片足は現実 片足は空想に
今月(2024年11月)は、藤子・F・不二雄先生の生誕90周年ラストの月となります。
そこで、生誕90周年の締めくくりとして、二冊の本が刊行されました。
まず一冊目が「トリビュート&原作アンソロジー」。藤子F先生に影響を受けた現役の漫画家たち16人のトリビュート作品が収録されている本となる。生誕80周年記念で発売された「Fライフ」3号に掲載された作品の再録と、新規の作品で構成されている。
それぞれの作家の個性溢れる、藤子作品への愛情と尊敬の詰まった、素晴らしい作品ばかりであった。
そしてもう一冊が、本日発売となった「藤子・F・不二雄がいた風景」という書籍である。
本日届きたての本を開いて中身を覗き見にしてみたが、コーヒーなどを片手にじっくりと時間を取って読まねばならない本だと確信した。
貴重な新規のインタビューや、大全集にも収録していなかった作品・イラストも収められている。また、一度どこかで読んだけど手元にはないF先生のインタビューなども載っている。
この週末は、この本を手に、静かなコーヒーショップにでも行かねばならないだろう。
パラパラと見た中で、藤子先生の過去のインタビュー記事が目に留まり、そこだけ読んでみた。そこでは藤子先生が自作について
「片足は現実の世界に、もう一方の足は空想の世界に羽を伸ばすのが、自分の作品である」
と語っている。
この部分、ご自身のこととはいえ、あまりに端的にF作品の本質を突くものと思う。
藤子作品の特徴は、F先生がおっしゃるように、SF(すこし不思議)要素が描かれることであるが、読者が「すこし不思議」と思うためには、読者の目の前にある現実世界も描かれていなくてはならない。
「不思議」と「現実」はワンセット描かれる必要があるのだ。
ところが、昨今流行りの「転生もの」などでは、ベースが異世界で、そこに魔法が出てきたりする。現実離れした設定に、現実離れしたお話を重ねてしまっているように思える。
半面、F作品においては、子供たちの日常生活が描かれた上で、そこに突然何かおかしなことが起こるのである。
僕は創作をしたことがほとんどないのだけれど、現実に空想を重ねるという手法は、ちょっと試してみたいと思ってしまう。
現実だけを見てもダメだし、空想ばかり思い描いてもダメ。二つを組み合わせていくことがポイントなのだろう。
藤子作品のベースとなる現実世界と、そこからどのようにして主人公たちを空想世界に羽ばたかせるのか。そんな視点を組み入れて、今後も藤子Fノートでは、記事を書いていきたいと思う。