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水俣 みなまた Minamata - その心は?

はじめに

この記事のタイトルは「水俣 みなまた Minamata - その心は」です。昨日、熊本県が主催した「水俣条約外交会議10周年記念 くまもと環境フォーラム」で講演する機会がありました。10年前の10月に、4年間にわたる5回の交渉会議を経て、私は水俣条約外交会議の開会式で、日本代表席に座っていたのを思い出します。偶然とも言えるめぐり合わせや重なりがあり、水俣条約交渉を担当することになりました。その前には水俣病患者や国際的な水銀プロジェクトの研究者として関わり、特に患者と協力して仕事をする中で深い学びを得ました。その経験が、水俣条約交渉に臨む一因となりました。人生は偶然や出会いが全てをつなげ、新たな可能性を拓く時期でもありました。もう一つの重要な出会いは、熊本市で生まれ、熊本県立大学を卒業(今回のフォーラムの会場でもあります)し、当時水俣市役所に勤務していた妻との結婚です。

なぜ「水俣 みなまた Minamata - その心は」というタイトルを選んだかというと、水俣病(正確には水俣病事件と呼ぶ方が適切ですが)は、単なる環境汚染による健康被害だけでなく、経済的、社会的・政治的、地政学的など、人間社会を取り巻くあらゆる要素が入り組んでおり、これらの問題は完全に解決することが難しい溝を人々や社会、そして各々の心の中に形成してしまいました。通常の事件は、全てを解明して文章にまとめることが可能だと考えられますが、水俣病についてはどれだけ文章に起こしても、完璧に説明し切ることはできません。その理由は、水俣病の状況は「時」の経過とともに変わらない歴史である一方で、その「トキ」に刻まれた水俣病患者さんや関係者の方々の心はあまりにも複雑で深いため、これを理解することは不可能なのです。ただし、これを自分なりに深く追求し、理解しようとする姿勢は非常に重要です。

第1のキーワード:水俣 - 見ることができる水俣

最初の鍵となる言葉は、見ることのできる水俣です。これは、私たちが直感的に理解できる水俣にまつわる情報です。視覚から得られる学びや知識は、水俣病や水俣条約についてのものです。水俣病が初めて確認されてから70年が経ちますが、その問題は完全に解決されず、国際的な水銀管理もまだ始まったばかりです。世界中が水銀から解放されるためには、私たちは依然として精進を続けなければなりません。

進行中の熊本県の水銀フリー事業は、きわめて感慨深い例です。これを一層前進させ、世界中の多くの国や自治体が熊本県の経験を参考にして、それぞれの状況に合わせた水銀フリーへの取り組みを進めていくことを期待しています。UNEPや水俣条約事務局としては、舞台裏でサポートし、世界中の国々が水銀フリーへの道を進むための支援を提供し続けることが、私たちの使命です。

事実をしっかりと理解し、正面からその真実と向き合うことは、水俣病から得た重要な教訓の一環です。この複雑な問題に立ち向かい、一つずつ解決に導くには、正直で真摯な姿勢が不可欠です。

第2のキーワード:ミナマタ - 見ることができない水俣

「何ができないのではなく、なにができるか」。これは、2018年にお亡くなりになった小児性水俣病患者さんで語り部さんでもあった前田恵美子さんの言葉です。恵美子さんのお話しは、いつも力強く、でもしなやかで、そしていつもにこやかにお話しをされていました。この恵美子さん言葉は、私の心の奥深くに刺さり、今では私の人生の指針となっています。それを、私自身の視点で深く考え解釈したものが、「100%自分をそのまま受け入れ、何ができないのではなく、何ができるか、どうあるべきか?を考える、そして行動する」です。

この恵美子さんお言葉は、あらゆる宗教や哲学、思想の原点ではないかと考えます。つまり、自分を100%受け入れ、それで何ができるか、どうあるべきか。しかし、私たちは煩悩や欲望といった人間の得意技によって、この本来の姿勢をかき消してしまい、結果として悩みを引き起こしているのではないでしょうか。他人との比較や物ねだりは、悩む原因となり、資本主義社会もそれを助長しています。この現状に気づかされたのが、恵美子さんの言葉であり、それはあらゆる宗教や哲学の中心にあるものだと考えています。

何ができないのではなく、何ができるか、どうあるべきか?

例えば、第2次世界大戦中のユダヤ人大虐殺を描いたフランクルの「夜と霧」や、パスカルの「パンセ」、アランの「幸福論」、アドラーの「心理学」、カントの哲学など、これらすべてが美恵子さんの言葉につながっています。自分自身を100%受け入れ、それがスタート地点であるというのが、彼女の言葉が伝えていることでしょう。私たちは現在、地球の歴史の最先端で生かされている存在です。生きたいから生きているのではなく、生かされているから生きていく。そしてその流れに沿うことが最善でしょう。これは例えば地球や宇宙の流れ、森羅万象、天の道、空の世界、神の思し召し、信じている道など、宗教や風習、文化や言語などで言い方は違うものの、言っている本筋は全て同じではないでしょうか?

