映画『NOPE/ノープ』③【ネタバレ感想】「Gジャン」ことUFOはいったい何?/誰もが聞いたことはあるけど会ったことのないアレじゃん?
早くも2022年12月23日(金)に映画『NOPE/ノープ』がダウンロード先行販売。2023年1月6日(金)には4K UHD、ブルーレイ+DVDも発売されます。
感想②につづいて、一番の謎でもあるUFO「Gジャン」についての感想です。この「Gジャン」について妄想することで、ジョーダン・ピールが描きたかった「最悪の奇跡」をより深く感じることができます。
UFO「Gジャン」って結局なんの象徴だったのか? 私が思うに、有名なアレじゃないかと──。
ズバリ、神です。
UFO「Gジャン」は神・キリスト教(聖書)の象徴。というのが私の見解です。
キリスト教徒の中でも、私利私欲と偏見をもって聖書を解釈した人々が伝導する神・キリスト教(聖書)を揶揄していると──。
映画『NOPE/ノープ』には、「神・キリスト教(聖書)に従えって? そんなんムリ!」そんな想いが秘められているんじゃないかと。
神をUFO(未確認飛行物体)として表現した超クールなブラックジョーク!。そんな見解にいたった理由を、鑑賞2回目の感想とパンフレットなどの情報を交えながらつづっていきます。
そう言えば英単語としての「Nope」についてまだ触れていませんでした。「Nope」の意味は「No(ノー)」と同じ、いいえの意味。ただ、「No」ほど強くない否定。スラングな言い方にふくまれるのでかしこまった場面では使わず、友人など親しい間柄で使われるようです。
ちょっとした拒否や、冗談交じりに使うこともでき、恐怖や嫌悪を表す際には「Nope Nope Nope」と3回連呼する使い方もあるとか。
あの映画『トップガン マーヴェリック』のマーヴェリック(トム・クルーズ)も劇中でたしか会話で「Nope」と言っていました。
ちなみに「Yes」にも「yep(イエップ)」というスラングがあります。
■鑑賞2回目に感じたUFO「Gジャン」のドス黒い奇跡
鑑賞2回目はグランドシネマサンシャイン池袋のIMAX®️レーザー/GTテクノロジーで。鑑賞しながらの深堀はせずに、モンスター級の大画面で、大迫力のUFO映画を単純に楽しみました。
映画内の物語とは別で、現実ではジョーダン・ピール監督にとって何がノープなのか? ジョーダン・ピール監督自身にとっての「最悪の奇跡」とは何? ふとそんなことを思いました。
ぱっと思いつくのは、黒人差別。黒人であるピール監督にとってはまさに「NOPE」でしょう。黒人差別が無くなれば、それはひとつのカタルシスのはず。
なもんで、UFO「Gジャン」には、黒人差別の元凶も象徴に含まれているのではないかと妄想してみました。
黒人差別の原因は、聖書が悪用されたためです。古来よりヨーロッパの白人の中には、聖書を都合よく解釈し私利私欲のために悪用してきたキリスト教徒がいたからです。
どういうことか、ざっくり説明しますと……
■マジでブラックな歴史
15世紀頃(西暦1401年~1500年頃)から、ヨーロッパのキリスト教徒が異教徒を改宗させようと動き出しました。そのうちヨーロッパ人がアフリカの海岸地域に進出。
そしてキリスト教徒はアフリカ人を見て、肌の黒い野蛮で自分たちより劣った人種だというとんでもない偏見と差別をしたのです。
さらに聖書を悪用。旧約聖書の「レビ記」二五章をもとに外国人の奴隷化を正当化。また「創世記」九章「ハムの呪い」にでてくるカナンは黒人という解釈を悪用し、アフリカ人は奴隷になるために生まれてきた呪われた人種などとトンデモ論をほざいていたのです。
またヨーロッパ人は、アメリカでインディオを奴隷にしていました。そのインディオの人口が急激に減少したため、アフリカ黒人がアメリカへ奴隷として人身売買される貿易が行われ、アフリカの植民地化へとつながっていきました。
そんなマジでブラックな歴史があり、黒人を差別する思想が根付いたキリスト教徒、白人至上主義者がいます。
キリスト教徒が私利私欲と偏見により聖書を悪用した。それが黒人差別の諸悪の根源。もちろんすべてのキリスト教徒が聖書を悪用したわけではありません。
アフリカ黒人差別の一連の行為に対して、キリストの教えに反すると訴える人々もいました。また、黒人にも多くのキリスト教徒がいます。それは聖書に対して、悪用する白人とは違う解釈をしているからです。
ということで、黒人差別の諸悪の根源である神・キリスト教(聖書)が、UFO「Gジャン」には暗に象徴されている、と妄想しています。
そう妄想すると、色んなシーンの解釈がふくらみます。
例えば、「Gジャン」はなぜ「G」だけ英字で、しかも「J(ジーンジャケットは jean jacket と書く)」でなく「G」なのか。それは「God:神」の「G」を持ってきているのではないでしょうか。
