マハーバーラタ/6-23.クリシュナの怒り

6-23.クリシュナの怒り

三日目の早朝、カウラヴァ軍の総司令官ビーシュマはガルーダの陣形を指示した。

くちばしの位置にはビーシュマ自身が率いる軍、
両目の位置はドローナクリタヴァルマーの軍、
頭をアシュヴァッターマークリパの軍が形作り、
首の部分をトリガルタとジャヤドラタの軍が形作った。
心臓の位置には王ドゥルヨーダナが弟達と共に配置された。
尾はコーサラ王ブリハドバラの軍によって形作られた。

祖父ビーシュマによって整えられた敵軍を見たアルジュナは、総司令官ドゥリシュタデュムナと相談し、三日月の陣形に決定した。

右側の先端にビーマ、
そして三日月の縁に沿ってドゥルパダ軍とヴィラータ軍、
その背後にはニーラ軍とドゥリシュタケートゥ軍、
さらにドゥリシュタデュムナ自身の軍とシカンディー軍が続いた。
三日月の中央には王ユディシュティラと象の軍、
左に向かってドラウパディーの5人の息子達の軍、
さらにアビマンニュ軍ともう一人のアルジュナの息子イラーヴァーンの軍、
ガトートカチャとケーカヤ兄弟も配置された。
そして左側の先端にはクリシュナが戦闘馬車の手綱を握るアルジュナが配置された。

戦いが始まった。
戦士達の激しい戦いが続き、戦場に巻き上がった土煙によって太陽は隠された。

ビーシュマがいつものようにパーンダヴァ軍に突撃し、まるで破壊に熱狂しているかのようであった。ユディシュティラの象部隊の方へ進むと、ナクラサハデーヴァが兄を守った。それを目撃したアルジュナがその場へ急いだ。

一晩経って元気を取り戻したカウラヴァ軍はよく戦っていた。
シャクニの軍に対してはアビマンニュとサーテャキが戦った。シャクニがサーテャキの戦闘馬車を破壊すると、サーテャキはアビマンニュの戦闘馬車に飛び乗って戦い続けた。

この日はガトートカチャの武勇が際立っていた。
父ビーマを超えるほどに強く、簡単にドゥルヨーダナの大軍を破壊した。
そこへビーマが駆け付け、ドゥルヨーダナと対決した。
ビーマの猛攻撃もまた激しく、ドゥルヨーダナは戦闘馬車の中で気絶してしまった。それを見た御者はすぐに戦場から王を連れて逃げ出した。

ドゥルヨーダナが目を覚ました時、前線ではビーマとサーテャキによる大破壊が起きていた。驚くほどの速さで減っていく自軍の光景に恐ろしくなり、ビーシュマに駆け寄った。
「祖父よ! あなたがいるのに、なぜこんなことが起きているのか? ドローナもアシュヴァッターマーも生きているのになぜなんだ!
あなたはパーンダヴァのことが好きだから贔屓しているのだろう。我が軍の兵士が殺戮されているのを見ているなんて、そうとしか考えられない!
ドローナも同じだ! あいつらと戦いたくないんだろう。
それならそうと戦争の前に言ってくれれば総司令官なんて頼まなかったのに! 私のことを見捨てるつもりなら、私に愛情を持っていないなら、そう言ってくれればよかったのに!
ああ、もうラーデーヤに来てほしい」

ビーシュマは笑った。
「孫よ、何を言っているんだ? 何日も前から、いや、何年も前からパーンダヴァ達は無敵だと言っていただろう。たとえインドラであっても倒せないと。しかしお前は全く聞こうとしなかった。
私もドローナもあなたを愛しているからこちらの軍についているんだ。最善は尽くしている。
私はもうすでに老人だが、若者に負けない戦いをしている。
見ていなさい。これまでとは違う方法で敵軍を破壊してみせよう」

ビーシュマは怒りのほら貝を吹きならしてパーンダヴァ軍へ向かって飛び出していった。

それはちょうどお昼のことだった。

今日のパーンダヴァ軍はこれまでは優勢であったが、ビーシュマの様子が一変したことで不安が走った。
ビーシュマの弓は絶え間なく鳴り続け、彼が通った後に流れる血の川は激流に変わった。彼はまるで戦場で踊り狂っているかのように戦った。
アルジュナはビーシュマを追いかけようとしたが、先ほどまでは東にいたかと思えば、次の瞬間には西で戦っていた。舞台の中央を占領して離れたくないと言っているかのようだった。パーンダヴァ軍の中にはその老戦士に立ち向かえるものは誰もいなかった。

クリシュナはその様子を見てアルジュナに話しかけた。
「アルジュナ、あなたの言葉を真実にする時が来た。あなたの心に弱さを入れさせるのは間違いだ。
見てみなさい。あなたの祖父ビーシュマによって、まるで太陽に触れた雪のように味方の兵士たちが解けていっている。彼らに何の憐みも感じないのかい?」

アルジュナは決意を固めて言った。
「あの場所へ連れて行ってくれ。私が戦う」

アルジュナの戦闘馬車がビーシュマに向かって進んでいるのを見て、全員が喜んだ。

アルジュナとビーシュマの戦いが始まった。

アルジュナの矢がビーシュマの旗を落とした。

矢を美しく放ち続けるアルジュナの動きを見てビーシュマが言った。
「アルジュナ、見事な動きだ。あなたと共に過ごせることは私にとって喜びだ。さあ、戦いを続けよう」

戦い続ける二人をクリシュナは冷静に見ていた。
「まずいな。アルジュナの攻撃はこんなものではないはずだ。親愛なる祖父と戦っているということが頭から離れていない。
しかしこの老人を止めなければパーンダヴァ軍は手も足も出ない。
パーンダヴァ達の為に私が殺さなければならない。ユディシュティラの肩の重荷を降ろすんだ。
何度言ってもアルジュナは自分の役割を忘れてしまう。私がやるしかない」

そんな風にクリシュナが考えていたまさにその時、ビーシュマの矢が自分に当たった。
アルジュナはビーシュマだけでなく、ドローナ、ジャヤドラタ、ブーリシュヴラヴァスとも同時に戦う状態に陥っていた。

その危機を聞いたサーテャキがアルジュナの元へ急いだ。
周りの味方達はどうすることもできずに近くで立ち尽くしていた。

サーテャキはアルジュナの戦いぶりを見て気付いた。
「いつものアルジュナじゃない」

クリシュナは駆けつけてくれたサーテャキの勇敢さに喜んだ。
「サーテャキ。よく来てくれてた。
見ててくれ、私があの恐ろしい老人ビーシュマとドローナを殺すところを。
私がやらなければならないんだ。
私はユディシュティラを王にすると誓った。
私はあの罪人たちの血で大地を染めるとドラウパディーに約束したんだ。
罪を犯した者を罰するんだ。
アルジュナには無理だったんだよ」

クリシュナは人間の姿を忘れていた。
偉大な破壊者ナーラーヤナ神の姿であった。
この戦争で武器を持たないと約束したクリシュナは今、
ナーラーヤナとなり、彼の武器であるスダルシャナという名のチャックラ(円盤)を思った。
思った瞬間、手の中にそれが現れた。

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