マハーバーラタ/2-5.ラージャスーヤ

2-5.ラージャスーヤ

ジャラーサンダを倒したことでインドラプラスタは興奮に包まれていた。
ユディシュティラのラージャスーヤは順調に進められていった。ヴャーサのアドバイスにより四人の弟達はそれぞれの方角へ送られることになった。
アルジュナは北へ、ビーマは東へ、ナクラは西へ、サハデーヴァは南へ行くことになった。

アルジュナはたくさんの国々を征服し、サウバを治めるサールヴァも簡単に打ち破った。全く敗北することなく勝利し続けたのでアルジュナはヴィジャヤの名で知られることとなった。
次に偉大なバガダッタが支配しているプラグジョーティシャという町へ到着した。バガダッタはインドラの友人であり、デーヴァからも尊敬され、幅広い年代からの尊敬を集める公正な良い人であった。
アルジュナとバガダッタの戦いは八日間続けられたが、最後にはアルジュナが勝利した。敗北したバガダッタはアルジュナに話した。
「アルジュナよ。私を打ち負かすとは見事な武勇だ。私が親友の息子がこれほどまでに強くなったことをうれしく思う。私に何を求めるのか言ってみなさい」
アルジュナは彼の前にひれ伏して彼を称え、ラージャスーヤを行うことを伝えた。インドラプラスタでの儀式に招待され、バガダッタは喜んで受け入れた。

アルジュナはさらにシュリーラーマが巡礼中に滞在したとされる聖地ラーマギリへ向かった。シーターが沐浴したことでその水は神聖なものとされていた。
その地ではスシャルマー率いるトリガルタ兄弟と戦い、見事に打ち負かした。しかしその戦いはトリガルタ兄弟の憎しみを生み、彼らはアルジュナを倒すことを誓ったのでサンシャプタカ達と呼ばれるようになった。
後にトリガルタ兄弟は親友ドゥルヨーダナの味方として大戦争に参加し、アルジュナと長く戦い続けることになる。

アルジュナはさらに北に向かい、山々の中の王、メール山の頂上が見える所までやってきた。
誇り高きメール山の頂上は朝日に包まれ、キラキラと輝いていた。まるで山が太陽に向かって挑み、太陽の光で自らを輝かせ、その輝きを太陽に向かって返しているようであった。それは雄大な光景で、頂上が空を貫いて天界まで届いているかのように見えた。アルジュナは奇妙な慎ましさで穏やかになり、その巨人の前にずっと立っていた。
しばらくそうしていた後、アルジュナは山に向かってひれ伏し、次の目的地へ向かった。遠い将来、いつかあの場所へ行けることを心に秘めたまま。

メール山の南の斜面がジャンブーという名のツタで覆われている場所、ジャンブードヴィーパを見た。この地上において、シッダ(ヒマラヤに住むデーヴァのグループ)やチャーラナ(ヴェーダを学ぶ者)によってその名を与えられたこの場所はいつも花で満たされていた。
アルジュナはそのジャンブーを見た後、ガンダマーダナ山へ向かい、インドラプラスタへの帰路に就いた。
心地よい冒険をした帰り道では、行く先々で宝石や財宝、とても貴重な贈り物を受け取った。ダナンジャヤ(富を持つ者)の名を得たのはその時からであった。

ビーマは日が昇る方向へ向かった。
パーンチャーラ国を通過し、ミティラ国にて王と戦い、簡単に勝利した。
次に向かったチェーディ国ではシシュパーラ王にラージャスーヤのことを伝えると、王は愛情深く彼を受け入れ、その偉大な儀式に必ず参加すると言った。
その後、コーサラ、アヨーデャなどたくさんの王国へ向かい、全て制圧した。
その次に向かったのはマガダ国のギリヴラジャで、ジャラーサンダの跡を継いだサハデーヴァ(ジャラーサンダの息子)にラージャスーヤのことを改めて伝えた。
ビーマは東方の国々の制圧を終え、たくさんの財宝を持ってインドラプラスタへ戻った。

サハデーヴァ(パーンダヴァ兄弟の五男)の旅も無事成功していた。
ダンタヴァックトラ、シュレーニマーン、アヴァンティのヴィンダとアヌヴィンダ、マーヒシュマティのニーラと次々に戦い、南の全ての王国を制圧した。
次にヴィビーシャナという名のラークシャサの王と友好関係を結びたいと考えた。ビーマとラークシャサの妻ヒディンビーとの間に生まれた息子、ガトートカチャを呼んだ。
ガトートカチャが目の前に現れて尋ねた。
「親愛なる叔父サハデーヴァ様、私に何を求めますか?」
サハデーヴァは愛情をこめて彼を抱きしめた。
「ガトートカチャよ、ランカに住むヴィビーシャナに会ってきてほしい。彼はプラステャの息子でラーヴァナの弟です。彼をユディシュティラのラージャスーヤに招待してくれないか?」

