外国人母子にも必要な保健医療サービスが届くように ~母子保健通訳の活用状況のご報告~
こんにちは。在日外国人支援事業担当の松尾です。
先日、日頃お世話になっている自治体の保健師さん、東京都助産師会の助産師さんと一緒に、外国人対象の母親・両親学級をテーマに講演会を開催しました。それぞれの立場での活動内容や思いを聴き、良い刺激・学びになり、また参加した方々からも温かいメッセージをいただき、とっても充実した時間となりました。講演会については、また改めてご報告したいと思います。
さて、シェアでは2021年4月から赤い羽根福祉基金のご支援をいただきながら、東京都内の4区を中心に、母子保健分野の医療通訳の活用促進に向けた活動を行っています(事業の詳細は、過去のブログをご参照ください)。
今回は、活動を開始してからこの2年間の母子保健通訳の活用状況等をご報告いたします。
対象地域を中心に母子保健通訳の活用が増加
まず母子保健通訳の対応件数ですが、事業開始前から、当会とつながりのある自治体の保健師さんや医療機関のソーシャルワーカーさんからの依頼に対応してきましたが、2021年度に事業を開始し、本格的に母子保健通訳に取り組むようになってから、対応件数は約3倍に増え、その後も少しずつ増加してきています。また、母子保健通訳の依頼元も、年々増加してきています。
2年間で13言語、167件の母子保健通訳に対応!その半数がネパール語
次に、母子保健通訳の対応言語ですが、2021年度と2022年度の2年間で、84ケース167件の通訳依頼に対応し、その内半数以上がネパール語となっています。地域性もありますが、外国人妊産婦の中でも、特に日本語も英語も話せないネパール人妊産婦が多い!ということを実感しています。これは、対象地域のネパール人家庭の多くが、夫が先に日本で働き始め、生活が安定した数年後に妻を呼び寄せ、妻は来日間もなく日本語もあまり話せない中で妊娠・出産を迎えることが多いからだと考えています。
ネパール語の次に多いのが英語で、欧米出身の方への依頼もありますが、アジア・アフリカ圏出身の方への依頼が多くなっています。その後は、中国語、フィリピン語、ベトナム語、ミャンマー語と続き、アジア圏を中心に多国籍・多言語の通訳ニーズがあることを実感しています。
母子保健分野の通訳ニーズは多岐にわたることを実感
次に、母子保健通訳の活用場面ですが、医療機関からの依頼も全体の3割程あることから、「子どもの病状・治療の説明、在宅療養支援」の場面での活用が最も多くなっています。外来受診時の通訳依頼もあれば、家庭でのお子さんの医療的ケアについて両親へ説明する際の通訳依頼等もあり、情報が正しく伝わり理解されることの重要性、医療通訳の必要性を改めて感じています。
次に多いのが「発達相談・療育の面談」での活用となっています。言葉の課題に加え、発達障害に関する保護者の認識は文化的背景等により様々である中で、外国籍の子どもへの発達支援は容易ではなく、効果的な支援に向け、医療通訳の活用ニーズが高いことが分かってきています。
その次が「妊婦面談・産後面談」での活用となっており、在留資格や生活面での課題等があり、詳しい状況を確認し養育環境を整えていく必要がある場合や、産後の母親の精神面が心配で、しっかり話を聴き必要な支援へつなげていきたい場面等での依頼が多くなっています。
母子保健通訳を始めた当初は、赤ちゃん訪問や乳幼児健診等の基本的な母子保健場面での活用を想定していましたが、実際はそれ以外にも、医療的ケアが必要なお子さんへの支援、発達支援、病院での保健指導や保育園との調整、児童相談所の関わるケースなど、細やかな状況把握と情報提供が求められる様々な場面で医療通訳ニーズがあることを実感しています。
母子保健通訳を活用した保健医療福祉従事者からの声
実際に母子保健通訳を活用された保健医療福祉従事者からは、
「これまで日本語の話せる夫と話し聞けなかった、妊産婦自身の気持ちや困り事を確認することができ、知りたい情報も伝えられ、必要な支援につなげることができた」
「お母さんが、母国語で話せる環境にとても安心され、たくさん話してくださった。母国語で話せる環境の大切さを実感した」
といった感想が聴かれるとともに、
「最初は、行政職員(保健師等)に相談できるということもわからずとても困っていたご家族が、何度か医療通訳を活用して関わっていく中で、『困った時には相談してよい』ということを理解され、今はお子さんのことで困り事があると早めに相談してくれるようになった」
「医療通訳を活用したことで、両親が入院中のお子さんの状況等を理解され、しばらく遠のいていた面会にまた来てくれるようになった」
という、外国人家族の変化についても話が聴かれています。
医療通訳を活用することで、外国人妊産婦は、自らの状況や思いを理解されること、必要な情報を得られることで安心でき、保健医療福祉従事者も、納得のいく支援につなげていくことができると感じています。そして、そういった関わりの中で、お互いに信頼関係が築け、切れ目のない支援に繋がっていくのではないかと思っています。
言葉の壁により得られる情報や受けられるサービスに差がでることなく、すべての妊産婦や母子が必要な情報やサービス等にアクセスでき、安心・安全に出産や子育てを行っていける社会を目指して、引き続き活動してきたいと思います。
*引き続き応援よろしくお願いいたします*
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