ジャニーズ事務所が極悪であることを大前提にして/記者会見を見て感じた若干の違和感
ジュリー氏も同席して、東山新社長を中心にしたジャニーズ事務所の記者会見が行われた。予想通りの内容で、不信感や批判を払拭することは到底できなかったわけだが。それを大前提にした上で、幾つかの違和感を覚えた。
一つは、フリージャーナリストも含むマスコミが追求するすればするほど、問題を見過ごしてきた過去が明らかになるということ。そして、その背後には日本社会全体の沈黙があったということである。
「芸能界なんて、どうしようもない所だから何でもありだ」「まともな人間が入る世界ではない」という感覚が、かつて社会には存在した。今のような高学歴芸人など、異端でしかなかったのである。芸能界は馬鹿にされていた。この問題が可視化されるまで、芸能界における人権侵害を真剣に考える日本人は、ほとんどいなかったのである。
そういう世界における「下世話な噂」だとみなされたこそ、誰も触れなかったのだ。この未曾有の性加害は、多くの少年を犠牲にし、BBCの報道によってやっと陽の目を見た。この問題が複雑だ。
従って、日本社会全体の沈黙について考えることなくしては、鋭い追求も色褪せて見える。マスコミもテレビ局も広告代理店も、面倒だから放置していたのだ。こういう不作為は今も、あらゆる企業や業種で行われている。
問題に取り組まない「放置文化」を、ほとんどの日本人は今も支えているのではないか。そういう側面を直視し、行動を起こす覚悟を我らはしなくてはいけないだろう。正直、私も内部にいたら行動を起こせたかどうか、自信がない。
それともう一つ、日本のアイドル文化をどうするかということだ。この機に乗じて(和製も含む)Kpop勢が、市場の独占に乗り出している気配がある。そして多くの人は、日本のアイドル文化なんてどうでもいいと思っている。
おそらく共感してもらえないだろうが、世界に通用しない日本独特のアイドル文化にも、今まで一定の役割があったと私は考えている。それによって救済されてきた人々が一定数存在したし、今でも存在する。
それはもう世界でも日本でも通用しなくなってきたが、良いところは残しつつ、Kpopとは違う方向をめざしてもらいたい。日本は世界をリードするような国ではなく、独特の文化で生きていくしかない。東アジアの辺境にある島国ならではの文化を生み出していくべきだろう。
近年のジャニーズはかなり変化していて、これから芽が出そうなタレントが少なくない。彼らの未来が危うくなるのはもったいないと、私は思う。その土地の気候風土、共同体に根ざしたエンタメやアイドルには存在意義がある。
ジャーナリズムの最大の役割は、権力や体制に対する批判だ。その点で今回、記者会見で様々な質問や追及がなされたことには意味があった。しかし、ジャーナリズムに創造はできない。それは社会の役割だからである。
私はこれから、日本のエンタメが何かを創造してくれることを願っている。日本人にはそれができると思っている。こそのために、ここで芸能界を根本的に改革してオーディションシステムも整備してほしい。
世界的に有名な「千と千尋の神隠し」のロンドン公演に主演するのが、オーディションで選ばれた実力派ではなく、東宝の後ろ盾を得た上白石萌音や橋本環奈であることも、ジャーナリズムは批判するべきだ。どうでもいいと思っているから話題にさえならないのである。
それと、ジャーナリストたちは今まで芸能界に関心がなく、急に目覚めためにアイドルについて知識が少ないことは明白である。ジャニーはデビューを餌に未曾有の性加害をしていたが、それでデビュー後に活躍したり、グループのセンターになれるようなことはない。
アイドルはファンの支持がなくては成り立たないのであって、売り出し側の思惑などで活躍の場が広がるわけではない。学校秀才にはわからない世界である。
最後に一つ。これほど大きな芸能事務所になると、多くのフリーランスが仕事をもらっている。ライブの開催やMVの撮影など、ほとんどフリーランスのスタッフが支えているのである。
それと、組織としての腐敗や権力への迎合に対して、マスコミの一員が立ち上がって行動できるのか。特に安倍政権以来の官邸への迎合ぶりに対して、一体何をしたのか。「汝らの中で、罪なきもの石を持て打て」という気持ちも、若干しないではないですが。
以上、絶対にジャニーズ事務所の肩を持っているわけではないので、誤解のないよう。