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歌舞伎座「六月大歌舞伎」第三部

 東京の梅雨も明け、30℃を優に超える猛暑が早くも続くようになった。6月27日、歌舞伎座六月公演の千穐楽の舞台を観てきた。

 今月は第三部に仁左衛門さんと玉三郎さんによる『切られ与三郎』が予定されていたが、仁左衛門さんの体調不良により玉三郎さん主演の『ふるあめりかに袖はぬらさじ』に変更になった。(因みに仁左衛門さんは七月松竹座の公演から復活を予定していたが、それも今日延期になった)

 一部では若手中心の『車引』と猿之助さんの『猪八戒』、二部では染五郎くん初主演の『信康』と梅玉さんらの『勢獅子』とはずれのない演目が並び、一日を通して評判の高い興行という印象があった。

 私が見てきたのは第三部。主な配役は以下の通り。

  芸者お玉  坂東玉三郎
  通辞藤吉  中村福之助
  遊女亀遊  河合雪之丞
  思誠塾岡田 喜多村緑郎
  岩亀楼主人 中村鴈治郎

 今回は珍しいことに、劇団新派から元歌舞伎役者の河合雪之丞さん喜多村緑郎さんをはじめ、伊藤みどりさんや田口守さんらが特別出演し(これは『切られ与三』の時から決まっていた)人数もさることながら女形ではない女性の声響き合う華やかな舞台となっていた。

 私はこの作品を三年ほど前にシネマ歌舞伎でみていたが、生の舞台は初めて。まず衝撃的だったのが、照明を使った舞台の見せ方。真っ暗な舞台のなか、お玉が窓を開けると差し込む陽射し。まるで障子の外が本当の外になっているのではないかと思うほど自然光を再現していて、逆光の中の玉三郎さんの立ち姿が見事に映えていた。
 この演目は幕末の桜田門外の変直後という日本史の中でも人気の高い時代が舞台だが、横浜という江戸文化と西欧文化が初めて共存した地を見事に一間の内に再現していて、これらの舞台構成を取り上げるだけでも非常に技巧に富んだ完成度になっていることが分かった。

 さて、肝心の演技。
 玉三郎さんのお玉は演技というより素に近く、覚えたようでなく芯から出たような台詞回しがまさに妙技としか言いようがない。歌舞伎にはない新派のリアリティを最高レベルで表現していた。この演技の幅の広さが玉三郎さんならでは。
 岩亀楼主人の鴈治郎さんがまたいい。悪人ではないんだが、商売のためなら多少の倫理観を無視する俗な商人を好演。個人的な話だが、今の職場の上司がまさにそんな感じの人物なので、鴈治郎さんを観ているとその上司がフラッシュバックして少し腹が立ったほど。初役とのことだったが技量の高さを感じた。
 雪之丞さんは普段から女性と並んで芝居をしていることもあり、さすがの女形芸。緑郎さんは浪士組の中でも無口な役だが存在感があった。
 そしてこの公演で意外とよかったのが福之助君。最初はあまりに表情が乏しくいかがなものかと思っていたが、かえってそれが堅物で純朴な青年らしさを出していた。脇役に回っているときの細かな仕草も達者で驚く。誰の指導があったのだろうか、ベテラン俳優に交じって違和感を感じさせない完成度だった。

 頭でも書いたが、今回は仁左衛門さんが休演、そして梅玉さんも途中体調を崩して休演があった。
 また、悲しいニュースではつい先日坂東竹三郎さんと澤村田之助さんの二人の訃報が相次いで報じられた。
 そんななか玉三郎さんは休演もなく精力的に舞台に立ち続けている。その安心感と極められた芸域、まさにいまが真骨頂といっていいのかもしれない。 つぎは仁左衛門さんと共演で観たい。

 来月は月末に歌舞伎座第三部のナウシカのチケットを取っている。前回の公演を見ていないし、原作の方も途中までしか追っていない。急いで予習しなくては。


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