先日開催されたSUMMER SONIC 2022でヘッドライナーを務めたTHE 1975。バンドのフロントマンであるマシュー・ヒーリーは、2020年に「今後はジェンダー・バランスが取れている音楽フェスティバルにしか出演しない」と表明したことで知られている。
これは、同年にブッキングされたReading & Leeds Festivalにおいて出演者が大幅に男性アーティスト寄りであったことを受けての発言だ。当時ラインナップされた91組中、女性アーティストや女性がフィーチャーされたアクトは20組(=22.0%)だったという。このようなバンドの意向を受け、今年彼らが出演したサマソニでは女性アーティストの比率が大幅に上がったとされている。
では他の日本の夏フェスにおいて、現状はどうなのだろうか?今回は7~8月に開催された主要な10の夏フェスのジェンダーバランスを検証してみたい。
ルール
まず、出演者は以下の4種に分類した。
その他、以下のルールを設けた。
最初に断っておくが、これは女性が少ないフェスを批判する目的で調査したものではない。ジェンダー問題に関して遅れているここ日本で、THE 1975が望むジェンダーバランスが音楽フェスにおいてどの程度実現されているのか?その現状を知りたいという思いからである。
①京都大作戦2022(7.2-3、9-10/京都)
②NUMBER SHOT 2022 (7.17-18/福岡)
③OSAKA GIGANTIC MUSIC FESTIVAL2022(ジャイガ) (7.23-24/大阪)
④FUJI ROCK FESTIVAL '22 (7.29-31/新潟) ※主要4ステージのみ
⑤ROCK IN JAPAN FES.2022 (8/6-7、11-12/千葉) ※DJ和を除くライブアクトのみ
⑥RISING SUN ROCK FESTIVAL 2022 in EZO (8.12-13/北海道)
⑦SUMMER SONIC 2022 (8.20-21/千葉・大阪) ※千葉で集計
⑧MONSTER baSH 2022 (8.20-21/香川)
⑨SWEET LOVE SHOWER 2022 (8.26-28/山梨)
⑩RUSH BALL 2022 (8.27-28/大阪)
<総評>
各フェスにおける<女性のみ+男女混成+その他:全日平均>をランキングにしてみると、以下のようになる。
当然のように1位かと思われたサマソニを押さえ首位に躍り出たのは、なんとNUMBER SHOTだった。要因としては人気の男女混成バンドを多くブッキングしたこと、初日のみ設けられた「のぼせもんSTAGE」に3名の女性シンガーをブッキングしたことが考えられる。
サマソニは2位に甘んじてしまったが、女性のみのアクト率では圧倒的だった。元来様々なジャンルからブッキングを行ってきたフェスの特性を生かし、シンガー、バンド、ラッパー、アイドル、アニソンといった多様なアーティストを取り揃えたことで数字が伸びたと考えられる。それでも男性のみのアクトが過半数となったが、一定数の女性とノン・バイナリー・ジェンダーを含むという条件を提示したTHE 1975の意向は反映されたと言ってよいだろう。
3位のROCK IN JAPANはサマソニに比べると10%以上低い数字となっている。しかし人気の男女混成バンドや女性アイドルが複数出演しており、全日平均で30%を上回ったほか、初日は40%を超える高い数字を記録した。
4位のフジロックは世界中から多様性に満ちたアクトが揃う印象があるが、意外にもこの順位だった。他のフェスでブッキングされている日本の人気男女混成バンドが1つも入っていなかったことがランキングでは不利になった可能性がある。また深夜を中心にDJアクトが多くブッキングされており、それらを男性が占めていたことも要因の1つであろう。それでもトータルで30%に迫る数字を記録している。
5位以下の数字が、現状の日本のフェスにおける女性とその他の割合のリアルだと感じる。THE 1975が問題視した2020年のレディングが22%であったことを考えると、納得の数字だ。特段ジェンダーを意識せずにフェスをブッキングすると、大体このあたりになるということだろう。
中でも京都大作戦が最下位になってしまったのは、ロックバンド中心のラインナップだからだと思われる。そもそもバンドという形態においては今でも女性より男性の方が圧倒的に多いが、特に京都大作戦で大半を占めるパンク~ラウド勢ではその比率が高いのだろう。今回は計算していないが、かつての夏フェスは今以上にロックバンドが中心であったため、女性比率もかなり低かったはずだ。
しかしRUSH BALLの初日に象徴されるように、近年頭角を現す若手バンドには男女混成のケースが増えている。彼らが今後時代をリードするようになれば、女性を含むアクトの数も変わる可能性があるだろう。またAwichに続く女性ラッパー、SHISHAMOやHump Backらに続くガールズバンドがどれだけ台頭してくるかどうかも今後のカギになると思われる。
思いつきでこの企画を始めてしまい統計をとるにあたっては時間を要する地道な作業が続いたが、現状を知る上でこれらの数字を出すことには意味があったと思う。ジェンダーバランスについて現状を認識し再考する機会になれば幸いである。