マハーバーラタ/6-27.ビーシュマに迫るシカンディー
6-27.ビーシュマに迫るシカンディー
七日目の朝がやってきた。
ビーシュマはカウラヴァ軍をマンダラヴューハに整えた。
それは防御力の高い円形の陣形であった。
ユディシュティラはアルジュナに命じてパーンダヴァ軍をヴァジュラヴューハに整えた。こちらもまた難攻不落と言われる陣形であった。
この日の戦いは将軍クラス同士の決闘で行うことが約束されていた。
対戦が始まった。
ヴィラータとドゥルパダに対してドローナが戦いを挑んだ。
シカンディーに対してはアシュヴァッターマーが攻撃を仕掛けた。
パーンダヴァ軍の総司令官ドゥリシュタデュムナはカウラヴァ軍の王ドゥルヨーダナと対戦した。
ナクラとサハデーヴァは伯父シャルヤに立ち向かった。
アルジュナはヴィンダとアヌヴィンダの挑戦を受けた。
ビーマはクリタヴァルマーと戦った。
アビマンニュはチットラセーナ、ヴィカルナ、ドゥッシャーサナと戦った。
ガトートカチャにはバガダッタが立ち向かった。
サーテャキはカウラヴァ軍のラークシャサ(妖怪)アランブシャに立ち向かった。
ドゥリシュタケートゥはブーリシュラヴァスと戦った。
ユディシュティラはシュルターユスと戦った。
チェーキターナがクリパに立ち向かった。
それぞれの対戦が激しく始まり、
アルジュナは両軍を見渡してクリシュナに話しかけた。
「クリシュナ! ビーシュマによって指示されたこの陣形を見てくれ!
トリガルタの軍がこの陣形を守っている。私がこのヴューハを破壊してみせよう」
アルジュナはガーンディーヴァの弦を鳴らし始めた。
その弓から流れ出た矢はトリガルタの軍に雨となって降り注いだ。
彼の攻撃に対抗するために敵軍からたくさんの王達が送り出された。
そこでアルジュナはアインドラアストラを放った。
そのアストラによって降り注いだ猛烈な矢の雨によって敵軍は混乱し、陣形は分散した。
トリガルタ軍の王スシャルマーは急いで撤退し、たくさんの者達が助けを求めてビーシュマの元へ駆け込んだ。
その様子を見ていたドゥルヨーダナはスシャルマーに近寄って話しかけた。
「我が祖父ビーシュマがこれからアルジュナと戦うだろう。あなたは彼を助けなさい」
白馬に引かれた銀色の戦闘馬車に乗ったビーシュマはアルジュナを攻撃し始めた。
ビーシュマとアルジュナの戦いが始まると、それを見る為に戦いを中断する者が現れ始めた。
他の場所で行われている対戦にも動きが見られた。
ヴィラータはドローナを相手に善戦していた。
ドローナの弓を破壊し、旗を落とし、御者を殺した。
ドローナもまたヴィラータの御者を殺した。
ヴィラータは息子シャンカの戦闘馬車に乗り、一緒に戦い続けた。
怒り狂ったドローナはシャンカに向かって恐ろしい矢を放つと、
その矢は若者の鎧を貫き、戦闘馬車からその体は落ちた。
ヴィラータにとっては息子が殺されたのは3人目であった。
怒りを露わにしたヴィラータはドローナに立ち向かったが、敵う相手ではなかった。
ヴィラータは戦場から去り、ドローナは破壊を再開した。
シカンディーとアシュヴァッターマーの対戦が続いていた。
シカンディーから放たれた3本の矢を額に受けたアシュヴァッターマーは怒りに身を任せてシカンディーの御者と馬達を殺した。
シカンディーは手に剣を持ち、まるで獲物の周りを旋回しながら攻撃する鷹のように戦った。
アシュヴァッターマーの矢を全て剣で防いだ。
そして剣を投げつけ、その隙にサーテャキの戦闘馬車に乗り込んだ。
そのサーテャキは無敵のラークシャサと考えられていたアランブシャと戦っていた。
アランブシャはマーヤーの術(幻術)を操り、サーテャキは空中から矢の雨を降らせた。
そして、サーテャキはマーヤーを打ち破るアインドラアストラを放った。
アランブシャはそれに対抗することができずに逃げ出す結果となった。
ドゥリシュタデュムナはドゥルヨーダナ王と戦っていた。
ドゥルヨーダナは彼の攻撃を軽く見ていた。
彼の攻撃によって戦闘馬車を失い、地面に立って戦っているところをシャクニに救出され、その後、しばらく戦ったが、ドゥリシュタデュムナに勝つことはできなかった。
ビーマはクリタヴァルマーと戦っていた。
ビーマはクリタヴァルマーの馬達を殺し、旗も落とした。ビーマの攻撃を受ける度に体がばらばらになるのではないかを感じた。
彼もまたシャクニの戦闘馬車によって救出され、逃げ出した。
ビーマはお気に入りの仕事、象軍の破壊を楽しみ始めた。
ガトートカチャとバガダッタの戦いはこの日の戦いの見どころであった。
巨大な象に乗って戦うバガダッタとラークシャサの息子ガトートカチャは全くの互角であった。
バガダッタはガトートカチャの馬を殺し、ガトートカチャは槍を投げつけて反撃しようとしたが、掴まれてへし折られた。
ガトートカチャはこれ以上戦うことはできず、逃げ出すしかなかった。
バガダッタの象はパーンダヴァ軍を破壊し始めた。
ナクラとサハデーヴァは伯父シャルヤと戦っていた。
