マハーバーラタ/2-4.ジャラーサンダ

2-4.ジャラーサンダ

クリシュナがジャラーサンダについて語り始めた。

昔、マガダ国にはブリハドラタという王がいた。クシャットリヤが望む全てのものに恵まれている力強い王であった。ギリヴラジャの丘の麓にある都に住み、彼の公正さはまるで大地に降り注ぐ太陽光線のように世界中に広まった。

彼はカーシーの双子の王女と結婚したが、跡継ぎとなる子供に恵まれず、人生に希望が持てずに隠退して森へ行ってしまった。森に住んでいたチャンダカウシカという名のリシに師事した。そのリシは身の上話を聞いて憐れんだ。
その時、頭上からマンゴーの木の実が一つ落ちてきた。
「この実を妻に食べさせなさい。そうすれば息子が授かるでしょう。あなたはここにいるべき人ではない。王国に戻り国を統括しなさい」
妻が双子であったので、王は受け取った実を二つに切って彼女達に与えた。

すると奇妙な子供が生まれた。
彼女達が産んだ子供は、なんと体が半分ずつであった。
お城の皆が怖がった。侍女はその半分ずつの子供を布に包んで町の外へ投げ捨てた。

ちょうどその時、食べ物を探していたジャラーという名のラークシャシー(女性の妖怪)がそれを見つけた。彼女は柔らかい人間の肉を見て興奮した。
持って帰って食べようと思い、運ぶ時にその半分ずつの体を一緒にしてみた。すると奇跡が起きた。半分ずつの体がくっついて完全体となり、一人の人間になった。その光景に驚いて食べる気にはならず、お城の王の所へ運んだ。
「あなたの息子です」
王はいきさつを聞いてとても喜んだ。その子はジャラーによってくっつけられたのでジャラーサンダと名付けられた。

王は森のチャンダカウシカの所へ行って報告すると、リシが予言した。
「王よ。その子は聖なる力に恵まれ、普通の人間には殺すことができないだろう。そしてきっとシャンカラ神に気に入られるバクタ(帰依者)となるであろう」

クリシュナは物語を続けた。
「そして、ジャラーサンダは神々の神であるシャンカラ神に会ったことがあるという噂があります。どうすれば神に祝福されたそのような者に挑めるというのでしょう?
彼がギリヴラジャの丘から私達に向けて槌矛を投げてきたことがあると言いましたよね。そのガダ(槌矛)こそが彼に力を与えている源でした。
その後、彼はそれを大地から抜いて持って帰ろうとしましたが、抜くことができませんでした。彼は今、そのガダを持っていないので無敵ではありません。戦うことは可能です」

ユディシュティラは何も言わずに座っていたが、ビーマとアルジュナは熱心に聞いていた。クリシュナは話を続けた。
「彼の軍隊を打ち負かすことは不可能です。インドラの軍でも難しいでしょう。ですが、ビーマで一騎打ちを挑むなら彼を倒せるでしょう。
ですから、ユディシュティラよ。私達三人を送り出してください。ビーマの言った通り、私達三人であれば、智慧と力を合わせて成功させるでしょう。私が付いていきます。勝利して帰ってきます」

結局ユディシュティラはうまく話に乗せられて、計画に賛成させられたのだった。
クリシュナ、ビーマ、アルジュナの三人はマガダ王国へ出発した。

三人はサラユー川、ガンダキー川を渡り、ミティラから国境を越えてマガダへ向かった。ガンジス河を渡ると、遠くにギリヴラジャの丘が見えた。町に到着するとシャンカラの巨大な寺院があったので中に入り礼拝した。

彼らはスナータカのような服を着た。ブラフマチャルヤ(学生)を終えたものの、まだグラハスタにもなっていない者の装いであった。
この三人が町に入るとジャラーサンダ王にとって悲惨な結果を示す不吉な兆しが現れた。
彼らは首に花輪を掛け、全身を白檀のペーストで香らせ、華やかな装いであった。
町の人々は彼らを見て大騒ぎになった。ブラーフマナにも見えるがクシャットリヤにも見える、そして普通ではない装いと振る舞い。まるでライオンのように歩く見知らぬ者達に町の人々は困惑した。

彼らは城門から入らず、壁を越えて中に入った。
ジャラーサンダに面会できるよう頼んだが、その時は祈りの儀式で忙しくしていた。
彼らはミルクと蜂蜜を渡されたが口にはせず、謁見できる深夜まで待った。

深夜になり、やっとジャラーサンダが現れた。彼は三人に敬意を表した。
「あなた達はスナータカのような装いをしていますが、それは偽りですね。その花や香りはスナータカに認められていないもののはずです。
そして、奇妙な方法でこの城に入りましたね。友人であれば門から入ってきます。壁を超えるのは敵の入り方です。
私が差し上げたミルクと蜂蜜も拒んだそうですね。
さて、あなた方が誰であろうと私の町に歓迎します。ブラーフマナに対する敬意を示したいのですが、あなた方がそうであるのかはっきりしません。おそらくクシャットリヤではないでしょうか? あなた方の肩には弓使い特有の傷跡があります。何か理由があって変装しているのでしょう? 真実を教えてください。あなた方は一体誰で、私に何を求めているのですか?」