ガトートカチャはヴィビーシャナが支配するランカへ向かった。その途中シュリーラーマがランカへ渡った時に建てられた橋の前で立ち止まり、礼拝してからランカへ渡った。

ランカに到着し、城に到着したガトートカチャは守衛を通じて伝言を送った。
「私はパーンダヴァの王ユディシュティラの甥にあたるガトートカチャです。この地上において、クリシュナの友人であるパーンダヴァ兄弟はインドラプラスタにて統治を行い、その長男、ダルマ神の息子ユディシュティラがこれからラージャスーヤを行います。パーンダヴァ兄弟の末弟であるサハデーヴァからの依頼であなたに伝えています」
ヴィビーシャナは宮廷に招くよう守衛に伝えた。

ガトートカチャは偉大なヴィビーシャナと対面した。その高貴な顔を見ると伯父ユディシュティラを思い出した。立派な人間には何か共通点があるのだと理解した。
ヴィビーシャナはイクシュヴァーク一族のシュリーラーマの帰依者であったことを知っていたので、彼に向かって頭を下げ、尊敬の沈黙を持って立っていた。ガトートカチャは優しい言葉で迎えられた。
「ランカへようこそ。パーンダヴァ兄弟のこと、特にダルマの息子であるというユディシュティラについて知っていることを教えてください」
ガトートカチャは伯父ユディシュティラにいて喜んで語り、父ビーマがヴァーユの息子であることも伝えた。そしてパーンダヴァ兄弟一人一人の優しさや勇敢さ、クリシュナとの親友関係についても語った。

ヴィビーシャナは彼の話に喜び、たくさんの高価な宝石や贈り物を持たせてサハデーヴァの元へ帰らせた。サハデーヴァは友好関係を築くことに成功したことを喜んだ。

サハデーヴァはさらにパンデャの国へ行き、アルジュナの妻チットランガダーに会った。彼女はアルジュナの弟に会えたことに喜び、息子のバッブルヴァーハナを会わせて無事に育っていることを見せた。

サハデーヴァは旅で出会った王達をラージャスーヤに招待し、受け取った贈り物を持ってインドラプラスタへ帰った。

ナクラはすでに西方での勝利の旅を終え、先に帰っていた。彼はドヴァーラカーでヴリシニ一族に面会し、クリシュナの父ヴァスデーヴァ、兄バララーマ、その他全てのヴリシニ一族の英雄達をラージャスーヤに招待した。
クリシュナはたくさんの贈り物を持ってすぐにやってきた。そしてヴャーサと共にラージャスーヤの前準備の儀式を執り行った。

そして、ナクラはさらにハスティナープラへ送られた。
目的はユディシュティラの代理としてビーシュマやドローナ、ドゥリタラーシュトラ、バールヒーカソーマダッタ、ブーリシュラヴァスなどのクル一族の長老達や、王子達を個別に招待する為であった。そして個人的にはシャクニと息子達、ラーデーヤも参加してほしいと思っていた。

ハスティナープラに到着し、ビーシュマやその他の長老達に愛情を持って迎えられ、ラージャスーヤのことを丁重に伝えた。一人一人に対してインドラプラスタで歓迎したいというユディシュティラの願いを伝えた。彼らの祝福を受けたナクラは無事にインドラプラスタへ戻った。

招待された来賓達が次々と到着した。
彼らが宿泊する為に建てられた豪邸はたくさんの王族達で満たされた。それはまるで神々の町のようであった。インドラプラスタというユディシュティラの宝物庫にたくさんの富が降り注いでいた。

従兄弟であるドゥルヨーダナは宝物庫のお世話を頼まれた。彼はパーンダヴァ兄弟に払われた敬意の品の数々を目撃した。まさに彼らの栄光の状態を示すものであった。ドゥルヨーダナは心の内を一言も話さなかった。何度も滅ぼそうとした従兄弟達がこんなにも豊かに、力強くなっているのを目の当たりにして嫉妬でイライラしていた。今にも壊れそうな心を、その憎しみを誰にも見られないように平静を装っていた。

ラージャスーヤの儀式は進められた。
皆が興奮する中、感動的なユディシュティラの戴冠式が行われた。全てのリシ達も祝福の為に集まっていた。その中にナーラダの姿もあった。

しかしナーラダの心はそこにはなかった。彼にはその後の将来が見えていた。

今、王冠の近くで唇に永遠の微笑みを浮かべているクリシュナ。
彼を中心としてバラタヴァルシャの未来が回転しているのが見えた。ナーラダの心の目の中のクリシュナは唇に微笑みを浮かべていなかった。彼の目は重々しく、悲しそうだった。全く険しい表情であった。

純真な君主ユディシュティラ。
彼は全てのクシャットリヤの破滅の原因になるのであった。

ドラウパディーにこれから降りかかろうとしている屈辱的な悲劇が見えた。

嫉妬や怒りを抑える為に唇を噛んでいるドゥルヨーダナ。
ドゥリタラーシュトラの息子達が全員ビーマによって殺され、肉体がばらまかれたクルクシェートラの戦場が見えた。

高貴なラーデーヤ。
いつの時もカルナ(与える人)として名声を得る人。哀れな、不運な人。彼を兄だとは知らずに弟の手によって殺される人。

その他にもバガダッタ、ヴィンダ、アヌヴィンダなどこの全世界の王子達が戦場で死んでいた。

この世のあらゆる束縛から解放されているナーラダの心はこの全ての不運な王子達に対する膨大な憐みの気持ちでいっぱいであった。

(次へ)


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