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【エッセイ】 地元案内

 ジャンプ最新号の『呪術廻戦』では主人公がラスボスを地元案内していた(ネタバレごめん!)。その話が個人的にジーンときて、自分が地元を案内するとしたらどこに連れていくだろうと空想する。
 小学生時代には特段思い入れがあるわけではないのだけれど、まずは小学校までの道のりを一緒に歩きたい。延々と続く田園風景…校区ギリギリの町内に住んでいたから学校から一番離れていて、子どもながらに遠いなぁ、まだ着かないかなぁと思っていたのだけれど、大人になったいま改めて歩いてみても同じことを思うから、子どものときのその感覚は間違っていなかった。行きたくもない学校に通うために毎日よく頑張ったねぇと少年の自分を涙ぐましく思うのだけども、この道のりを歩くこと自体は案外嫌いではなかった。
 田園は四季をよく映す。苗を植える前や稲を刈った後の土田、水を張った水田、稲穂が実る黄金の秋や雪が積もってアスファルトとの垣根をなくす白銀の冬。周りには高い建物なんてあるわけないから遮るもののない空。そこに浮かぶ四季折々の雲。人間よりも色濃く息づく虫や鳥の気配。そんなものを感じ取りながら歩くことは好きだった。
 学校に慣れて友達が出来てからは気の合う2人のクラスメイトとよく一緒に歩いて帰るようになった。3人でじゃんけんをして負けた奴が次の電柱まで3人分のランドセルを担いで歩くゲームをよくしていたし、雪が降れば雪玉を投げ合いながら通学路を息を切らして駆けていた。この2人とはずっと一緒にいるだろうなと思っていたけれど、中学生へ、さらに高校生になっていく過程で少しずつ離れていった。それぞれ所属するグループが違っていき、1人は医療の道に進むためにずっと塾通いが続いて時間が合わなくなり、1人は突然金髪になって、たばこや万引きで補導されたりとわかりやすく非行の道に進んでいき、僕はというと何も考えずに何を頑張るわけでもなく気ままに日々を消費していた。いま思えばどんな形であれ思春期を必死に生きていた2人の姿が羨ましい。彼らの連絡先はもう残っておらず、地元にいるのかどうかさえも知らない。どこまでも続いた通学路にはちゃんと終わりがあって、永遠という言葉の脆さを知った…なんて、そんなセンチメンタルなエピソードを無理やり聞かせながら歩いたら次は橋を渡り日野川を越える。
 超えてすぐのところにはハンバーグが有名なイタリアンがあり、その隣には鶏白湯が売りのラーメン屋がある。前者はジャケットとスラックスのセットアップで入りたいようなお店で、後者はTシャツ短パンで入りたいようなお店だ。今日はサンダルだし、一択だよねってラーメン屋を選んだら券売機の前で財布を忘れたことに気づいて店を後にする。お腹が空いたまま、そのまま歩いて街のランドマークである西山公園を訪れる。ここは小高い丘にある公園で無料の小さな動物園が併設されている。本当に小さくて、いるのはゾウガメと孔雀とテナガザルとレッサーパンダだ。レッサーパンダは一世を風靡した風太くんのように立ち上がったりするから可愛い。鯖江はメガネの産地として有名なのだけれど、その生産技術を中国に提供する代わりにパンダが送られるとの交換条件が交わされた。しかし実際に中国から送られてきたのはジャイアントパンダではなくてレッサーパンダだったなんて本当か嘘かわからない話がまことしやかに囁かれている。ちなみにレッサーパンダは時々脱走をして地元ニュースになる。
 西山公園沿いには路面電車が走っていて、僕はその電車に乗って高校に通っていた。当時片思いしてた女の子も同じ時間の電車に乗っていて、話しかけたかったのだけれど目が合うだけで赤面してしまい、結局3年間距離を縮めることはできなかった。駅の目の前にはたこ焼きや大判焼き(福井は今川焼き呼びが主流かも)が売っているお店があってよく学校帰りに買って食べていた。サラダ焼きと呼ばれる、なかにマヨネーズとハムが入った大判焼きが一番好きだった。というかそれしか食べた記憶がない。この電車の終着駅は田原町で、歌人の俵万智が高校生の頃に同じようにこの電車に乗って学校まで通っていて、そのペンネームは田原町駅からとったという噂もまことしやかに囁かれている。
 歩いて行ける範囲はこんなもので(といっても相当な健脚者コースではあるけど)財布と車のキーを持ってきてもよいなら、焼き鳥屋の秋吉は福井県民のソウルフードで食べに連れて行きたいし、中学生時代に嫌いだった部活をサボって通っていた図書館にも案内したい。鯖江の隣の市の武生(越前市)の中央公園は別名だるまちゃん広場で、これは越前市出身の絵本作家、かこさとし先生の『だるまちゃん』シリーズや『カラスのパン屋さん』をモチーフにした公園で、遊具のある広場や室内の遊び場、図書館、プール、小さな遊園地、カフェなんかが集っている場所で、老若男女多くの人の憩いの場になっている。たとえば僕が何かしらの功績をあげて名声を得たならば、こんなふうに自分を使ってくれたら幸せだろうなと思う。みんなが散歩できるピクニックが似合う公園を作りたい。あとはそのまま車を走らせて越前海岸に連れて行く。日本海の水平線に沈む夕陽を共有したい。そんな風景を堤防に腰掛けて眺めることができたら、人生いろいろあるけど、きっといいことあるよ! なんて、そんな心持ちで気持ちよく1日を締めることができそうだ(この後、ラーメンを食べに行く)。


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