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妻に言われた30のこと
私は中間管理職である。先日、新入社員と面談をする機会があった。これまでの仕事を振り返り、今後の目標を立てるというのが主旨だ。
「まずは最低限、これはできるようにしよう」
「同じことを2度言われないようにしよう」
「言われなくてもやるようにしよう」
30分間、大体私が喋ってしまった。そんなに同じこと何度も言うなよとか、早く終わらないかなぁとか、思ってるんだろうなぁ。なんてことを考えながら、表面上は前向きな雰囲気で面談を終えた。
その後、パソコンでメールを打っているときに、ふと思う。私が新入社員に口酸っぱく伝えたことと同じことを、私は妻に毎日言われていないか?
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職場ではできる、家庭ではできない。
特に家事関連で、様々なダメ出しをされている自覚はある。
「キレイ好き」な妻と、多少部屋が汚れていたり散らかっていたりしても気にならない私。美意識や衛生観念にギャップがある状態で2年前にスタートした結婚生活において、「私、それなりに頑張ってるよね」と思っていた。
しかし、先輩から指示されたことを一生懸命こなしていた新卒1年目のあの時と同じような気持ちで、毎日家の中で言われたことを意識して生活しているかというと、そうではない。
横でご飯を食べている妻に、聞いてみた。
「今まで私に言ってくれた数々のこと、覚えてる…?」
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ふっと笑う妻。夕食後、スマホを操作し始めたかと思うと、一瞬でリストにしてまとめてくれた。
それがこちらだ。
(1) 窓をベタベタ触るんじゃない、窓掃除の手間知ってるか。
(2) 洗濯物を取り込まないときは翌日の天気予報みろ、ずぶ濡れになった洗濯物をもう一度干したことがあるか。
(3) 詰め替えた後のシャンプーのゴミ捨てろ。
(4) 鼻くそをほじったティッシュをそのまま置いておくな。すぐ捨てろ。
(5) アイスやお菓子のゴミを床に置いたまま寝るな。
(6) 使ったコップは洗ってから次のを使え。
(7) トイレットペーパーの芯をコレクションするな。(床に置いたままにするな)
(8) 掃除機は端っこまでかけてくれ。
(9) 洗い物の後の泡や、スープを捨てたシンクをちゃんと水で流せ。「え、やったよ??」と言うな。流れてなかったらそれはただのポーズだ。
(10) 食器を洗ったスポンジは定位置に戻せ、臭くなる。
(11) 出かける前にこちらが家事をしているときに、「私はもう出れるよ」と言うな。
(12) 洗濯物は広げて干してくれ、シワになる。
(13) なんでもかんでも物の在り処を聞くんじゃない。
(14) ヒゲ剃りや整髪したあとの洗面台を綺麗にしろ。
(15) じゃあ水で流せばいいんだろ、は違う。毛のせいで水が流れず詰まっているのを見てみぬふりするんじゃない。
(16) 料理をした時に汚したコンロは拭いてくれ。作って終わりじゃない。
(17) 食器を濡れたまましまうんじゃない。
(18) 料理に使うカニカマをこっそり食い尽くすな。
(19) 中途半端に残した食材を腐らせるのも、腐った食材の処理をしないのもやめてくれ。
(20) 脱いだ服をそのまま床に置いておくな、脱皮か。
(21) ゴミ捨てとは、次のゴミ袋をゴミ箱にセットするまでが仕事だ。
(22)各種ゴミの日はいつになったら覚えるんだ。
(23) ゴミが溢れているのを無視するな、よくアイスのゴミがゴミ箱の蓋にへばりついている。拭き掃除したことはあるのか。
(24) お肉のトレイは小さなビニール袋に入れて、口を閉めてからゴミ箱に入れてくれとあと何度伝えればいいんだ。
(25) 臭くなったゴミ箱を「うわっ、くさっ」と言って放置するな。ゴミ袋を取り替えて、ゴミの日までベランダに置いておくとかしてくれ。
(26) 洗濯機のフィルターの掃除をしたり、風呂のカビ取りをしたり、水周りの水垢掃除をしたり、足りない消耗品を確認して買い出しをしたり、エアコンの掃除をしたり、やったことあるか。
(27) 使った傘は干せ、自分のならまだしも、人の傘を錆びさせるな。
(28) 宅配便の宛名は剥がしてから捨ててくれ。
(29) たまには郵便受け確認したりといった、名前がつかない家事もやってくれ。
(30) お風呂掃除は、浴槽を掃除することだけじゃない。床を磨いたり、排水溝を掃除したり、シャンプーボトルの下の滑りを掃除したり、カビ取りをしたり、カビが生えないように定期的に燻煙剤を使ったりもしている。
私はただのやばいやつ。
ぐぅ……。直接言われていることのはずなのに、文字にして一覧を眺めると、ダメージが凄い。たまに思い出して意識しているものもあれば、全く忘れていたものもある。そしてちょこちょこ、家事の話ですらない、単に自堕落な点もあって恥ずかしい。
部活からへとへとになって帰ってきて、服を脱ぎ捨てお風呂に入り、作ってもらった夕食を食べ、明日も朝練があるからとすぐに寝て、母親の言うことを聞いているようで全く聞いていない、あの頃の私となんら変わらない。親に怒られている子どもそのものだ。
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妻はキレイ好きで、私はちょっとだらしない。
これまで、そんなふうに思っていた。でも、そうではなかった。
言われたことを適当に聞き流し、一度言われたことが中々出来るようにならず、同じことを何度も指摘され、最低限のことすら満足にできていない、ただのやばいやつだった。
法律上社員を中々クビにすることができない日本企業においても、退職勧告されるレベルなのではないか。
職場では、
・給料をもらっているから
・上司や取引先のプレッシャーがあるから
・怒られたくないから
・周囲に「できるやつ」と思われたいから
・評価されて褒められたいから
・出世したいから
なのだろうか、頑張る自分がいる。家庭でも、それなりにやっていると思っていた。しかしながら、30の言葉を眺めて思う。
何度言われても聞いているようで聞いていない。「もう少し放置してくれたらやるのになぁ」と言ったこともある。細部まで見ていない。やっているようで、最後までやっていない。何度同じことを言われても、ほとんど直っていない。
「聞かない・見えない・直らない」
私を象徴する、最悪なキャッチコピーだ。
妻は私に、何度も伝えてくれている。しかも私が嫌な気持ちにならないように、優しい言い方をしたり、冗談混じりに伝えてくれたり、時には"ふり"というのが伝わるように怒ったり、気を遣ってくれていた。
「鈍感力」という言葉があるが、家庭において鈍感は罪である。そんなことを今更思いながら、改めて反省しようと自戒の念を唱えながらリストを見返して、最後の行を見た。
いっぱい書いたけど、いつもありがとう。
妻…泣。クソな私でごめん。そして、面談で新入社員に伝えたことを脳内で反芻し、思う。
最低限のことはできるようになって、同じことを2度指摘されないようにして、言われなくてもできるようになろう。
やさしい妻に解雇されないように、ちゃんとしよう。