自分自身であり続けた見事な人生
伯父が亡くなった。
「 55年間ありがとう 」
そういって伯母が棺に花をたむけた。
出棺前、喪主である長男が挨拶に立ち、
「父から病院で 『迷惑かけたな』と言われたとき、最初私はどういう意味な
のかわからずにいました。でも、それは、自分にではなくて、きっと母に
向けたものだったのだろう……」
そこまで言って言葉を詰まらせた。
それから気を取り直してこう続けた。
「父の『 迷惑かけたな 』のその答えは、母がさっき棺に向かって言ったひ
とこと、『 55年間ありがとう 』だったんだとわかりました」
『 迷惑かけたな 』という言葉は、
伯父の感謝の思いなのだと思う。
そして、その言葉は
伯母の『 55年間ありがとう』と同じ意味なのではないだろうか。
伯父を支えてくれた伯母さんに
私はこころからありがとうといいたい。
私の母は「本当に見事な人生だった」と泣いていた。
自分自身であり続けた人だったのではないかと私は思う。
たぶんそれを、母は「見事」だと言っているのだと。
たくさんの家族に送られ、80年の生涯の幕引きをした伯父。
送る人たちにこころの準備をさせてくれたこの2か月。
見事な人生に、成長した子子孫孫が続いていくのだと私は思った。
どうぞ安らかな眠りにつき、家族を見守っていてください。