続いてそのほか気になった点を、UFO「Gジャン」は神・キリスト教(聖書)の象徴という視点で、改めて見ていきます。
■はじめてっの、ナホム♪
映画冒頭に引用されていた 3章 6節以外も確認してみると、Gジャンのことも、この物語全体のことも、より味わい深くなります。
ナホム書自体は、旧約聖書内の12小預言書の一つ。旧約聖書39巻の内、12巻からなる分量が少な目な預言書の一つがナホム書。ナホム書自体の意味は「主は慰めた」。
内容は1〜3章で成っており、ざっくり言うと、ナホムという人により神のお告げとして、アッシリア帝国の首都ニネベは滅亡するよ、と書かれたもの。
アッシリア帝国は広大な領域を支配しようとしたため、神の怒りをかい報復され(歴史的には新バビロニア帝国によって滅ぼされる)、アッシリア帝国に領土を制圧されていたユダ民族には平和が訪れるだろう(私の個人的解釈が混じっています)という希望のある預言。だから「主は慰めた」預言書。
個人的に注目したのが、2章 11節。アッシリア帝国を獅子(しし)に、首都ニネベをその獅子の穴に喩(たと)えた文があります。これがまるで「Gジャン」の造形のよう。
「Gジャン」は作中で動物だと言われていました。そして人も馬も物も吸い込み、吐き出すあの穴。あれはナホム書を造形した表現でしょう。
今思えば、「目」のようにも見えますね。白い中に黒。スペクタクルを欲求し、搾取する、視聴者の象徴としての「目」。
ほかに、ナホム 3章 1~3節には
とあり、『NOPE/ノープ』を連想するワードがいくつも見て取れます。
『NOPE/ノープ』は章に分けられた構成になっています。これもナホム書をなぞってのことではないでしょうか。
『NOPE/ノープ』は、神・キリスト教(聖書)の象徴であるUFO「Gジャン」をぶっ潰す、黒人を癒す新たなるナホム書、聖書なのではないでしょうか。
■なぜ空を見上げてはいけないのか
天を見上げる行為。これは神様にお願いとか祈りをささげる際に見かけます。宗教画でも天を見上げる人物が描かれた作品があります。学校の教科書にも載っていたフランシスコ・ザビエルの絵も、天を見上げています。
それはキリスト教の祈りを捧げる体勢のひとつ。だから、神・キリスト教(聖書)にアンチな意味合いを秘めた『NOPE/ノープ』では、空を見上げてはいけないのです。
映画『ゲットアウト』のメインビジュアルは、主人公が上を見ながら恐れおののいている姿。映画内のワンシーンを切り取ったものではありますが、今思えばあれも同じく、神・キリスト教に対するアンチの意図があってのことではないでしょうか。
ちなみに、キリスト教では天を見上げて両手を広げ手のひらを上に向けるのが、もともと祈りのポーズ。「オランス」というポージングです。その後、両手をあわせる祈りのポーズが一般的になったようです。
クライマックス、「Gジャン」の最終形態の姿は、クラゲなどの生物の様でもあり、両手を広げ昇っていくキリストがまとった白い衣の様でもあります。
■「最悪の奇跡」なワケ
これはモロですね。「奇跡」という言葉の意味を検索すると、WEB辞書系には「宗教」「キリスト教」というワードを見かけます。
差別される黒人にとっては、キリスト教(聖書)が差別を布教する「最悪の奇跡」に値します。
ちなみにちょろっとイエス・キリストの奇跡を紹介すると、「水をぶどう酒に変える」というMr.マリックやナポレオンズ(私の好きな手品師)がやってくれそうな奇跡からはじまり、「パンと魚を増やす」とか「盲人の目を見えるようにした」とかそんな、ミュージシャンのGReeeeN(グリーン) もビックリな内容の奇跡。
■フィッシュバーガー
『NOPE/ノープ』に「コッパーポット・コーブ(CopperPot’s Cove)」という架空のファーストフードチェーン店が登場します。映画『アス』に登場している店と同じであることがパンフレットに記載。『アス』と同じユニバースであることをピール監督がコメントしています。
このコッパーポット・コーブでOJ、エメラルド、エンジェルの3人が食事をします。フィッシュバーガーを食べるエンジェルを子供みたいだとエメラルドが軽くバカにするシーンがありました。
フィッシュというのがミソで。キリスト教では魚はイエス・キリストの象徴です。なんだかそのシーンがイエス・キリストの奇跡を信じていることは、サンタクロースを信じる子供のようだ、そんな揶揄したシーンではないかと妄想しています。食べてるのが「エンジェル」ってのもかけているのかも……。
■なぜ『エヴァンゲリオン』と『アキラ』をオマージュしたのか
ジョーダン・ピール監督は『エヴァンゲリオン』と『アキラ』両作品をリスペクトしています。その理由は神・キリスト教(聖書)へのアンチとつながっているのではないかと妄想しています。
MOVIE WALKER PRESSのインタビューで下記のように答えています。
