自由を守るために　既婚バイの覚え書き

初めてバイセクシャルであることをカミングアウトしたのは、ほんの数ヶ月前。相手は、奥さんでも家族でもなく、カウンセラーの先生でした。

全くの他人で、何の利害関係もない方なので、厳密にいうとカミングアウトにカウントして良いか分からないのですが、その時の感覚は、今でも体に残っています。
緊張からくる高揚と、静かな充足感。
矛盾した二つの感情がせめぎ合う中で、僕は確かに、「自由」の手触りを感じていました。

奥さんへのカミングアウトを実行したのはそれからわずか数日後。
その時の緊張は、一度目とは比較できないくらい、遥かに大きなものでしたが、その分、打ち明けた後に得られた感触には、よりはっきりとした、心地良い重みがありました。

以降、友人、家族と順番に自己開示を行い、カウンセラーの先生を含めると、今までカミングアウトした人数は計５人。
約半年の間に、僕は５回分の「自由」を体感したことになります。

「自由」の感触は「解放感」と似ています。
でも、「解放感」と比べて少し違うのは、それが一過性のものではないということ。
僕は、自分のセクシャリティを認知してくれている相手と一緒にいる時、初めてカミングアウトした時と同じ手触りを常に感じることができますし、たとえそばにいない時でも、「ありのままの自分」を受け入れてくれる人がいると考えるだけで、あの「心地良い重み」を心に蘇らせることができます。

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この世界には色々な種類の「幸せ」があります。
人によって、手にしたい幸福はさまざま。
愛や夢の実現、お金や物を手に入れること、趣味を思い切り楽しむこと。
それらを否定することは誰にもできません。

ただ、僕にとっての一番の「幸せ」は、自分が「自由」な存在だと実感できること。
普段は押しに弱い僕ですが苦笑、もしもそれが奪われそうになったら、どんな傷を負ってでも、恐らく死ぬ気で闘い抜くことでしょう。
そして、誰かの「自由」が奪われそうになった時にも、同じように闘う人間でありたい。
この世界から一つの「自由」が失われることは、自分の中のそれが一つ失われることと同義だから。

また、「自由であること」の本質はきっと、「自己肯定感」と深く結びついている。
だから、抑圧は最大の敵です。
僕の場合、自分を抑圧していたのは自分自身、つまりラスボスは僕自身でした苦笑
今は、少しずつ敵のHPを減らしながら、「ありのままの自分」でいられる領土を拡大しているところ。苦しくもありますが、不要な抑圧が一つ消える度、爽快感を覚えるのも確かです。

すべての人間にとって、自分がモノではないこと、カネと交換できない価値が自分にあることを認めさせることこそが、闘う理由であり、生きる意味そのものであるように思われる…

『宇宙で最高の美をめぐって』大原まり子、
短編集『戦争を演じた神々たち ［全］』より、2000年、早川書房

上記の引用に倣うなら、僕が一番自分の価値を認めさせたいのは「自分自身」、ということになります。そして、そのために必要なのが、「自由」であることを体感するために行動すること。
自分が「自由」な存在であれば、自然と周囲にもその輪が広がっていくはず。カミングアウトは一つのきっかけに過ぎないけれど、少しずつでも行動を続けていれば、やがてその輪は大きな風を起こせる気がします（もちろん、クローゼットであることを選ぶ「自由」もあるのは大前提です）。

不思議なことに、社会というものは、何かが新しい方向へ進もうとすると、必ずバックラッシュ（揺り戻し）が起こります。
同性婚への反対、トランスジェンダーの方への心ない言葉、女性の社会進出を阻もうとする運動。それらに凛として対抗するためにも、僕は「自由の輪」を広げていきたい。

言いたいけれど言えないこと。
やりたいけれどできないこと。
それらをたった一つでも行うことで、誰でも「自由」を体感できます。
そして、それは必ずやみつきになるはず笑

現在の僕は、「自由をめぐる長い旅」を始めたばかり。
ゴールはまだ見えないものの、地図に後退の道は書かれていません。
カミングアウトを受け入れてくれた人たち、noteで出会えた方々、そして自分を信じる力が、目の前を明るく照らし出してくれている。

初めてカミングアウトした時の、「あの感覚」を便りに、今日も歩き続けます。周囲がよく見渡せるよう、ほんの少しだけ、背伸びをしながら。