場所からシナモンを運び、高い木のてっぺんにある細い枝に巣を作る』と書きのこしました。
商人によって語りつがれた物語というと、いきおいうさん臭く感じてしまいますが、もしかするとBC400年ころを生きていた人類には、神とともに生きた古代人のなごりが息づいていて、シナモンの小枝をあつめてとくべつな止まり木をつくる巨鳥(霊鳥)がみえていたのかもしれません。
フェニックスの炎伝説となった香り、シナモンとミルラ、ナルデのブレンドは「魔法の火」を生みだすといわれるだけあって、ふかみのある静謐さで空間を鎮めて、日常線からほんのすこしだけ足場を浮遊させるようなフシギ感覚をもたらします。
薫香用のハーブに炭粉とミツロウをまぜて香り玉にしたり、香り袋にしてタンスにいれたりするのは、お部屋のあちこちにフェニックスのお座布団をしのばせているみたいでココロおどります。
古の人々がシナモンバードとよんだ霊鳥は、不死鳥フェニックスの分霊で、シナモンの香煙をポータルにして、いまもあちこち飛びまわっているのだろうと空想しながら、いそいそとシナモンの香りを燻らすのはいくつになってもたのしいものです。
ウィキには『古代エジプトの神話に登場する、聖なる鳥ベンヌがフェニックスの原型だと考えられている』とあります。
さらに古代エジプト時代には、聖鳥ベンヌは太陽神ラーに従い、夜になると神殿の炎へとびこんで死にいたり、つぎの朝には炎のなかからふたたび生まれでると信じられていた、とあります。
古代ギリシアの歴史家ヘロドトスはその話をもとに、『歴史』という著作のなかでエジプトの東方にあるアラビアに住む鳥、フェニックスについて『鷲のような姿形をして、金と赤の羽毛をもち、父鳥が死ぬとひな鳥は没薬でつくられた入れものに父鳥の遺骸をおさめてヘリオポリス神殿にはこぶ習性をもっている』と書きのこしました。
シュタイナー説では火(光)と煙(ガス)のからだをもつのは大天使とされていますから、聖鳥ベンヌから分霊したフェニックス、そしてさらに分化したシナモンバードへと、地上に降下する階段を順序よく配列して、土元素によってどんどんかたまってゆく地上世界にもわたりがつけられるようにと、大天使はシナモンの木にとくべつな火と風のちからを付与しつづけてきたのかもしれないな、なんて想像をふくらませると、ろうそくに炎を灯すことさえ神聖な行為に思えて、シナモン薫香するのがますますたのしくなってきます。
古代エジプト神話をもとに、古代ローマ時代の学者たちがつむいできた聖なる鳥たちのおはなしは、たしかに時代の商人によっておおいに活用されてきた一面があるのかもしれませんが、霊長や不死鳥シンボルは世界共通の神話元型として、たくさんの物語をうみだし、人類にインスピレーションをあたえてきたのもまた事実です。
霊鳥・神鳥といえば日本では鳳凰ですが、日本紙幣にも印刷されている鳳凰は、畏敬の存在として自由と高潔、優美さと不死を体現する吉兆シンボルとしてロゴマークなどに採用され、あらゆる産業、芸術、エンタメ界をいまなお飛翔しつづけています。
【ハーブ天然ものがたり】げんのしょうこにも綴りましたが、ながいながい地球史のなかで、人類同士は民族や国、宗教で境界線をひいて、底意ある伝説や神話をつくりこみ、相手方の信仰対象を冒涜する作戦を敢行してきました。
イメージ合戦の応酬で貶められることなく崇敬されてきた鳥の王は、民族のものでもなく民族のものでもある。
まさに地球人類共通の元型存在なのかもしれません。
不死鳥フェニックスが魔法の炎をつくる材料にしたシナモン。
いまでは世界4大スパイスと称されるほどヒトにちかく、なじみある植物となりました。
あまくてほろ苦い唯一無二の芳香は、およそ500年で完全燃焼してあたらしい萌芽をめばえさせるサイクルをつかさどる時代霊や民族霊、大天使と呼ばれる存在たちのエッセンスを宿していると考えるなら、地上世界にいつでもシナモンバードが降臨できるよう、地球社会にまんべんなく「魔法の炎」をゆきわたらせているのかもしれません。
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