Time(牧野楠葉『アンドレ・バザンの明るい窓』より)
わたしの後ろから眼に手を当てているのは誰
夜露で固まった鳥たちの音、
布に印刷した時計の絵、
緑色の風が静かにはらう
静寂しかない、
真実のなかはとても冷たくて
身動きがとれない、
それこそあまたのベッドで誰しもが発狂していること……
お行き、未亡人となったわたしの心臓
線路が赤黒く染めあがってきた
もう他の臓器は売ってしまったのだ
あと五分後には特急電車がやってくる
わたしの殻を脱ぐ死、
《息子よ、財宝は遺しましたから。》
《死化粧はしなくていいから……》
睡眠が
わたしの頭を金槌で破った後
訪れるのは
いつもあなたの不在
重なり合いすぎる愛は
耐えきれないものとなって
正午という時間を止めてしまう
牧野楠葉『アンドレ・バザンの明るい窓』収録
発行:七月堂
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