クリシュナが答えた。
「ジャラーサンダよ。あなたの推測は当たっています。私達はあなたの敵としてここに来ました。ですから壁を越えて入りましたし、親しくないので施しも受けませんでした」
ジャラーサンダはそのように落ち着いて話す敵に興味をそそられた。
「私はあなた方を知りません。なぜ私の敵だと言えるのですか?
私がたくさんの敵を作ってきたのは事実です。しかし、見知らぬ者を敵にしたことはありません。
私の敵だと言うなら、その敵意の理由を教えてください。そしてあなた方が何者なのか知りたいです」
「はい、答えましょう。あなたがルッドラの生贄としてたくさんの王様を捕えていることが敵意の理由です。その残忍さに耐えられません。彼らを助けたいのです。なぜあなたは彼らを殺すことによって天国に行くことを願うのですか? 同じクシャットリヤである仲間を殺すような罪深い行いでダルマの神が喜ぶというのですか?
そして、私達の正体ですが、隠すつもりはありません。お教えしましょう。
ここにいるのがパーンダヴァ兄弟の三男アルジュナで、こちらがユディシュティラの弟ビーマです。私はあなたの古い知人クリシュナです。あなたに一騎打ちを挑みます。私達の誰でも選んで戦うことができます」

ジャラーサンダは高笑いした。軽蔑の目をクリシュナに向けた。
「私から18回も逃げ、ライヴァタカの丘の向こうに隠れたあなたが、私の住処で私に挑む勇気があると言うのですか? まるで雨を降らさずにうなっている秋の雲のようだ。
私はあなたが不忠に殺したカムサではありませんよ。神々に好まれているジャラーサンダです。私は誰も恐れません。あなたのような卑怯者と戦うのは私の品位を下げてしまいますからそれはしません。
こちらのアルジュナはまだ子供です。自分より弱い者と戦うのは正しくありません。
このビーマと呼ばれる若い男は良い体格をしていて、私と戦う価値があります。彼と戦いましょう。

ジャラーサンダは勝利を確信していたが、不吉な兆しが現れていたので、彼の息子サハデーヴァの戴冠式を行ってからビーマと戦うことにした。

戦いが始まった。二人は全く互角であった。
勝敗がなかなか決まらないまま14日間続いた。
クリシュナとアルジュナは町の人達と戦いを見守っていた。

お互いに一歩も引かず、終わりが見えなかったが、次第にビーマが優勢になっていった。クリシュナが声をかけた。
「ビーマよ。自分が誰であるか思い出すのです。あなたの父は誰ですか? あなたはヴァーユの息子です。父を思いなさい。そうすれば山々ですら動かせる力が宿るでしょう。全てのクシャットリヤの中で最も力強いあなたなら彼を引き裂くこともできるはずです」
ビーマは父ヴァーユに祈った。
彼はまるで新たな活力を得たかのように戦い、ジャラーサンダの体を空中に放り投げ、片足ずつ掴み、体を二つに引き裂いた。

敵を倒したビーマは喜び、クリシュナとアルジュナの方を見た。
しかし二人は驚いた顔をしていた。
ビーマは奇妙なものを見た。
ジャラーサンダの二つに引き裂かれた半身がそれぞれ引き寄せ合っていった。それはくっつき、まるで何事もなかったかのように立ち上がった。

ビーマとアルジュナは度肝を抜かれた。
ジャラーサンダは体を引き裂いても死なない不死身であった。

戦いは再開された。
クリシュナがビーマに微笑みを向けた。ビーマがその微笑みに気が付くと、クリシュナは手に持っていたバナナの葉を二つに裂き、片方をひっくり返し、それぞれを床の別々の隅に投げた。
ビーマはそのメッセージを理解した。

ビーマは再びジャラーサンダの体を空中に放り投げ、落ちてくる体の足を掴み、二つに裂いた。その半身ずつをホールの隅に投げた。二つの半身は再び一緒になることはなかった。
シャンカラのお気に入りであったジャラーサンダはビーマによって倒された。

ジャラーサンダが亡くなったことで城の中では大騒ぎになった。三人は他の者を傷付ける気はないと話して落ち着かせた。

ギリヴラジャの丘の頂上へ向かった。
そこにはたくさんの投獄された王達が発見され、無事に解放された。
喜ぶ王達にクリシュナが話した。
「皆さん、私達へのお返しは何も要りません。
その代わりに私達が望むことを伝えます。インドラプラスタの王である偉大なユディシュティラがラージャスーヤを行います。皆さんには彼の友人や同盟者としてそれに出席することを期待します」
解放された王達は、ただただ喜んで同意した。

三人はジャラーサンダの城に戻った。
クリシュナはジャラーサンダの息子サハデーヴァの右手を取って言った。
「サハデーヴァよ、恐れないでください。あなたの父は偉大でした。ただし、その偉大さを間違った方法で使ってしまったので、こういう結果になりました。
あなたは既に王となりました。あなたの優しさと、父の勇気、それらを使って王国を正しく統治しなさい」
そしてラージャスーヤに参加するように言った。
サハデーヴァは敬意を持って参加することに同意した。

ビーマは不可能と思われていた偉業を成し遂げた。
彼ら三人がインドラプラスタに戻ると、ユディシュティラは両手を大きく広げ、目に涙を浮かべて彼らを抱きしめた。
クリシュナが言った。
「ユディシュティラよ。あなたの成功の道にあったトゲはビーマによって取り除かれました。もう妨げるものはありません。あなたのラージャスーヤは成功します」

ユディシュティラはジャラーサンダとの戦いの話を彼らから聞いた。
真っ二つに引き裂かれても生きていたジャラーサンダの奇跡、その恐怖と勝利を追体験した。

クリシュナはドヴァーラカーに出発した。
「ユディシュティラ、私のこの旅が無駄ではなかったことをうれしく思います。すぐにまた来ます。
その間、弟達を四つの方向へ送って征服させるとよいでしょう。彼らが帰ってくる頃、私は他のヴリシニ一族とともにここに来ます」

ヴリシニ一族がもはやジャラーサンダの恐怖に怯える必要がなくなったことを自らの口で伝える為に、クリシュナはドヴァーラカーに急いで帰った。彼の心は幸せで満たされていた。

(次へ)


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