漢字の「水俣」が、地球の時間軸に沿った情報の流れに対応しているのに対し、カタカナの「ミナマタ」は、瞬間の「トキ」から自分自身を掘り下げていくものです。自分の内面を深く探求するためには、自分を100%受け入れ、世の中が求めること、自分ができることやどうあるべきかを追求していくことが必要です。その行きつく先が、人間としての自分の生き方になるでしょう。それを恵美子さんは教えてくれたのです。

第3のキーワード:MINAMATA - 世界は水俣病の経験を求めている

水俣病の闘いは、ただ一つの地域や瞬間に留まるものではありません。それは世界中の水銀汚染問題に対する象徴となり、私たちに新たな洞察をもたらしています。水銀は小規模金採掘、産業廃棄物、そして環境中の他の源から漏れ出し、私たちの地球を汚染し続けています。

この地球規模の挑戦に直面する中で、水俣病の経験が私たちにもたらす教訓は決して小さくありません。水俣は、地域社会だけでなく、世界全体が抱える水銀問題の証であり、その経験は私たちに未来の対策を考える手がかりを提供しています。

小規模金採掘地域では、水俣病の影響が繰り返されています。水銀を使用した金の採掘が行われる際には、地元の生態系や住民が深刻な被害を受けています。水俣の歴史が物語るように、環境汚染は単なる数値や統計だけでなく、人々の生活と結びついています。

また、水銀廃棄物の問題も深刻です。工業プロセスや一般の廃棄物から漏れ出た水銀は、水俣と同じく環境や人体に悪影響を及ぼします。この水銀汚染は、持続可能な未来を築くための障害となっており、全世界で共通の課題となっています。

「MINAMATA」は、単なる地域の出来事にとどまらず、世界中で共通のテーマとなっています。水俣病の経験が世界各地の水銀汚染地域で求められている理由は、これらの地域が同じような課題に直面しているためです。水俣が直面した困難から得た洞察は、他の地域が解決策を見つけ、未来に向けて持続可能なアプローチを採用する手助けとなるでしょう。

だからこそ、水俣条約が必要となったのです。水俣病のあの悲劇を二度と繰り返さない、との思いを強く反映しているのが水俣条約です。でも残念ながら小規模金採掘の現場や処分場において、水銀が環境中に漏れ出しているのは事実です。一度環境中に水銀が排出されてしまうと、二度と回収することは不可能です。それが回りまわって、魚介類に取り込まれ知らず知らずに私たちが食べている、誰もが逃れることのできない水銀汚染が続いています。「誰もが加害者、誰もが被害者、第三者はいない」、水俣病の教訓を決して忘れてはいけません。

水俣は、ただ一つの地域の悲劇だけでなく、世界が共有する問題の一環です。私たちが水俣病の経験から学び、共に取り組むことで、水銀汚染の影響を和らげ、未来の世代に健康な環境を残すための第一歩を踏み出すことができるでしょう。

最後に:

「水俣 みなまた Minamata - その心は」は、水俣病を通じて世界中に問いかけられる課題に焦点を当て、私たちの未来に向けた教訓と対策を共有しています。この物語は、単なる地域の悲劇だけでなく、世界が共有する問題の一環であり、その経験が世界中の水銀汚染地域で求められている理由を示しています。

「見ることのできる水俣」と「見ることのできない水俣」を通じて、私たちは水俣病の影響が地球全体に及ぶことを理解し、水銀汚染の深刻さに直面しています。小規模金採掘や水銀廃棄物の問題は、水俣病の歴史が物語るように、環境と人々の生活に深刻な影響を与えています。

「MINAMATA」は、世界中で共通のテーマとなり、水俣条約がその重要性を訴えています。この条約は、水俣病の悲劇を二度と繰り返さないための強い意志を反映していますが、未だに小規模金採掘や廃棄場での水銀漏出が現実となっています。一度環境中に流出した水銀は取り戻せませんが、この事実から学び、共に取組むことで水銀汚染の影響を和らげ、未来の世代に健康な環境を残すための第一歩を踏み出すことができるでしょう。

水俣は過去の悲劇だけでなく、未来に向けた希望と学びをもたらす存在です。私たちは「何ができないのではなく、なにができるか」を考え、水俣病の経験から得た洞察を共有し、共に持続可能な未来を築くための努力を惜しまなければなりません。この物語は私たちに問いかけています:「今、私たちができることは何だろう?」。水俣の過去から学び、未来を切り開くために、一人一人が貢献し、共に歩むことで、私たちは世界中で持続可能な社会の構築を実現できるのです。

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