強い子になったぞ。

赤茶けた砂をハケで何度も払いのけた先に現れた白い骨。
砂埃にまみれながらも、生き生きとした表情で進む発掘作業。

考古学者、いいなぁ。

月曜日はお医者さん、火曜日はクレープ屋さんになりたかった私の水曜日の職業が決まった瞬間だった。

私が初めて映画館で観た映画はジュラシックパークだった。
小学校1年生のとき、父に連れられて観た。自ら観たいと思ったわけではなかったので、恐竜が出てくるらしいとのぼんやりとした認識しかしていなかった様に思う。

今や言わずもがなの名作になっているこの映画は、迫力の恐竜の映像はもちろんのこと、化石の発掘シーン、遺伝子組み換えの説明アニメーション、蚊が入っている琥珀、大雨の中転げ落ちる巨漢ネドリー、終盤に出てくる緑色のゼリーなど、私の心に数多くのシーンを刻みつけた。
映画を観てしばらくの間は、家の裏の桜の木から出ている樹液に蚊が入っていないか何度も観察したくらいだ。

この映画がそこまで心に残ったのは、映画の出来が良かっただけが理由ではない。
観終わった後、父が「怖いシーンもあったけど泣かなかったしずっと観てたな。前の席に同じ歳ぐらいの女の子がいたけど、その子は怖がって泣いて親にしがみついてたぞ。」とニコニコしながら言ってきたからだ。

正直人が食われるシーンがあったので怖かったには違いなかったのだが、褒められて嬉しかった。
末っ子でいつも子ども扱いされていた自分が、一人前と言われている様で誇らしかった。

その後も父は事あるごとにこのエピソードを話してきて、強い子だ!と言っていた。
あれから数十年、なるべくしてなったのか親の期待に応えたのか定かではないが、私は強めの人間に育った。

あの時、ティラノサウルスが出てきた時に泣いていたらもう少し可愛らしい人間になっていたのかもしれない。
前の席で泣いていた髪の長い女の子は、可愛らしい女性になっているのだろうか。

そんなことを思いながらヴェロキラプトルの様に獰猛な長女の帰りを待つ午後。

#映画館の思い出 #ジュラシックパーク#ティラノサウルス#ヴェロキラプトル

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