森と、馬と。
10年前、U理論という本に出会った。
その頃、わたしは、iPhone アプリの会社を立ち上げたばかりだった。
私の二度目の挑戦だった。
でも、この二度目の挑戦を語るには、一度目の方も語らなくてはいけない。
そして、その前の歴史も。
この世の中は
どうやってできているんだろう。
小さい頃から、夜空を見上げるのが好きだった。
星の向こうに何があるんだろう。そんなことを考えたこともあったけど、何も考えず、ただ頭の中を真っ白にして、夜空を見上げることそのものが好きだったのかもしれない。
時には、関係のないことを考えたり、空想したりもした。
でも、空想を広げるためには、その手がかりとなる知識が必要だった。
私は本が好きで、特に図がたくさん入った百貨図鑑は端から端まで食い入るように読んだ。
その頃、1970年代後半には、まだインターネットはない。テレビでは宇宙戦艦ヤマトが放映され、宇宙旅行がアポロの時代からスペースシャトルに移る時代に、「ニュートン」という雑誌が創刊された。竹内均というメガネが素敵な地球物理学者が監修するその雑誌は、カラフルなイラストが豊富で、小学校の高学年〜中学生でも理解できるほど易しく、当時の最先端の物理学や宇宙科学が語られていた。兄がその雑誌を定期購読していたので、毎月届くその雑誌を、兄が一通り目を通した後に穴が開くまで読むのが好きだった。
アインシュタインの相対性理論や、量子力学とそうやって出会ったわたしは、中学生、高校生を経て、大学では物理学を学ぶことにした。
物理とは、物の理、と書く。
高校生の私には、物理を学んだら世の中のことがわかるような気がした。
『なぜ?』の先に。
大学に入って割とすぐに、壁にぶつかった。
式を解いても、答えがわからないものがある。
『ある値』を入れてみて初めて、それが存在するかどうかがわかる。そんな式がある。
物理の世界では、それまでに我々が知ったこととをもとに、我々の思考を使って、数式としてこの世界を表現する。
その式は、わたしには、『答えはやってみないとわからないよ』と伝えているように思えた。
物理と数学の世界は、それぞれが密接に結びつき、複雑だけども美しい世界が繰り広げられていた。しかし、探究すればするほど、袋小路に入るような気がした。『なぜ』を突き詰めると、さらに『なぜ』が現れる。
そんなときに、一つの映画に出会った。
『ウォール街』
内容は、世界の金融の中心地、ニューヨークのウォール街を舞台にした金融サスペンス。
日本もバブルの入り口で日本の会社の時価総額が世界ランクに入りつつある時代で、金融のことを全く知らなかったけれど興味を持っていた私にとって、「空想」を始めるのに充分な刺激だった。
その時、鮮明なイメージが心に浮かんだことが記憶に残っている。
それは、映画の中に出てきたような、川沿いの高層ビルのトレーディングルームの中、コンピュータに囲まれて私が座っている絵だった。そして、物理の探究ではわからなかった、「なぜ」が、ここでわかるような気がした。
それは、物ではなく、人のこと。
人は、どうやって意思決定をしていくのか、ということだった。巨額のお金が動く「金融マーケット」を相手にする仕事であれば、その答えを知ることができるんじゃないか、そう思った。
森と、馬と。
このタイトルから始まって、どこに辿り着くんだろう、と、書いている私も、そう思っています。
たぶん、続く。