マハーバーラタ/5-1.ヴィラータ宮廷での作戦会議
5.準備の章
5-1.ヴィラータ宮廷での作戦会議
第一章(始まりの章)あらすじはこちら
第二章(サバーの章)あらすじはこちら
第三章(森の章)あらすじはこちら
第四章(ヴィラータの章)あらすじはこちら
アビマンニュの結婚式は終わった。
喜びのひとときは終わり、パーンダヴァ達の将来についての計画を立てる時がやってきた。
ヴィラータの町の集会ホールには各国の獅子達が集まり始めた。
最初にやってきたのはドゥルパダ王とヴィラータ王という二人の大ベテランであった。
ドゥルパダの横にはバララーマとサーテャキが座った。
ヴィラータの傍にはユディシュティラとクリシュナが座った。
そのさらに横にはドラウパディーの息子達、ビーマ、ナクラ、サハデーヴァ、アルジュナ、プラデュムナ、サムバが座った。
新婚のアビマンニュも参加した。
しばらくは雑談をしていたが、話題は次第に変わっていった。
その話題はパーンダヴァ達の将来と世界全体の運命についてであった。
クリシュナが立ち上がり、微笑んだ。
集まった人達は静かになった。クリシュナが話し始めるまで沈黙した。
そしてクリシュナが話し始めた。
「ここにいるパーンダヴァ兄弟と彼らの愛する王妃ドラウパディーが追放された出来事について、皆さん当然ご存じでしょうが、あなた方の記憶を蘇らせるためにお話しましょう。
不誠実なシャクニがイカサマのサイコロゲームでユディシュティラを打ち負かし、彼の王国や全ての所有物を奪いました。
彼らはサイコロゲームの最後の一振りの結果、森で12年間過ごすことになり、さらに1年間姿を隠して過ごすことを強いられたのです。しかしその期間を終わりました。
この追放期間に武力でドゥルヨーダナを倒すこともできたが、ダルマに忠実な彼らはそうしなかった。約束を忠実に果たしたのです。
さて、このダルマの道から逸れることのないパーンダヴァ達がこれからどうすべきか、ここにいる皆で考える時です。
全世界の人々にとって良い選択であるべきです。ここにいる者達だけでなく、たとえドゥルヨーダナにとっても価値のある方法を考えるのです。そしてパーンダヴァ達の名声や名誉を傷つけてはなりません。
高貴なユディシュティラは不誠実な方法を選ぶくらいなら、国を放棄して掘っ立て小屋で物乞いのような生活をする方がましだと考えるでしょう。
クルの王国はまさに彼の物であるべきです。
国の半分カーンダヴァプラスタがドゥリタラーシュトラ王によって与えられました。そしてその不毛の土地は彼によって豊かになり、インドラプラスタと呼ばれるまでになったのです。彼と弟達によって国は大きくなり、ラージャスーヤを行ってまさに全世界の君主として喝采を浴びました。
ですが、残念ながらその美しい土地がドゥルヨーダナの手に渡りました。正当な方法ではありませんでした。アルジュナが戦って負けたのではありません。クシャットリヤが使うべき武器を使わず、公平に戦うこともせず、伯父シャクニの陰謀によってただただサイコロで勝ち取ったのです。
それでもユディシュティラは決して不満を口にしなかった。
少年時代にドゥルヨーダナ兄弟達からひどい扱いを受けた時もそうでした。
ヴァーラナーヴァタでのあの悪名高い陰謀のことは話すまでもありませんね? 火事に見せかけて暗殺されそうになった時でさえ、彼は不平を言わなかった。他人の悪口を言うことは彼の資質に反しているからです。
どうぞ、この英雄達になされた数々の不正を思い出してください。
パーンダヴァ兄弟の友人である私達がその不正に対する報いを実行するために前を向かなければなりません。
ここにいる全ての英雄達の意見を聞きたい。
カウラヴァ達は死に値します。しかしユディシュティラは戦争を好んでいません。
