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ボーイズラブ精神分析 『同級生』 中村明日美子

こんにちは、Shadeです。
僕は30代、既婚(子無し)、バイセクシャルでメンタル疾患持ちの男性です。

今回の記事、タイトルはかなり大仰ですが、はじめにお断りしておくと、僕はいわゆる「腐男子」と自称できるほどボーイズラブに精通していませんし、もちろん精神分析医でもありません。むしろ、BLに関してはまだ初心者と言って良いレベル。
ただ、「これは!」と思える作品に出会ってしまったので、その感動を共有したくて、文章を書き始めてしまいました。

相互フォローしてくださっている方とのコメントのやり取りで、「純粋に好きなものについて書いてみるのも良いのでは」との気づきを頂けたということも大きいです。また、自分が何に感動したのかを考えてみることで、自己理解を深めていけるかもしれない、という下心もちらほら。
まだ沼にハマりきっていない自分に、そこまで深い考察ができるのか、若干の不安はありますが苦笑、息抜き程度にお読み頂けると有難いです。

作品紹介

今回紹介するのは、中村明日美子さんの『同級生』という漫画。初版は2008年(茜新社)。シリーズ化や映画化もされていて、BL好きな方からすると「今更感」があるほどの有名作品だと思うのですが、僕は恥ずかしながら最近その存在を知りました。

あらすじは至ってシンプルな高校生二人による恋愛もの。
音楽好きでバンド活動をしている草壁光(くさかべ ひかる)はある日、合唱祭の練習中、隣に立っているクールで優等生タイプの佐条利人(さじょう りひと)が「歌っているふり」をしているだけだということに気づきます。
草壁は、優等生の佐条が、合唱祭を勉強に関わりのない「下らない行事」だと考えているのだろうと想像しますが、ある日、誰もいない教室で、佐条が一生懸命歌の練習をしているところに出くわしてしまい、心が揺れ動くのを感じます。
それをきっかけとして、草壁は佐条に、二人で歌のレッスンをすることを提案し、徐々にお互いの距離が縮まっていく…というのが大まかなストーリーです。

誰もが自分の思春期を生きてきた

著者があとがきで書いている通り、「まじめにゆっくり恋をしよう」というのが本作のテーマ。草壁と佐条の関係も、まだ自分という軸が定まりきっていない「あの頃」特有の「思い込み」や「すれ違い」を繰り返しながら、とってもスローなテンポで深まっていきます(キスをするまでは割と早いのですが苦笑)。
この、感情の行き違いと修復を繰り返しながら縮まっていく二人の距離感が、なんとも言えず「良い」のです。恐らく、読めば誰もが、思春期だった頃の自分を思い起こさずにはいられないはず。
恋愛をしているかしていないかに関わらず、感情があれほど激しく上下左右に振れる時期というのは、やはり誰にとっても「人生のうちの特別な期間」なのだと思います。
もちろん、今まさに青春真っ只中という方が読んでも「刺さる」シーンがたくさんあると思いますが、自分なりの思春期をくぐり抜けてきた大人が読むと、また違う「刺さり方」で胸に迫るものがある。
少なくとも僕は、1話ごとに自然と涙を流していました笑

「駆け引き」ではなく「ぶつかり合い」

そんな本作で、僕が個人的に一番心を掴まれたシーンは、バンド活動をしている草壁のライブに招待された佐条(優等生キャラの彼が、慣れないライブハウスであたふたするところにもグッとくる笑)が、楽屋で自分のファンである女子と連絡先を交換する草壁の姿を目撃してしまい、一悶着起こるところ。
一応、佐条はゲイですが、草壁はノンケ(あるいはバイセクシャル)という設定で、その場面を見た佐条は、やはり自分と彼とでは生きる世界(作中の言葉で言えば「人としてのジャンル」)が違うのだと思い込み、絶望に打ちひしがれたまま、一人夜の街を彷徨います。
最終的には、(何度か着信拒否をした後で)、電話に出た佐条の元へ草壁が駆けつけ、事態は収束するのですが、この時の二人のやりとりが単純に愛おしい。
「男の俺といて楽しいか?」と訊く佐条に、草壁は一言、「佐条が一番だ」と答えます(もちろん泣きました笑)。
「駆け引き」ができず、感情を「ぶつけ合う」ことしかできない、どこまでも純粋な二人の関係性に、30代バイの自分は心を撃ち抜かれた次第です。

傷ついて成長する「丸裸の心」

記事のタイトルを「精神分析」と銘打ったので、何故こんなにも一つ一つのシーンが泣けるのだろうと考えてみたのですが、つまるところそれは、自分が成長の過程にあった頃の「痛み」や「喜び」のようなものを、この漫画を通してリアルに追体験しているからなんじゃないかと気づきました。
ちょっとした思い込みや、ボタンの掛け違いによって、「人生詰んだ」と思うくらい絶望してしまうのが、思春期の特徴。そして、その絶望が単なる自分の勘違いに過ぎなかったと分かった時の、不意に晴れ間が覗き、光が差してくる「あの感じ」。
傷つくことと、その傷を修復することで徐々に心が成長していく感覚を、僕はこの作品を読みながらはっきりと思い出しました。
そして、何だかんだ言っても、十代半ば〜後半にかけての自分は、とても純粋だったんだなぁと…。
例えて言えば、心が丸裸で、外部からのどんな刺激にも過剰に反応してしまう状態。
草壁も佐条も、ちょっとしたことで傷つき、ちょっとしたことで幸福になります。でもそれは、思春期真っ只中の彼らにとっては、とても大きな「事件」なのです。その純粋な「感情の揺れ」に、僕はいちいち感動してしまいました。
自分自身は、「バイセクシャル」であることを抑圧した結果、表面的にはたくさんの「武装」をして青春時代を過ごしてきたのですが、人間は誰しも、自分の心にまでは嘘がつけません。
本作を通して、思春期を追体験した僕は、色々な出来事がその「武装」を貫通して、まだナイーブだった自分の心に傷をつけていたんだな、ということを改めて実感したのです。
そしてその傷ついた心こそ、誰に恥じることもない、自分が「必死で生きてきた証」なのだということも分かりました。

おわりに

というわけで、やはり精神分析というよりはただの感想になってしまっている感は否めないのですが苦笑、これによって少しでも本作に興味を持って頂けたり、「読んでみようかな?」なんて思って頂けたら、僕としては本望です。続編やスピンオフがたくさん出ている作品なので、これからの楽しみが増えたなぁと、自分自身ホクホクしているところ。

思えば、僕がはじめに「男性同士の恋愛」を物語として読んだのも、図書館でこっそりと借りたBL小説でした。女性向けのジャンルと侮るなかれ、男性(もちろんストレートの方を含む)が読んでも、恐らく心を動かされる(掻き乱される)こと間違いなし。
今後も、「これは!」という作品に出会ったら、このコラムで積極的に紹介していきたいと思います。そのうちに、ジャンルに精通することで読解力や分析力も上がっていくはず。

それでは、長くなってしまったので今日はこの辺で。
最後まで読んでいただき、有難うございました!

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