メッチャメチャ感動してるやん。
じゃあこの両作のどこに感銘を受けたのか? それは「宗教に頼らず、自己受容し自立に向かう」って点じゃないでしょうか(日本の漫画やアニメはほとんどそうじゃん、とか聞こえてきそうですが、日本はキリスト教メインの国ではないので)。
『新世紀エヴァンゲリオン』はご存じの通り聖書の内容をモチーフにしていますが、主人公碇シンジはラスト、宗教に頼らず自分は存在していて良いんだと自己受容し自立へと向かって終わります。
ちなみに、なぜ庵野秀明監督が聖書の内容をモチーフにして創ったのか。私はエヴァは「救済」をテーマにしているからだと妄想しています。2000年代の雑誌に掲載されていた鶴巻和哉監督(他のスタッフや庵野監督自身も何かしらの媒体で言っていたかも)のコメントで、オタクを救おうとした、といった内容を目にした記憶があります。
「救済」は聖書、ひいては宗教のテーマです。だから庵野監督は聖書をモチーフにしたと思われます。
映画『AKIRA』は、関東に新型爆弾が落とされて第3次世界大戦が勃発した後の世界。輝く高層ビル群と荒んだ路地、体制側や暴走族との抗争など、貧富の差や暴力があふれ混沌としています。
クライマックスはアキラの人知を超えた力にあらゆるものがのみこまれ大洪水も起き、都市が壊滅していく黙示録的な印象。
アキラとは、新たに創造(破壊でもある)する力のこと、だと私は解釈しています。森羅万象を創り出す力、神がかり的な力とも言えます。そしてその創造力に値するものを誰もがもっているといった意味合いのセリフがあります(無かったらゴメンナサイ)。
これは宗教に頼らずとも、どんな状況下でも、自分の考えや行動で、自分自身や社会を少しづつでも変えていける、何かを築いていけることを示しています。
そういった「宗教に頼らず、自己受容し自立に向かう」って点がピール監督に感銘をあたえたんじゃなかいと。
だから両作のオマージュを『NOPE/ノープ』に盛り込んだんだと妄想しています。ラストシーン、エメラルドが勝利した時に「負けるもんか!」といった泣き叫びも、両作から感銘を受けてのものかもしれません。
あと、OJが着るオレンジ色のパーカー。オレンジ色はアメリカの囚人服の色であり、黒人は囚人的な立場である象徴という考察が有力ですが、金田が着ていた朱色のツナギへのオマージュだったりしないかと思ったりもしました。
■ガス同然のUFO「Gジャン」
UFO「Gジャン」のラストは、ジュープをモデルに二頭身キャラ化した巨大バルーン人形を呑み込み、パーンッ! とバルーン人形ともども破裂。ヘリウムガスとともに消えましたね。中身が無かった。
これ、「差別を伝導する神なんてガス同然」そんな揶揄にも感じます。
あとGジャンが破裂する前、エメラルドが井戸の形をした巨大ポラロイドカメラ機で必死に写真を撮っていましたね。あれにはエドワード・マイブリッジが馬が走る瞬間を撮影した連続写真の、かたき討ちの意味合いもふくまれているのではないでしょうか。
エドワード・マイブリッジが作成した世界で初の映画とも言われるその馬写真の記録には、馬上の黒人ジョッキーの名前だけがなかった。
『NOPE/ノープ』内では、エメラルド(ジョーダン・ピール監督)が世界で初めて神を撮影した黒人として、観客に目撃されたわけです。
世界で初めて映画に映った人物も黒人。世界で初めて神を撮った人物も黒人であると。
といった感じで、UFO「Gジャン」は神・キリスト教(聖書)の象徴、という妄想をつづってきました。
神をUFO(未確認飛行物体)として表現するなんて、そんなイカしたブラックジョークも世界初ではないでしょうか。オモロすぎ!
まっだまだ色々な解釈で楽しめそうな『NOPE/ノープ』。怪作で傑作。とんでもない未知との遭遇・UFO映画でしたね。
そんなジョーダン・ピール監督の次回作が楽しみでたまりません。
■作品情報
2022年製作
時間:131分
製作国:アメリカ
原題:Nope
配給:東宝東和
監督:ジョーダン・ピール
製作:イアン・クーパー ジョーダン・ピール
製作総指揮:ロバート・グラフ ウィン・ローゼンフェルド
脚本:ジョーダン・ピール
撮影:ホイテ・バン・ホイテマ
美術:ルース・デ・ヨンク
衣装:アレックス・ボーベアード
編集:ニコラス・モンスール
音楽:マイケル・エイブルズ
視覚効果監修:ギョーム・ロシェロン
OJ/ヘイウッドダニエル・カルーヤ
エメラルド・ヘイウッド/キキ・パーマー
エンジェル・トーレス/ブランドン・ペレア
アントレス・ホルスト/マイケル・ウィンコット
リッキー・“ジュープ”・パク/スティーブン・ユァン
オーティス・ヘイウッド・シニア/キース・デビッド
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