短編② 分岐点
手続きを済ませ長い廊下を進んでいく。
そこには、少し広めのスペースと2つのトンネル。
「なんだこれ?」
彼は2つのトンネルが気になり近くまで近づいてみた。
大きさは道路によくあるトンネルとほぼ同じ大きさ。
ただ入口から先は暗くてよく見えない。
「先程、お手続きされた秋山様でよろしいですか?」
後ろから声が聞こえたので振り返ってみると子供がスーツ姿でバインダーを持って立っていた。
見た目は小学校低学年くらいだろう。
「子供?」
「ああ、申し遅れました。私はここの番人であり、案内人です。」
子供とは思えない大人のようなハキハキした喋り方で秋山は肝を抜かれてしまって何も返事ができなかった。
「混乱してると思いますので簡単に説明を。秋山様は人間世界で言う、この世からあの世に来ました。」
「え?ここはあの世なんですか?」
「そうです。あの世です。」
はっきり言う番人のせいで余計に混乱した。
誰もが知っているあの世とは何もかもが違っていたからだ。
「分からないのも無理はありません。秋山様は途中で倒れて意識を失って、そのままこちらに来たのですから。」
秋山はしゃがみこんで頭を抱えた。
思い出すのは、2週間ぶりに家に帰り、下着を変えるだけ変えて家を出てすぐ意識を失っただけ。
「ははっ。俺は死んだのか。」
苦笑いしか出来ない。
「で、番人さん。この場所が何か分かった。目の前にある2つのトンネルはなんなんだ。」
「2つのトンネルはですね、人生最後の選択の場所です。」
「人生最後の選択?」
「はい。どちらかは楽な道。もう1つは苦難が多く、とても辛い道になっております。それは秋山様ご自身にどちらかのトンネルを選んで頂きます。そして、選んだトンネルに1歩でも足を踏み入れたらもうこちらには戻っては来れません。そのままお進み下さい。」
秋山は再び2つのトンネルを見つめた。
「進んだ先には何があるんだ?」
番人を再度見つめると書類を見ながら淡々と答えてきた。
「それは、私にも分かりません。進んだ先は一人一人異なっておりますので。」
「例にあげるのも出来ないの?」
「申し訳ございません。こちらには参考になる資料は1つもございませんので、お答えできません。」
「そうですか。」
秋山はショックを受けた。
分かったのは、ここはあの世で2つのトンネルのどちらかを潜らないといけないということだけ。
頭を再度抱えてる最中、番人が話し始めた。
「あともう1つお伝えするのを忘れてました。選んで頂くタイムリミットがございます。」
「は?タイムリミット?」
「そうです。ここにいれる時間は10分です。」
「10分ってすぐじゃないか。」
「どんどんこちらに人が来てしまうので悩まないように設定した時間です。分かるように秋山様専用のタイマーも設置しております。」
秋山は周りをキョロキョロを見渡すと、トンネルとトンネルの間にタイマーが大きめにセットされていた。
「それでは10分間、よく考えて人生最後の選択をして下さい。」
子供は深々とお辞儀をして一瞬にして消えた。
その瞬間、タイマーが動いた。
「おいおい、どうしろって言うんだよ。いきなり消えるしヒントもないし。」
頭を抱えながら2つのトンネルを見つめてタイマーを見た。
残り9分。
「まずい。あと9分。」
どうしようか迷ってるうちに周囲には何組か人がいてトンネルを見ていた。
「ねぇ、あなたはどっちに進む?楽な方?辛い方?」
声が聞こえる方を見てみると、2人の男女が話をしていた。
男性は60代位で、女性は30代位に見える。
夫婦なのだろう。
「俺は、お前とならどちらでもいいかな。やっとここで会うことが出来たからな。」
「そうね。けどどっちがどっちか分からないのよね。」
話を聞いてる感じ、若くして奥さんを亡くし、数十年ぶりの再会をここで果たしたということか。
「じゃあどっちに行こうかお互い指を指しましょう。」
「そうだな。」
2人は、せーのといい指を指した。
2人揃って別々の道。
「別々ね。」
「そうだな。いつもの事だな。」
「そうね。」
そして、2人は左右別々のトンネルに歩いて行った。
「おいおい。夫婦なのに最後これかよ。」
人生最後の選択ですら別々なのかと絶句してしまった。
「あ、タイマー」
ふと、自分のタイマーを見てみると残り5分。
「時間が無い。」
周りを見ると左右それぞれのトンネルを潜って行った。
そろそろ最後の選択をしなくてはいけない。
「どっちだ。どっちがいいんだ。」
悩んでるうちに時間はどんどん迫ってきている。
残り4分。
周りの人は来てすぐトンネルに向かっている。
悩むことも無く。
再び頭を抱えた。
「どちらにするか。」
いつもは適当にこっちにしようと決められていたが、今回は今後に関わる。
ここで自分の運命を決めなければならない重圧感がのしかかる。
秋山は決めたかのようにトンネルを見つめた。
「よし。こっちにしよう。」
ゆっくり歩き、トンネルの目の前まで行き足を止めた。
ここに1歩でも入れば戻って来れない。
何があるのかも分からない。
「自分の運を信じるしかないか。」
そして、秋山は右側のトンネルに足を踏み入れ進んで行った。
秋山は気付いていなかったが、後ろに番人が深々とお辞儀をしていた。
「いってらっしゃいませ。秋山様。これからのご武運をお祈り致しております。」
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