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日本の茶

海外では、和食の人気の高まりと共に、日本茶の存在感も増してきました。私が暮らすシンガポールでも、抹茶や焙じ茶を使ったお菓子や飲料はとても人気があり、ペットボトルの緑茶も日常でよく見かけるようになりました。

海外で「Japanese Tea」と言えば、「Green Tea」を思い浮かべる人がほとんどですが、その緑茶も元々は中国で生まれたものです。茶は中国で薬草として用いられ、次第に、飲み物となり、9世紀頃に禅僧が日本に持ち込んだとされています。その後、江戸時代に煎茶が誕生し、茶文化が一般家庭にも広がりました。現在では、ペットボトルの冷茶が普及していますが、急須を使って淹れたお茶の美味しさは格別で、常滑焼などの伝統産地の上質な急須は、今でも入手困難なほどの人気があります。

日本茶とは

日本茶といえば、玉露、煎茶、焙じ茶などが一般的ですが、いずれも同じ茶葉から作られていることは、意外と知られていないのではないでしょうか。最近、健康に良いとして人気が高まっている和紅茶も、基本的には緑茶と同じ茶葉が用いられています。現代では、急須がある家も少なくなり、お茶の種類や淹れ方について知る機会も減ってしまいました。玉露や上質な煎茶は、旨み成分が多く含まれており、低温で淹れることで、旨みをじっくりと抽出できます。また、最後の一滴に旨みが凝縮されており、その最後の一滴まで絞り出すことのできる宝瓶(ほうひん)と呼ばれる急須が、玉露や煎茶には適しています。こうした茶器の知識を持つと、お茶の楽しみが増えるのでおすすめです。

有田焼の宝瓶

日本の緑茶の大きな特徴は、蒸すことで加熱処理をされている点にあります。中国茶は、釜で炒る方法が取られる釜炒り茶が一般的です。日本でも、佐賀県の嬉野では、一部、釜炒りの手法でお茶が作られていますが、基本的には、日本の緑茶は蒸して作られています。一般的には、中国茶は香りが強く、日本茶は味わいを楽しむものとされます。日本茶の中でも高級茶として有名な玉露(ぎょくろ)は、覆い香と呼ばれる青海苔のような香りがありながら、濃厚な旨味を楽しめるものです。

茶の湯

茶といえば、やはり茶の湯を語らないわけにはいきません。茶の湯とは、千利休が大成した茶会のことで、海外では「Tea Ceremony」と呼ばれます。海外で日本茶を好む方は、少なからずこの茶の湯の文化に興味を持っており、その美意識を好む方が多いことが特徴です。侘び寂びを始めとした質素な美意識は、茶の湯と共に育ったと言って過言ではなく、茶の湯を体験したいと思う外国人も増えています。

茶碗

最後に、茶碗についてご紹介します。茶碗は茶会と共に育ったやきものですが、今ではアート品としての価値も備え、海外ではアートコレクターからの注目も高まっています。背景には、経済が成長し、さまざまな国で豊かな生活が実現されてきた一方で、物質的な豊かさだけでは心の豊かさを得ることができないことに気づき、侘び寂びや簡素な世界に憧れを持つ外国人が増えてきたことがあるのではないかと思います。茶碗の魅力は、見込みや高台など、隅々まで作り手の美意識が埋め込まれている点にあります。

これまで紹介してきた日本の伝統的な美意識を日常に感じるには、茶碗を始めとした茶器を、お好きな日本茶とともに楽しんでみることから始めてみてください。

文:柴田裕介(HULS GALLERY)

参考図書)

・『茶の本』岡倉覚三
茶の湯の世界観を通じて、日本の美意識を海外へと紹介している本。原文は英語で書かれており、欧米ではベストセラーとなっている。


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