後味が悪かった「キンプる元日SP!!」/アイドルにだって人権がある
元旦、何気なく観たテレビ番組に憤慨してしまった。観たのは、日テレで深夜に放映された「キンプる元日SP!!」である。ジャニーズ事務所の人気グループKing&Prince、略してキンプリ初の冠番組である。
「何だ。テレビの、しかもアイドルの話か」と思わレルダルか。そもそも、テレビなんかまだ観ているのかと言われそうだ。テレビ、アイドル、バラエティー、お笑い番組・・・どれをとっても、多くの人が見放している世界である。
しかし、これは大事な話だ。こういうことを放置しておいて、選挙への無関心や世襲政治家を批判しても、民主主義は機能しない。こういう、どうでもいいことが重要なのである。
その番組はキンプリにとって初めての冠番組ということで、彼らは張り切っていた。ネットの時代とは言っても、テレビに冠番組を持つことはアイドルの夢である。
そして番組はバラエティーの常として、他愛のないゲームが主な内容だった。他愛ないゲームならマシな方だ。かつてはひどいゲームも多く、負けると見るに耐えない罰ゲームが課せられた。
最近、BPO放送倫理向上委員会が、「苦痛を伴うお笑い」を人権侵害と指摘した。真っ当な指摘なのに、Yahooニュースのコメント欄に不満の声があふれたのである。その内容や言葉遣いなどからして、主に中年男性の意見だと思われる。
今、テレビでバラエティー番組を作っているテレビ局の中枢は、中年男性なのだろう。それが、定型化したバラエティー番組が量産される理由のつであり、テレビが変われない最大の理由ではないだろうか。
さて、その「キンプる元日SP!!」の最後は彼らの歌唱だった。そして事前に視聴者にだけドッキリ企画が明かされていた。「セットが崩壊する」と「落とし玉」の二つで、どちらがいいかリモコンによる投票で決めるのである。
嫌な予感がした。どっちもどっちだ。そもそも必要ない。結局、後者が選ばれた。そして熱演したキンプリに最後、ビニールボールが大量に降り注いだのである。落とし玉とは言っても、くす玉が割れるぐらいだと思っていた私は驚いた。
彼らは本当に驚き、痛がっていた。かわいそうだった。しかも驚く彼らに、司会の劇団ひとりがこう言ったのである。「ファンの皆さんの希望です」。その言葉を聞いて、彼らはとまどったような表情をした。
実に後味の悪い終わり方だった。にもかかわらずツィッターを観ると、同時視聴していたファンの多くが「楽しかった」「お疲れ様」と彼らの冠番組自体を喜んでいて、違和感を表明する人は少なかった。
ジャニーズのアイドルグループは、ファン以外にはバカにされがちだ。しかし、彼らも青春をかけて頑張っている。初めての冠番組ということで、見るからに張り切っていた。たとえ事前に知らされていたとしても、面白くもなんともない無意味な企画だ。
それを大人が茶化し、バラエティーでゲームなどをさせ、体を張って頑張らせて、最後は頭上にボールの雨を降らせたのである。テレビ局はアイドルをバカにしている。
ファンが観るから、手抜きでも収益が望める。だから使ってやっているという感じが伝わってくる。劇団ひとりも、ボールを浴びてショックを受けている彼らに対して、ねぎらいの言葉も発しなかった。
売れてしまった芸人は、テレビを動かしている大人と一体になるらしい。後輩や若手の人権を尊重しない、時には踏みにじる側に立つ。かつて自分がされた「やりがい搾取」に手を貸すのである。
日本社会は若者のやりがい搾取で成り立っている。テレビにおけるアイドルや若手芸人への扱いは、社会の構図そのものだ。一時、吉本芸人の苦労話が盛んに流された。月給五千円といった類の話だ。
「若い頃の苦労は当たり前」とは言っても、それとこれとは違う。多くの若者に夢を持たせ、あとは適者生存と言えば聞こえはいいが、人権も何もない生活をさせて這いあがることを強要する。
多くの企業で似たようなことが行われているし、下手すると若者の一部もそれを受け入れる。いや、受け入れるしかない。夢を諦めるわけにはいかないし、権利や人権について教えられていないからだ。
一方で、自己責任論だけは刷り込まれている。強者にとって、これほど都合のいい状況はない。若者だけでなく、立場の弱い下請けやプログラム開発業者などが、安い報酬と無理なスケジュールで作業を強いられている。
アイドルを使いつぶすバラエティー番組は、この国の醜悪な構造を浮き彫りにしている。だからこそ、見て見ぬふりをするわけにはいかない。この構図こそ、日本社会の長期低迷を招いている元凶である。
この問題に真剣に取り組まないと、日本は没落する一方だ。よく言えば成熟した日本社会は、一人ひとりを大切にし、可能性を最大限に発揮する仕組みを作る以外に生きていく術がない。
しかし政界も財界も、既得権益を握った人間があぐらをかき、従来のやり方を変えようとはしない。自分さえ良ければいいのだろう。日本の未来を真剣に考えていない。これは深刻な問題だ。
たかがアイドル、されどアイドル。彼らは日常にささやかな楽しみをもたらしてくれる。テレビは表現者として生きる道を選んだ彼らの、存在と努力を尊重してもらいたい。ファンは怒るべきだ。私は日テレに抗議のメールを送った。