むかしむかしのその昔⑤ 英語のsecretary
ラジオを聴いていたら、英語の secretary についてこう言っていた。
Secretary には secret が入っているので、もともとは「秘密を書きとる人」という意味だった。「秘書」は個人につくもので、国連の事務次官や大臣にも secretary が使用される。これは重要な役目を任される人という意味である。さらに、Secretary という語は、だれについているのかが重要なのだと解説があった。
私が編集プロダクションで働きはじめて半年ほどたったころ、社長から朝日カルチャーセンターの秘書講座を受講するように言われた。秘書の仕事に私が興味をもっていたわけではない。毎日遅くまで仕事をする私を見かねた社長が、せめて週に一度くらいは仕事を切り上げて帰る日をつくるようにと配慮してくれたのだった。しかし、その講座で覚えていることといえば、車に乗り込むときの順番くらいだろうか。
2つ目の職場は翻訳出版物を扱うところで、外国人も出入りしていた。翻訳家のボスの原稿を口述筆記するのが私の仕事だった。最初は原稿用紙に手書きしていたが、私はその頃出始めたワープロに目をつけ、独自に個人授業を受けてマスターし、事務所に導入してもらった。当時はまだコンピューターではなくワードプロセッサーの時代で、1台 100万円を超えていた。けれどもこれを機に、一気に仕事のスピードが速くなり、たくさんの仕事をするようになった。
私はただボスの代わりに原稿を書く「手」の役割をしていた。
ボスはやってくる外国からの訪問者に、私を「secretary」と言って紹介した。私は「秘書の仕事なんてしてないけどな」と内心思っていたが、一応原稿のスケジュールやらを知る立場にあったので、そういう意味だったのかなと思う。そしていまさらではあるが、私を「secretary」にしてくれたボスに、ありがとうと伝えたい。私に重要な役目をやらせてくれてありがとうございました、と。