釈迦力メンバー紹介③ 犬木久太朗<出店ブースのお知らせ>
この度、私たち釈迦力ウエンズデイは「文学フリマ東京39」に参加します。
私たちの出店ブースナンバーは「つ-22」です。
読者の皆さまの中に、「12/1は東京ビッグサイトに行くぜ!!」という方がいらっしゃいましたら、是非”釈迦力ウェンズデイ”のブースにお立ち寄りください。
これまでnoteにあげたシナリオの感想などもお伺いできれば最高にうれしいです。
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第3回 犬木久太朗
喫茶店が苦手である。
コーヒーが飲めないからだ。
なぜコーヒーが飲めないのかと言うと味が苦いからとかそういうことではなく、飲むとけっこう重大な体調不良に見舞われるからである。動悸、頭痛、眩暈に襲われ、ひどいと立っていられなくなる。これはコーヒーに限ったことではなく、その日の体調によっては紅茶や緑茶もダメで、おそらくカフェインが身体に会わないんだろうと思うのだが、20代の終わりごろにいきなりそうなってしまった。
なのでふだん喫茶店には入らない。用事と用事の間に外でぽっかり1時間空いたとしても、公園のベンチでただ座り続ける方を選ぶ。冬でも雪が積もってない限りは基本的にそうする。じっとしてるのは得意なのだ。
しかし人と一緒のときはそうもいかない。「ちょっと時間が空いたのでそこの公園のベンチで1時間ほどそれぞれボーっとしましょう」などと言おうものなら二度と一緒に出掛けてはもらえないだろうし、それが仕事相手ならそれっきり何の依頼もこなくなるだろう。それではまともな人間関係が築けないので、そういうときは仕方なく喫茶店に入ることもある。
入店してから何を頼むか、これがまた問題で。体調次第では紅茶の類は飲めたりするが、万が一その日が紅茶すら受け付けない日だった場合、体調を崩して一緒にいる人に迷惑をかける。それは避けたい。かといって「僕は水でいいです」などと口走って、「あぁ、貧乏人を無理やり喫茶店にひきずりこんでしまった」という罪悪感を相手に抱かせるのも悪いので、考えに考えて大体オレンジジュースを頼む。
地獄の注文タイムが過ぎ、好きでも嫌いでもないオレンジジュースをすすりながら向かいの温かそうなコーヒーを眺める。コーヒーを飲むと身体が緩んで心も落ち着き、背もたれに背中をあずけておしゃべりしたいような気持ちになってくる。昔はよく飲んでいたから知っているのだ。一方オレンジジュースにはそのような効果は一切なく、氷でキンキンに冷やされたジュースはノドから食道、胃の中までを瞬時に冷やし、飲んでるとだんだん猫背になってくるし、黄色い粘着質の酸味がいつまでもノドの奥に残っている感じがしてむせる。それを消すために氷をかじりたいのだが、いやしく見えそうなのでやめておく。
私のグラスが空になりすっかり身体も冷えたころ、ちょうど相手のカップも空いたようで、そろそろこのいまいましい喫茶店を出て次の用事先に向かおうかと今まさに言おうとしたそのとき、相手は大抵こう言うのだ。「おかわりしてもいいですか?」。これである。
ご存じのようにコーヒーと言うものはおかわりすればするほどかっこいい飲み物だ。その点、非常にあこがれる。おかわりが様になるものなど、この世の中にコーヒー以外にあるだろうか?
「もちろんどうぞ」と快く相手を送りだす私に対し、相手も気遣いのつもりか「あなたもおかわりいかがですか?」と言わんばかりに右手のひらを差し出してきたりもするが、馬鹿を言わないでほしい。オレンジジュースをおかわりする人間などいない。
こんなとき私は深い後悔に沈みこむ。また間違ってしまった。いったい何を頼めばよかったのか。私もかっこよくおかわりがしたい。カフェインが含まれていない、おかわりがかっこいい飲み物が知りたい。もう何年もずっとそれを探しているが、見つかる気配はない。
そういうわけで喫茶店が苦手である。
→次回の自己紹介は、小耳鋏うさみです。よろしくお願いします。
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