サイコロゲームによって奪われた国を約束通り返還しなければ、戦う必要があるでしょう。もし戦争となればユディシュティラの旗の下にはたくさんの友人が集まることでしょう。
しかし、まずはドゥルヨーダナの考えを知るべきでしょう。
そこで私から提案です。
高貴な生まれの者をハスティナープラへ送り、ユディシュティラからの伝言を運ばせましょう。約束通り国を返すよう丁寧にドゥルヨーダナに伝えるのです。
他に何かもっと良い提案はありますか?」
クリシュナの話は穏やかでありながらも説得力があった。
彼は静かに席に着いた。
バララーマが立ち上がった。
全員の目が青いシルクの服を着た魅力的なクリシュナの兄を見た。
彼は全員に向かって話した。
「皆さん、我が弟の言葉を聞きましたね? 彼の言葉はダルマに満ちていて価値のあるものだ。まさに公平だ。ユディシュティラのことを適切に話し、我が弟子ドゥルヨーダナをけなすこともなかった。
パーンダヴァ達は自分の持ち分の国だけを求めています。クル王国の半分だけです。国全体ではありません。
ドゥルヨーダナ達が寛大な振る舞いをするなら戦争は避けられます。
我が弟の提案通り、使者をハスティナープラへ送りましょう。
その使者はカウラヴァの長老達に真っ先に丁寧な挨拶をして、ドゥルヨーダナをなだめ、ユディシュティラの主張を伝えるべきです。
ユディシュティラはサイコロゲームの時、我を忘れて国を奪われたのです。あれは愚かな行為でした。賭け事が不得意なのに名人のシャクニに挑み続けたのは事実です。他にも相手がいたのに敢えてシャクニに何度も挑戦したのです。それに関してはユディシュティラが愚かで、シャクニやドゥルヨーダナを非難するのは適切ではありません。
ですから国の半分を返してもらうように説得する言葉は謙虚であるべきです。ドゥルヨーダナに敵意を持たせることは賢明ではありません。
戦争はなんとしても避けなければならない。外交的で賢い使者が必要です」
バララーマの言葉はユディシュティラの友人達を怒らせた。
以前プラバーサで話した時の彼の言葉はそうではなかった。彼は13年間が終わる前であっても罰当たりなドゥルヨーダナ達と戦うことを賛成していた。
ドゥルヨーダナがバララーマに対してサイコロゲームについての自分の言い分を伝え、事実を歪めて伝えていたのが明らかであった。
バララーマは弟子としてのドゥルヨーダナを気に入っていたので、彼の言うことを鵜呑みにして信じてしまっていた。
実際には、ゲーム中にユディシュティラを侮辱し、そして、彼がゲームを止めることを許さなかった人物がまさにシャクニであったことを世界中が知っていた。
ドゥルヨーダナはバララーマが重要人物であることを知っていて、信じ込みやすい性格の彼の認識を悪用した。ユディシュティラが国を奪われたことについてはドゥルヨーダナには全く責任がないとバララーマは思い込んでいた。
ユディシュティラは何も話さなかった。
バララーマが話を続けたが、サーテャキが立ち上がって彼の話を遮った。
彼の声には怒りがこもっていた。
「この世界には勇敢な者と臆病な者がいる。同じ一族であっても両方が生まれる。それは驚かない。
しかし、あなたがユディシュティラという聖人の名を非難し、この集会の中でその言い分が通ると思っていることが理解できない。
ユディシュティラにどんな落ち度があるというのだ? あのゲームが公平であったなどとどうすれば言えるのか? あのイカサマゲームはカウラヴァ達によって仕組まれ、年長者の誘いを断れないユディシュティラを招待し、挑発してゲームをさせたのだ。そんなゲームで彼から全てを奪ったなんて、それが王子らしい振舞いだと言えるのか?
約束通り13年間を過ごした彼がなぜ謙虚にお願いしなければならないんだ!
