夫視点の不妊治療
noteの検索窓で「不妊治療」と打ち込むと、ぱっと見、女性だと思われるアカウントの記事が多数表示される一方、男性だと思われるアカウントの記事は少ない印象を受ける。
記事の数だけ、そこに夫婦2人による不妊治療が存在しているはずなのに、女性側の話ばかりなのは、なぜだろう。
それは、女性の方が圧倒的に、治療を自分ごと化せざるを得ない場合が多いからだと思う。夫である私も、妻と同じレベルかそれ以上に、不妊治療を自分ごととして捉えることができていたかと言うと、自信はない。
しかしながら、夫として治療に取り組む上で意識した点はある。今回は、「妻だけの不妊治療」にならないために、最低限これだけはやるべきだと感じた4つのことを紹介したい。
相手のせいにしない
結婚して2年程度が経過し、妻が婦人科に通院し始めた。最初に、「子供ができづらいかもしれない」という話になった時、私は「私のせいかも」と、やんわり思った。
こういう動画を見ていたからだ。
私の精子に何らかの問題があるのかもしれない。すぐにAmazonで、TENGA メンズルーペという簡易的な検査キットを購入し、「はじめての精子検査」を行った。結果をひとことで言うと、微妙。正常な量・運動率の精子の状態と見比べて、自分の結果がどうかを判断するのだが、見た目には少し運動している精子が少ないように見えるが、そんなに変わらないようにも見える。
その後、妻が最初に通っていた婦人科とは別の、銀座の一等地にある不妊治療専門のクリニックに行くこととなった。そこで改めて、ちゃんとした精子検査を実施することになる。
後日渡された検査結果のシートを見ると、やはり私の精子たちの運動率は、WHO(世界保健機関)が定めている下限値を下回っていた。その代わりと言ってはなんだが、精液量は下限値の6倍。例えるなら、働き者があまりいないアリの大集団である。
実際、およそ半分の割合で不妊には男性が関与していると言われている。
もちろん、原因がどこにあるかに関係なく、治療は2人で向き合うべきものだと思う。しかしながら私にとって、この自分の精子を点検してみるという作業は、不妊治療を自分のこととして捉える第一歩だったように感じる。
病院に行く
妻が最初の婦人科に通っていた時、私は一度も同行しなかった。特に2人で話をしていなかったので、何のために通院しているかを知らなかったが、一方で自分から聞くこともしなかった。
私がはじめて病院に行ったのは、他の診察や治療なども行う婦人科ではなく、不妊治療を専門とする、銀座にあるクリニックに妻が通い始めたタイミングだ。そこで理事長だというおじいちゃんの眠くなるような話を聞いたり、血液検査をしたり、精子検査をしたりした。
ただ、このクリニックに通っていた時も、私は一緒に行くこともあれば、行かないこともあった。妻に来て欲しいと言われた時は行くようにしていたが、毎回言われるわけではない。むしろ気を遣って来なくていいよと言ってくれていたので、それに甘えていた。でもある時、ふと思った。
同棲する家を決めるための不動産屋、指輪を買うためのジュエリー店、結構式場を決めるためのブライダルショップには、当たり前のように2人で行っていたのに、なぜ不妊治療の病院には妻1人が行くのだろうか。
同じように2人で決めて取組むべきことのはずなのに、妻1人に任せてしまっていたことに、急に違和感と申し訳なさを感じ、それからは必ず、病院には一緒に行った。
私たちは、不妊治療の方法として体外受精を選択した。ものすごくざっくり流れをまとめると、「薬で卵を育て、いいタイミングでお腹から取り出し、精子と受精させて、育った受精卵を子宮に戻す」という感じだ。
採卵(=卵子をお腹から取り出す)の実施日が月曜日の朝早い時間だったので、病院の近くのホテルに泊まり、翌日は時間休を取って同行した。妻には仕事があるんだから来なくて良いと言われたが、押し切った。
入院患者さんが着用するような服に着替え、移動式のベッド乗って手術室に入り、全身麻酔をしてから採卵を終え、ぐったりとした様子の妻に、「いてくれて本当に良かった」と言われた時は、行って本当に良かったと思った。
調べて質問する
私の妻は、お願いしたり、追求したり、注文をつけたりするのが苦手なタイプだ。
例えば、ラーメン屋に行ったとき、ラーメンの中に髪の毛が入っていても特に何も言わない。飛行機で「フィッシュ」の機内食を頼んだ後、やっぱり「ビーフ」が食べたくなっても変えてくださいとは頼まない。
診察室でも、似たようなところがあった。なのである時から、その場で気になったことや、家で妻が不安を口にしていたこと、自分で調べてみたもののよく分からなかったことを、先生に積極的に質問するようになった。
ただ、よくよく考えれば、これが仕事であれば、普通のことである。自分が何かのプロジェクトを任されることになった時は、それがどういうものなのか、今後どういうスケジュールで進めるべきなのか、課題は何か。分からないことは、分かるまで質問する。会議で黙っている人は、その仕事を自分ごとにできていない人だと思う。
私は、オンライン会議で何も喋らず、画面を消してその場にいるだけのサラリーマンになりかけていた。そのことに気づけて良かったと思うと同時に、質問をして先生や妻と診察室でコミュニケーションを取るだけで、自分も治療に取り組むチームの一員であるという感覚が芽生えてきた。
感謝する
不妊治療のチームメンバーになれたとはいえ、私たちの場合、実際に負担の大きい治療や検査を受けるのは妻だ。
診察の前に毎回採血をするのだが、これまでに抜いた血がどれくらいの量だったのかをざっくり計算したら、1リットルを越えていた。
病院で処方された薬が数種類、その他漢方、葉酸やビタミンDのサプリメントなど、多い時だと6種類くらいの薬を毎日、苦いものを食べるような顔で飲んでいた。
卵を育てるために、10日間連続でお腹に注射を打っていた。妻は注射が苦手だ。自分で針を刺すのは、人にやってもらうより怖いだろう。
ホルモンバランスを調整するために、お腹に4枚のシールを貼っていた。シールだが、強力な成分が含まれているので副作用もある。この時期はよく気分が悪そうにしていた。
私は、代わりに血を抜いたり、薬を飲んだりすることはできない。気分が悪そうな妻の背中をさすったり、大丈夫?と心配そうな顔をすることしかできない。
なので、一つひとつにお礼をした。
「ジョジョの奇妙な冒険 第3部」でポルナレフを狙った敵の攻撃を一身に引き受けたアブドゥルのように、痛みや辛さを一身に引き受けてくれている妻に、これからもしつこいくらいに感謝を伝えていきたい。