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「命を救う」職業人たちの誇りと執念/『TOKYO MER 走る緊急救命室』

今季もいくつかのドラマを追いかけている。毎週楽しみに視聴していた大河ドラマ『青天を衝け!』は東京五輪に伴いお休みしているものの、それでも日曜の夜が毎週待ち遠しい。日曜劇場『TOKYO MER 走る緊急救命室』がとても面白いからだ。

「すべての命を救う」機動部隊的な救命医療チーム

東京都知事・赤塚(演:石田ゆり子)の特命を受けて設立された救命医療チーム「TOKYO MER」。その使命は事故や事件、災害の現場にオペ室を備えた車両「ERカー」で急行し、その場で緊急手術を行うことで1人の死者も出さないことだ。

TOKYO MERは医師2人、研修医1人、看護師2人、麻酔科医1人、臨床工学技士1人の計7人による少数精鋭のチーム。これだけのメンバーで、日々東京で起こるすべての救命救急医療を担うことはもちろんできない。しかしMERを率いるチーフドクターの喜多見幸太は、メンバーに次のような目標を語る。

”消防とか警察とか、ほかの医療機関とかと連携すれば、もっと大きな災害や事故が起きたときにでも対応できるようになるはずです。助けを求めている人を待っているのではなく、こちらから行く。俺たちが到着したらすべての傷病者を必ず助ける。このチームがいるってだけでみんなが安心する。TOKYO MERはそういう存在になりたいと思っています。”(第1話)

実際には現場での関係機関同士のメンツの張り合いや、都知事と政治的に対立する厚生労働大臣からの横やりなど、喜多見の理想からはなかなか遠い状況が描かれる。しかし事件や事故、災害は人間の都合を待ってはくれない。都内で日々発生する現場に急行するなかで、いかにしてMERは命を救うのか――というのが大まかなあらすじ。

主人公の救命救急医・喜多見幸太を演じるのは鈴木亮平。救命救急医療に関する卓越した技術を持ち、「待っているだけじゃ、救えない命がある」との信念を抱く熱い男で、背中で仲間を引っ張っていく。西郷隆盛から宮沢賢治、あるいは変態仮面まで実在・架空を問わずどんな役でも見事に演じる鈴木亮平。自らの行動と言葉で仲間を鼓舞し、失われつつある命を必死に救う喜多見医師は、鈴木の当たり役のひとつになりそうな気がする。

喜多見を支えるMERの面々も個性的なメンバーがそろう。賀来賢人演じる音羽は、厚労省から派遣されてきた医系官僚。都知事を目の敵にする厚生労働大臣の密命を受け、MERのメンバーでありながらMERをつぶそうとする複雑な役どころだ。喜多見の隙を探り引きずり落そうとしつつも、音羽自身も医師である自分を裏切れないキャラクター造形がいい。音羽自身も目の前で失われつつある命を見過ごすことはできず、たびたび喜多見に負けないほどの熱さをのぞかせて命を救うことにこだわる。組織に縛られる官僚としての自分と、医師としての自分の間で葛藤する姿が描かれる。

第2話では唯一の研修医である弦巻比奈(演:中条あやみ)の葛藤と成長、第3話では看護師の蔵前夏梅(演:菜々緒)の覚悟が描かれた。特に蔵前看護師は、命を救うことに関しては喜多見に負けず劣らぬほどの情熱と執念を持つ存在として描かれる。第3話では立てこもり事件で人質となった幼児を救うために自らも人質となり、自分の命を危険にさらしてもギリギリの戦いを続けた。すっかり悪女キャラでの起用が定番化した感のある菜々緒だが、このドラマではチーム全体に目配りをしつつ自らも前線で奮闘する役どころを演じている。

飄々とした実力者の雰囲気が似合う麻酔科医の冬木治朗(演:小手伸也)、一見すると最も普通の若者っぽい臨床工学技士の徳丸元一(演:佐野勇斗)、唯一の外国人メンバーの看護師・ホアン・ラン・ミン(演:フォンチー)にスポットが当たる回も期待したい。

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職業人たちの誇りと覚悟がぶつかり合う

ここまでMERメンバーの良さを述べてきたが、個人的にこのドラマの見どころは、MER以外の人たちの職業人としての覚悟や誇り、決意が描かれている点だと思う。登場する誰もが、自らの職業倫理と誇り、そして「命を救いたい」という思いに嘘は付けない。そんな姿が描かれている。そして、医療従事者や警察、消防など「命を救うための職業人」の命の大切さも。

たとえば第3話。MERと警察は、自らの娘を人質にとって立てこもった凶悪犯と対峙する。蔵前看護師が女児を救うため自ら人質となり、女児を逃がすことには成功するが、脱出しようとした蔵前看護師をかばった警察官・中野が犯人の凶弾を浴び瀕死の状態に陥る。

蔵前看護師は犯人の要求に応じて再び人質となる。緊急オペで女児の命を救った喜多見は警察の特殊部隊SIT隊長・新井(演:山田純大)に「すぐ次の救助をしないと!」と訴える。新井は「蔵前さんは俺たちが必ず助ける」と応じるが、喜多見は「いえ、中野さんです」と訴える。このドラマでは一貫して、医療従事者や警察・消防など「命を救うため」に奔走する関係機関の人たちの命も、当然救うべき命であるということが描かれる。

喜多見の進言を受け、新井隊長は中野を救うため覚悟を決める。警察組織のしがらみやあれやこれやをすべて切り捨て、それまで批判的だったMERとの合同作戦に踏み切り、「医療従事者たちを守れ!」と部下たちにげきを飛ばす。この場面は何度見返してもグッとくる。

第4話はさらに熱い。トンネル崩落事故に巻き込まれた医師とその医師が運んでいたもうひとつの命を救うため、医療従事者とレスキュー隊員の信念と誇りがぶつかり合う。「全員主人公」のような総力戦の回で、MERを中心に命のリレーがつながり、レスキュー隊の千住隊長(演:要潤)や循環器外科医の高輪(演:仲里依紗)らの覚悟と決意が描かれる。

もちろんこれは医療従事者らのドラマではあるが、それ以前に非医療従事者も含めた職業人たちのドラマなのではないか――と感じる。毎回見終わるたびに、仕事頑張るかという気になる(我ながら単純な気はするが)。月曜日からの仕事を控えた日曜の夜に見るドラマとしてはうってつけだ。

今夜の第5話は音羽にスポットが当たるらしい。官僚と医師、ふたつの自分の間で悩む葛藤に答えが出るのか、21時を楽しみに待ちたい。

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