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のび太とジャイ子のショッキングな結婚生活 /ジャイ子成長物語①
ご存じジャイアンの妹、ジャイ子。彼女はのび太の将来の結婚相手として、第一話から登場するものの、数本描かれた後すぐに、その姿を消してしまう。ところがその10年後、突如再登場を果たし、今度は漫画家を目指す女の子として成長を遂げていく!
「ドラえもん」の稀有なるキャラクター、ジャイ子に迫る考察です。
『愛妻ジャイ子!?』
「小学三年生」1970年2月号/藤子・F・不二雄大全集1巻
ジャイ子は、初期のドラえもんで4作に登場しただけのマイナーキャラクターだったが、1980年代に再登場してからは定期的に顔を見せて、漫画家になるという夢に近づいていく姿が描かれている。
再登場以降、ジャイ子が主人公だと言える話は7作もあり、いつの間にかメインキャラクターに格上げされている。
「ドラえもん」という日常を永遠にループしていく作品において、成長の跡が見られるという貴重なキャラクターであるジャイ子を、3回に渡って見ていきたい。
第一回目となる今回は、初期ドラの中で唯一ジャイ子に焦点を当てた『愛妻ジャイ子!?』を中心に考察する。
「ドラえもん」第一話『未来の国からはるばると』で、ドラえもんがのび太の家にやってきた理由は、ジャイ子との結婚する未来を変えるためであった。ジャイ子は完全な当て馬のような役割を与えられた、ある意味可哀そうな女の子だ。
てんとう虫コミック等で読める『未来の国からはるばると』は、単行本収録時に、本作『愛妻ジャイ子!?』の要素を抜き出して合体させた話となっている。そういうことで、本作は単行本未収録となってしまい、長らく幻の作品とされてきた。一昨年、てんとう虫コミック0巻に収録されてようやく陽の目があたった作品である。
のび太とジャイ子の結婚生活は、『未来の国からはるばると』に出てくる写真数点から想像しなくてはならなかったが、本作では"動画"として、突っ込んだ表現で描かれる。
ジャイ子との結婚を信じようとしないのび太に対して、ドラえもんとセワシは、タイムテレビで未来の夫婦の様子を映し出す。
そこでは、のび太がジャイ子に追いかけられ、掴まって馬乗りにされる様子が流される。そして、
ジャイ子「正しいのはあなたか、私か」
のび太「お前が正しいよ」
ジャイ子「正義はいつも勝つ。ガハハハハ」
と、100%カカア天下な、大変ショッキングな映像を見せつけるのである。他にも、貧乏な装いで赤ん坊を背負って夜逃げしようとしているのび太が、ジャイ子に捕まって、「家出なんて許さないわよ」と引きずられていく様子なども出てきて、のび太に衝撃を与える。
ジャイ子には申し訳ないが、のび太でなくてもこんな結婚生活は真っ平御免なのである。
のび太とドラえもんは、ジャイ子との結婚を何としても避けるため、ジャイ子に嫌われる作戦を思いつく。
しかし、ジャイ子は最初からのび太のことが全く好きではない。「何一つ良いとこがない」と大笑いされてしまう。嫌われているのだから、放っておけば良いのに、まだ乱暴な初期ドラえもんは、そんなジャイ子に対して、バカにされた仕返しに殴り返せと物騒なことを言いだす。
ドラえもんにせっつかれて、ジャイ子を殴ろうとしたその瞬間、ジャイアンが現れる。のび太は、振り上げた拳を誤魔化すためにジャイ子の頭のほこりを払うそぶりを見せる。
ジャイ子はその行動を見て、
「へえ、案外親切じゃん。仲良くしてやろう」
と、せっかく嫌われてたのに、逆に見直されてしまうのだった。
嫌われる作戦がうまくいかず、今度は軽蔑される作戦を提案するドラえもん。のび太は自分のダメなところをジャイ子に話して、バカにされるよう仕向けるのだが、それに輪をかけてダメ出しされて、逆上。ジャイ子を追い回すが、そこにまた現れたジャイアンと、今度は一騎打ちの喧嘩に臨むことになる。
のび太は一発殴られるが、ドラえもんが「タケコプター」で助け出す。のび太は、もう軽蔑されるのは嫌だと言い出し、自分の運命は自分で開くのだと、強く決意表明を行う。
そんなのび太を見ていたのは、またしてもジャイ子。
「かっこいい!! 尊敬しちゃう」
と、今度も逆効果なのであった。のび太も、尊敬されたのは初めてだ、と満更でもない様子。
ドラえもんのジャイ子に嫌われるようとする作戦は失敗に終わり、「僕の手に負えない」とばかりに、タイムマシンも使わず身一つで未来へ戻ってしまうドラえもんなのであった。
本作の中で、のび太の結婚相手が誰であってもセワシ君が生まれてくる、という有名な「乗り物理論」が登場し、このシーンが丸々第一話に挿入されている。
ジャイ子はのび太の結婚相手ということで登場してくる話が3本あるが、その他に『のろいのカメラ』で乱暴な女の子役で登場し、パーマンのみつ夫の妹であるガン子と仲良くオママゴトをしたりしている。
余談ではあるが、ジャイ子とルックスと性格がかなり似ているバタ子というキャタラクターが、『ああ、好き、好き、好き!』で登場している。
ところで、ジャイ子の名前は本名なのだろうか。
一説によれば、ジャイ子の本名を出してしまうと、同じ名前の女の子が苛められては困る、という理由で明らかにしなったという話がある。
確かジャイアンについても、同じような理由で最初は本名が設定されていなかったが、途中から剛田武、という立派な名前が付けられた。つまり、苛められる、という理由はあれど、本名を出そうと思えば出せる状態にはあったように思われる。
特に後期のドラえもんでは、頻繁にジャイ子が登場し、主役を張って好印象の役回りを見せる。少なくともそのタイミングで、本名を明かすこともできただろうが、ペンネームの「クリスチーネ剛田」がインパクトを残したせいか、遂に登場することはなかった。
そんな中、自分が最も有力だと思っている説がある。それが、ジャイアンの妹だからジャイ子ではなく、ジャイ子の名前は本名で、ジャイ子のあんちゃん(=兄ちゃん)だからジャイアンというあだ名がついた、と言うもの。発想の転換説である。
そうであれば、なぜジャイアンか、という問題も一気に解決してしまう。また、そんな本名ありか?とか思われるかもしれないが、「パーマン」ではガン子という本名の子も出てくる。藤子Fの世界では、アリ、なのである。
ちなみにこの説は、90年代に流行った謎本シリーズの「野比家の秘密」(多分)に書かれていたのだが、良いアイディアだと思って覚えていたものである。
次回では、再登場後、突如漫画家を目指すことになった悩めるジャイ子に焦点を当てていく。