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シェア本棚明石な人々~昭和のたこせんと小桃ちゃん~

 明石市の西の方にある魚住という長閑な町で『シェア本棚明石』という古本喫茶を営んでいる。1日の来客数は10人以下で半分は小学生。しかしそこには毎日ユニークな人がやってくる。

~昭和のたこせんと小桃ちゃん~

新学期が始まり日も長くなって来た頃のお話。
閉店時間が過ぎでも外はまだ明るかったが、
お客もいないのでそろそろ片付けを始めようとした頃、
小桃ちゃんが一人で自転車でやって来た。
小桃ちゃんが来るのは久しぶりだ。

「こんにちは!」
「こんにちは!」
 弊店は挨拶を元気よくしない人は店に入れない。小桃ちゃんはいつも元気だ。「何年生になったの?」
「四年生」
「そっか、四年生になったか!」

小桃ちゃんももう四年生か。なんか早いなあ。

「おっちゃん! ”昭和のたこせん”ちょうだい!」
「はいよー。今日はスペシャルデーだから50円ね」

小桃ちゃんは財布から100円玉を取り出して僕に渡し、50円のお釣りを受け取った。
「5、6分待ってな」
「はい!」

弊店のたこせんとは、私の叔母が発明したとされていて(諸説あり)、
それを引き継いでいる。
橙色のせんべいにソースを塗ってたこ焼きを2個挟む。

小桃ちゃんは、店においてある都市伝説を読んで、
たこせんができるのを待っている。


「はい、たこせんできたよ。どうぞ」

たこせんをビニール袋に入れて手渡した。
すると小桃ちゃん、ビニール袋から取り出そうとしている。

「あ、ここで食べる?」
「うん」
「ごめん、おっちゃん持って帰ると思ってたから。今お皿持ってくるね」

小桃ちゃんはたこせんをビニール袋から取り出しお皿に移した。

「おっちゃん、これ半分マサヒロに持って帰るわ」
 マサヒロとはきっと弟のことなのだろう。
「でも、それ半分にはできへんわ」
 出来上がったたこせんを半分にするのはなかなか難しい作業なのだ。

「じゃあ、私が半分食べて、残った半分を持って帰る」
 なるほど。食べ残して持って帰るのだな。弟だし家族だからいいか。
「お、それやったらええよ」

 小桃ちゃんはたこせんを食べ始めた。
「弟は何年生なの?」
「2年生」

こっちに振り向いて答えた小桃ちゃんの口の周りはソースがいっぱい付いていて、まるでカールおじさんのようだ。

「おっちゃん、半分食べたから、このビニール袋に残り入れるね!」
「ちゃんと半分残せたか?」
「うん。食べた半分にたこ焼きがなかったから、一個取って食べた」
 向こう側に寄ってしまったたこ焼きの一個を食べたってことだな。

「おっちゃん、美味しかった、ありがとう!」
 小桃ちゃんはお皿を運んで来てくれた。
「はい。ありがとう」
 僕はお皿を受け取って流し台へ。

「おっちゃん、あとこれ買うわ」
 ホールに戻ると駄菓子を三つ持っている。10円のが一つ、20円のが2つ。「ありがとう。50円やな」

「うん。さっきもらった50円で買うわ」
 小桃ちゃんは50円を取り出しながら、
「これがお父さんの、これがお母さんの、これがマサヒロの」
 と説明をしてくれた。

「小桃ちゃんのがないやん?」
「うん。ええねん。みんなこれ好きやから」
 僕は小桃ちゃんの分を一つプレゼントしようかと思ったが、
 小桃ちゃんのその家族への思いを大切にしたくて、
 大人的な対応はやめることにした。

 小桃ちゃんみたいな家族思いの優しい子に出会えることができるなんて。
 店をやってて良かったと思う瞬間である。

 こんな優しい子たちが増えたら、
 世界から戦争なんて無くなるのになって思った。

(らおばん)

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