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灸をする(11)

積聚会名誉会長 小林詔司

『積聚会通信』No.16 2000年1月号 掲載

『今回は、人の死について書かれている項を取り上げよう。
 
第50節に、人の頓死(急死)や夜に苦しんだりうなされたりして死んだ時の処置の仕方が書いてある。
 
それによれば「足の大指の爪の甲の内、爪を去事、韮葉ほど前に、五壮か七壮灸すべし」とある。
 
つまり足厥陰肝経の井穴である大敦穴に、5~7壮施灸するという内容である。
 
これは心筋梗塞などで突然に死んでしまった人に対する処置であるが、これをどう理解すべきか。
 
死んでしまったかに見えても、身体が温かいうちはまだ息を吹き返すことがあるかもしれないから、最後まで諦めないで手を尽くすべきと判断するか。
 
現代では、おそらく救急車を呼んで済ませてしまうところであろう。
 
しかしよく考えると、救急車が来るまでにわずかながらでも時間があるはずである。このように処置を知っていれば、一命を取り留めることがあるかも知れない。
 
あるいは山に入っていて同行者の身体に何か急変することが起きて救命法の処置をするような状況を想像してみる。
 
その時、たとえ息が止まっているようでもまだ死んではいないはずであるから、そのような処置と同時に大敦の施灸を試みるべきと思われる。
 
施灸をする大敦はこの場合左右共使った方がよいが、半米粒大で、壮数は5~7壮にこだわらず足が温まるなどの兆しがみえるまで多壮する、施灸の間隔を詰めて左右交互に手早くする、艾炷は硬くひねるなどが注意するところである。
 
さらによく考えると、このような状態では足はもちろんのこと身体はかなり冷え始めていたり冷たいはずであるから、施灸するツボが大敦だけでは足りないかも知れない。
 
そのような場合は10趾全部の井穴を対象にして、大敦に限らず他の趾の井穴も使った方がよい。1人の施術者では間に合わなければ、右と左に同時に2人で施灸を行うなどのことも考えられる。
 
このような緊急のとき、とっさに灸をすることを思いつかないものである。また艾を探すのに手間取るなどのことがあるかも知れない。艾は常に身近に置いておき、すぐ間に合わせることが肝要である。
 
さてこの連載もそろそろ終わりに近づいてきた。これまで触れてないことでは、艾そのものに効用がある点である。
 
艾は施灸に使うだけでなく、止血や殺菌作用があることを覚えておくとよい。簡単な切り傷、擦過傷、火傷には直に艾を当てて絆創膏などで固定すれば治まるのはもちろん、手術や足趾並のひょう疽などの時、爪の生え際の角に艾を詰めれば即、炎症がとまり痛みが無くなるものである。
 
次回からは、このページを使って各講習会などでの会話を取りあげることにしよう。