シャルヤは二人の甥の成長ぶりに喜び、微笑みながらナクラを攻撃した。
彼の旗を落とし、御者と馬も殺した。
ナクラはサハデーヴァの戦闘馬車に乗って一緒に戦い続けた。
サハデーヴァの怒りは激しく、彼の放った槍はシャルヤの気を失わせた。
シャルヤの御者は主を乗せたまま戦場から逃げ出した。
昼に差し掛かっていた。
ユディシュティラはシュルターユスに矢のシャワーを浴びせた。
そんな中、シュルターユスは一撃を返すことに成功した。
一本の矢がユディシュティラの鎧を破壊した。
平然と戦っていたユディシュティラの表情が一変した。
まさに怒ったコブラのような表情であった。
いつも温和で愛想の良い表情はそこには無かった。
ユディシュティラの胸を目掛けて放たれた矢は粉々に砕かれ、
シュルターユスの馬が殺された。
それ以上戦うことが怖くなったシュルターユスは戦場から走り去った。
挑戦してくる者がいなくなったユディシュティラは敵軍を攻撃し始めた。
チェーキターナはクリパに対して優勢であった。
分が悪くなったクリパはシャクニによって戦場から連れ出された。
アビマンニュはドゥルヨーダナの3人の弟達を圧倒していた。
彼らを殺すことができる状態にまで追い詰めたが、彼はあえて殺さなかった。なぜなら彼らを殺すことを誓ったのは叔父ビーマであることを知っていたからであった。
ドゥルヨーダナの弟達を助けに現れたのはビーシュマであった。
ビーシュマはアビマンニュと戦い始めた。
それを見ていたアルジュナが言った。
「クリシュナ、祖父ビーシュマは我が息子アビマンニュの挑戦を受けた。きっとあのライオンにはてこずるだろう。この隙に私が行くべきところへ連れて行ってくれ」
アルジュナが破壊の雨を降らせながら進んでいくとトリガルタ軍の王スシャルマー再び立ちふさがった。
「偉大な戦士スシャルマーよ、聞きなさい。あなたがあのラージャスーヤの時から私に恨みを持っていることは分かっている。来なさい、先祖に会わせてあげよう」
スシャルマーは膨大な数の戦士達と共に一斉にアルジュナに襲い掛かった。
全方位から攻撃されたアルジュナは戦い続け、スシャルマーの味方を大勢殺して圧倒し、ビーシュマの方へ向かって進み始めた。
舞台の中心に居座るビーシュマの近くに英雄達が集まり始めた。
シカンディーとパーンダヴァ兄弟が集結した。
ビーシュマはパーンダヴァ達に矢の雨と同時に、微笑みの雨を降らせた。
まるで日光が地上を温めながら雨を降らせるかのような光景であった。
それでもユディシュティラは臆せず立ち続けた。
ドゥルヨーダナ、ジャヤドラタ、クリパ、シャルヤ、シャラ、チットラセーナ達がビーシュマを助けに来たが、その老人は立派な姿を見せ続けていた。
パーンダヴァ達に向かって突進して蹴散らした。
パーンダヴァ達は全く歯が立たなかった。
ユディシュティラは怒りを露わにした。
「シカンディー! あなたの出番だ!
あの老人は名前が示す通り、やはり恐ろしい。もうこれ以上パーンダヴァ軍は持ちこたえられない。急ぐんだ!!」
シカンディーがビーシュマの戦闘馬車の前へ向かって急いだ。
しかし、シャルヤがその道を邪魔した。
ビーマはジャヤドラタを鎚矛で殴って敗走させ、チットラセーナもまた彼の鎚矛で殴られて気を失った。
ビーシュマはユディシュティラを攻撃することに集中しているようであった。パーンダヴァ兄弟は必死に彼と戦ったが、完全に防戦一方であった。
アルジュナはトリガルタ軍に挑まれ、ビーシュマの近くから遠ざけられていた。トリガルタ軍の大部分を破壊することに成功したが、兄弟達の惨状を防ぐことはできなかった。
太陽が沈んだ。
戦いは止められ、それぞれテントに戻っていった。
この日のパーンダヴァ軍は、個人戦としては良い結果であったが、軍には大きな被害が出ていた。昨日までのように喜ぶことはできなかった。
あの老人ビーシュマをどう倒すべきか、ユディシュティラは考え込んだ。
シカンディーが彼の方へ向かって行ってもどうしても避けられてしまう。
約束されたビーシュマとの決闘がまるで実現しないかのようであった。
シカンディーは自分の中に前世の記憶アンバーを目覚めさせていた。
独身を貫いている人生からビーシュマを解放してあげたかった。
死が彼の誓いから解放させることを知っていた。
彼をなんとかして自由にしてあげたかったが、彼にはそのメッセージが伝わっていなかった。
そんな考えがシカンディーの頭に押し寄せていた。
そして、微笑んだ。
「明日です! 明日、私が彼を倒します!」
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マハーバーラタ 6.ビーシュマの章
マハーバーラタの第6章 戦争を前に思いやりの気持ちに圧倒されてしまったアルジュナ。 クリシュナによる教えバガヴァッドギーターによって 知識…
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