キッチン(吉本ばなな)
_キッチン(吉本ばなな)
私は二度とという言葉の持つ語感のおセンチさやこれからのことを限定する感じがあんまり好きじゃない。
でも、その時思いついた「二度と」のものすごい重さや暗さは忘れがたい迫力があった。
なんにせよ、言葉にしようとすると消えてしまう淡い感動を私は胸にしまう。
「まぁね、でも人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てられんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことがなにかわかんないうちに大っきくなっちゃうと思うの。あたしは、よかったわ。」
私は読み終えて、手紙をもとのようにそっとたたんだ。えり子さんの香水の匂いがかすかにして、胸がきりきりした。この香りも、やがて、いくらこの手紙を開いてもしなくなってしまう。そういうことが、いちばんつらいことだと思う。
少し遠くにあるその静かな声は、ケーブルを抜けて夜を駆けてくる。
_それは淋しい波音のように聞こえた。
_「そののちのこと」という文庫版のあとがき
様々に微妙な感じ方を通して、この世の美しさをただただ描きとめていきたい、いつでも私のテーマはそれだけだ。
愛する人たちといつまでもいっしょにいられるわけではないし、どんなにすばらしいことも過ぎ去ってしまう。どんな深い悲しみも、時間がたつと同じようには悲しくない。
そういうことの美しさをぐっと字に焼きつけたい。
少しでも私の作品が人々の心にしみこむなら、必要としてる人にだけでいいから、ちゃんと届くものを書き続けたいというだけだ。
_____「届ける」と「恩返し」
読んだ本の「いいなぁ」と思うところや、「うわぁ」と思ったところを記録していくと、好みの偏りが見えてくる。
本の内容ももちろんだけれど、文庫版にする際に追加されていたあとがきが印象的で。
あとがきにはあとがきの物語があって好き。
こんなに優しくしてもらって
私はどれだけ返せるのだろう
と思うぐらい、たくさんの人の優しさに触れている。
それは十年来の友人かもしれない、職場の人かもしれない、電車で隣になっただけの人かもしれない。
直接その人に返せることばかりではないから、
違う場面で私も同じようにできたらと思う。
それは手を差し出すようなことかもしれないし、そっと背中を押すことかもしれない
もしくはそっと背中を支えることかもしれなければ、手を背中に当てて体温を分け合うようなことかもしれない。
手段も場所も相手も違うけれど、
きっとそういうことが巡り巡っていく。
「届ける」って何?
「伝えたい」って何?
_「さあね」
そんな仰々しいことはわからない。
でも、綺麗な言葉で綺麗な響きを広げたいという根本は変わらないと思う。
「なんか、どうしても話したくて、しかたがなかったから」
そんな風で今はいいかな。