妻に言われた30のこと
私は中間管理職である。先日、新入社員と面談をする機会があった。これまでの仕事を振り返り、今後の目標を立てるというのが主旨だ。
「まずは最低限、これはできるようにしよう」
「同じことを2度言われないようにしよう」
「言われなくてもやるようにしよう」
30分間、大体私が喋ってしまった。そんなに同じこと何度も言うなよとか、早く終わらないかなぁとか、思ってるんだろうなぁ。なんてことを考えながら、表面上は前向きな雰囲気で面談を終えた。
その後、パソコンでメールを打っているときに、ふと思う。私が新入社員に口酸っぱく伝えたことと同じことを、私は妻に毎日言われていないか?
職場ではできる、家庭ではできない。
特に家事関連で、様々なダメ出しをされている自覚はある。
「キレイ好き」な妻と、多少部屋が汚れていたり散らかっていたりしても気にならない私。美意識や衛生観念にギャップがある状態で2年前にスタートした結婚生活において、「私、それなりに頑張ってるよね」と思っていた。
しかし、先輩から指示されたことを一生懸命こなしていた新卒1年目のあの時と同じような気持ちで、毎日家の中で言われたことを意識して生活しているかというと、そうではない。
横でご飯を食べている妻に、聞いてみた。
「今まで私に言ってくれた数々のこと、覚えてる…?」
ふっと笑う妻。夕食後、スマホを操作し始めたかと思うと、一瞬でリストにしてまとめてくれた。
それがこちらだ。
私はただのやばいやつ。
ぐぅ……。直接言われていることのはずなのに、文字にして一覧を眺めると、ダメージが凄い。たまに思い出して意識しているものもあれば、全く忘れていたものもある。そしてちょこちょこ、家事の話ですらない、単に自堕落な点もあって恥ずかしい。
部活からへとへとになって帰ってきて、服を脱ぎ捨てお風呂に入り、作ってもらった夕食を食べ、明日も朝練があるからとすぐに寝て、母親の言うことを聞いているようで全く聞いていない、あの頃の私となんら変わらない。親に怒られている子どもそのものだ。
妻はキレイ好きで、私はちょっとだらしない。
これまで、そんなふうに思っていた。でも、そうではなかった。
言われたことを適当に聞き流し、一度言われたことが中々出来るようにならず、同じことを何度も指摘され、最低限のことすら満足にできていない、ただのやばいやつだった。
法律上社員を中々クビにすることができない日本企業においても、退職勧告されるレベルなのではないか。
職場では、
・給料をもらっているから
・上司や取引先のプレッシャーがあるから
・怒られたくないから
・周囲に「できるやつ」と思われたいから
・評価されて褒められたいから
・出世したいから
なのだろうか、頑張る自分がいる。家庭でも、それなりにやっていると思っていた。しかしながら、30の言葉を眺めて思う。
何度言われても聞いているようで聞いていない。「もう少し放置してくれたらやるのになぁ」と言ったこともある。細部まで見ていない。やっているようで、最後までやっていない。何度同じことを言われても、ほとんど直っていない。
「聞かない・見えない・直らない」
私を象徴する、最悪なキャッチコピーだ。
妻は私に、何度も伝えてくれている。しかも私が嫌な気持ちにならないように、優しい言い方をしたり、冗談混じりに伝えてくれたり、時には"ふり"というのが伝わるように怒ったり、気を遣ってくれていた。
「鈍感力」という言葉があるが、家庭において鈍感は罪である。そんなことを今更思いながら、改めて反省しようと自戒の念を唱えながらリストを見返して、最後の行を見た。
妻…泣。クソな私でごめん。そして、面談で新入社員に伝えたことを脳内で反芻し、思う。
最低限のことはできるようになって、同じことを2度指摘されないようにして、言われなくてもできるようになろう。
やさしい妻に解雇されないように、ちゃんとしよう。