ドゥルヨーダナを怒らせないように優しい言葉を使う? そんな言葉は必要ない! ユディシュティラは何も悪くない。
頑固な馬鹿者はあなたの弟子の方だ! この地上で最も強欲な奴だ。
どうせ国を返すわけがない。
使者を送るなんて時間の無駄だ。私がハスティナープラへ行ってくる。
ドゥルヨーダナに矢を浴びせて力づくでユディシュティラの足元に放り投げてやる。
そして彼がユディシュティラの足元にひれ伏すことを拒むなら、私が死神の元へ送ってやる。怒りのサーテャキに立ち向かうことなんてできないはずだ。
偉大なアルジュナやクリシュナ、私に対抗できるものがいるか?
誰がビーマに立ち向かっていけるというだ?
死の使者であるナクラやサハデーヴァと対等に戦えるものがいるか?
ドゥルパダの息子シカンディー、火の儀式で生まれたドゥリシュタデュムナと戦うに値する者がいるか?
アビマンニュも、ヴリシニのガダ、プラデュムナ、サムバも付いている。
一体誰がこのチームと戦えるというのだ?
皆でドゥリタラーシュトラの息子達を殺し、ラーデーヤ、シャクニ、その他の罪深い仲間達も殺してやろうではないか。彼らを殺しても罪にはならない。
元々自分の物であったものを取り返すだけだ。なぜお願いしなければならないんだ?」
彼は怒りで震える唇を噛みながらバララーマを睨みつけた。
サーテャキの熱のこもった演説は皆の称賛を勝ち取った。
ユディシュティラは自分の代わりに頭に血を昇らせてくれたサーテャキに愛情の眼差しを向けた。
今度はドゥルパダが立ち上がった。
「サーテャキの言う通りだ。
罪深いドゥルヨーダナに対して優しい言葉は必要ない。牛を扱うのと一緒だ。力が必要だ。
ドゥルヨーダナは王国を返さないだろう。そうなれば戦争しかない。
ビーシュマとドローナは愚かにもドゥルヨーダナの側につくだろう。ラーデーヤとシャクニもそうだ。
もちろんドゥルヨーダナの元へ使者を送るが、もっと大事なことは私達と友好関係にある王達に使者を送ることだ。ドゥルヨーダナよりも先に使者を送らなければならない。
シャルヤ、ドゥリシュタケートゥ、ジャヤットセーナ、ケーカヤ兄弟、バガダッタなどの助けが必要だ。良い人というのは先に来た人を支援するものだ。先手を打つことが重要だ。
ハスティナープラへの使者としては私の親族に最適な人物がいる。高貴な家に生まれた司祭で、とても良い人だ」
クリシュナはドゥルパダの知恵に賛成した。
「ドゥルパダ王は先見の明を持っています。彼の言葉は知恵に満ちており、ドゥルヨーダナに対する意見も素晴らしいものです。
さて、私達ヴリシニ一族ですが、パーンダヴァ達とカウラヴァ達両方に対して平等です。私の甥であるアビマンニュの結婚式に招待されただけです。式が終わったのでドヴァーラカーに帰ります。
ドゥルパダが責任をもってこれからあなた達の先生のように振舞ってくれるでしょう。彼の意見を聞いて私の中の重荷が下りたように感じます。
彼の送ってくれる使者が仲裁となって戦争が起きないことを望みます」
ヴィラータ王はヴリシニ一族に敬意を払い、別れの言葉を述べた。
バララーマやクリシュナ、その他のヴリシニ一族はドヴァーラカーへ帰っていった。
戦争の準備が始まった。
ユディシュティラとヴィラータは世界中の王へ使者を送った。
マツヤ王国にユディシュティラの味方が集まっているという情報がドゥルヨーダナの耳には入っていた。
彼もまた味方を求めて準備を始めた。
こうして世界中の国々がパーンダヴァの味方か、カウラヴァの味方か、どちらかを選択していくこととなっていった。
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