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Dr.本田徹のひとりごと(40)2012.2.27
デビッド・ワーナーさんからの、すてきな絵の贈り物
- 1966年のオホヤ(Ajoya)クリニック
これまでもこの「ひとりごと」で重ねて語ってきましたが、プライマリ・ヘルス・ケア(PHC)がアルマ・アタ宣言(1978)に結実する源流には、世界のさまざまな地域での、住民やNGOや途上国政府による独創的な試みがありました。
佐久総合病院の若月俊一先生たちが戦後一貫して、南佐久の広大な山間地域で展開してきた農村医学の運動も、当時PHCという名では呼ばれていなかったとしても、すぐれたモデルの一つだったことは間違いありません。
1960年代から、デビッド・ワーナーさんが、メキシコ西部のシエラ・マドレ山脈の嶺(みね)の村々で、地元の人びとと力を合わせ、30年以上に亘り続けてきた、「プロジェクト・ピアスラ」(Project Piaxtla)。その「母体」となった、アホヤ(Ajoya)クリニックもまた、PHCに関する、すぐれてパイオニア的な試みだったと言えます。
当時の姿を思い出して、つい最近デビッドさんは、シェアと本田のために、特別な絵を描いて送ってくださいました。
昨年の11月、シェアの招きで東ティモールに来られ、精力的に講演やワークショップを開いてくださったデビッドさんは、困難な自然環境や経済条件のもとで、病気の予防や健康づくりに献身する村人、そしてシェアのスタッフを見て、自分が若かった頃のことを鮮明に思い出されたようです。
ほんとうにうるわしい贈り物をいただき、ただただ感謝です。
デビッドさんが贈ってくれたこの絵を、皆さんにもじっくりご覧いただきたいと思い、早速、今回の「ひとりごと」でご紹介させていただくことにしました。
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絵の前景に描かれている、座ってけがをした少女の腕に包帯を巻いてあげているのは、若き日のデビッドさん自身です。髭面(ひげつら)と優しい面差しは、何十年経っても、デビッドそのものですね。この絵を隅々まで、飽きずに見ていて驚くのは、生き物の豊饒さです。
「隠し絵」や「探し絵」の趣が、クリニックに棲みつくトカゲとか、ヘビとかケムシとか、カエルとかサソリとか、トンボとかクモとかに、生き生きと表現されていて、まあまあ、目を見張るばかりです。
病院衛生管理、感染症対策といった仰々しい、21世紀の最先端の医療思想からはまったくとんでもないクリニックと言えるのかもしれませんが、ここにはまぎれもなく、人とイキモノ、ケアをする人と環境との、なんとも言えずほほえましい調和が見られます。すべての生あるものをできる限り大切にするエコロジーの思想とも言えます。
あるいは、梅原猛さんが近年繰り返し言挙げしておられるように、デビッドさんの絵の世界は、千数百年の間、日本人の精神的な背骨を作ってきた天台密教思想としての「草木国土悉皆成仏」につながる光景と言えるのかもしれません。
そしてもう一つ、シェアにとって非常にうれしく、すこし誇らしいお知らせですが、デビッドさんの最新のニュースレターで、東ティモールでのシェアの保健教育活動とデビッドさん自身の講演やワークショップのことが詳細に報告されています。
・「HealthWrights」 http://healthwrights.org
“Newsletter from the Sierra Madre #69, Feb. 2012
East Timor – The Challage for Human, Environmental and Political Health
by David Werner”
※このホームページでは、「Project Piaxtla」についても、さらに詳しく知ることができます。PHCの源流を確かめる意味で、ぜひ、ご覧になってみてください。