第6回:「杜のまちや」
こんにちは!淑徳大学人文学部表現学科、杉原ゼミの増山です。
今回ご紹介するのは、ときわ台駅すぐ近くにある「杜のまちや」というコミュニティ施設。
杜のまちやでは、オオノ・マユミ展「蝶々、日々花々」が8月1日~8月9日に開かれます。
お話を伺ったのは、杜のまちやを運営する天祖神社の宮司の小林美香さん。
地域の人々の交流と安らぎのよりどころである杜のまちやの魅力について教えていただきました。
杜のまちやってどんなところ?
「杜のまちや」は、地域の皆さんと神社で考えた地域に開かれた「町の家」―パブリックスペース―です。
引用:ときわ台天祖神社社報『神明さま』第135号
入り口の赤い格子が印象的な杜のまちやは、「食」「集い」「学び」をテーマとした木造地下1階+3階建ての”いえ”です。
まず1階にはオープンキッチンとカフェスペース。かつて天祖神社に参拝に来たという文人・大田南畝のパネルとともに、くつろぎの時間を過ごせます。
2階の広いスペースは、町会や祭事の寄り合い所やギャラリーなどさまざまな用途に柔軟な部屋。昼間は明かりをつけなくても充分明るい、自然光を多く取り入れた優しい空間です。
3階は神社の古文書や絵馬などを保管する資料庫になっています。机もあり、歴史研究の場でもあります。
地下1階は備蓄倉庫。杜のまちやは地域の防災拠点でもあるのです。
年間を通してさまざまな催しや展示、カフェなどが開かれます。
まちや自体が特定の営業形態を持っているわけではなく、地域の人々のやりたいことを実現する小さな拠点として親しまれています。
「みんなの楽しい家」を目指して
杜のまちやのロゴは、神社の「鳥居」の上の横棒をちょっとつまんで、屋根の形にしたマークです。
コロナ禍で人が集まる場をつくりづらい状況もありますが、杜のまちやは地域にとってどんな場所でありたいかを尋ねました。
「ひとことでいうと、『みんなの楽しい家』。家という場所にはさまざまな使い方、過ごし方がありますが、そこにいるとほっとするような居心地のよさを大切にしています。実際にまちやに来た地域の方が、『ここは居心地がいいですね』と言ってくださるんです」
あるときは写真や絵の展示をしたい人の個展会場として、あるときはお店を開くほどではないけれど手作りのパンやお菓子を振る舞いたい人の小さなカフェとして、地域の人の「これをやりたい」をなんでも受け入れてくれる杜のまちや。
展示にもいろいろな形態がとられ、たとえば同じ写真展という催しであっても、やる人によってまちやの中の様子は全然違うのだといいます。
1階にあるカフェスペースのテーブル、それぞれ形が違うことに気がつきましたか?
「(写真手前のテーブルは)実は展示台です。ギャラリーとして使うときにはそこに展示物を置くんですよ」
杜のまちやができるまで
杜のまちやを建てるにあたって、地域の方々との6回にわたるワークショップでどんな建物にするかが話し合われました。
最初は、「カフェのチェーン店を入れたい」「ラジオのスタジオを作りたい」といったさまざまな意見が出て、なかなかまとまらなかったそうです。
そんな杜のまちやが「防災」という観点に落ち着いたのは、東日本大震災の経験もあってのこと。
震災当時、近くにあるときわ台小学校が避難所になっていましたが、すぐに人がいっぱいになってしまいました。
「避難所は大きいものがひとつあるよりも、小さいものが点々とあった方がいいんです」
杜のまちやの地下の備蓄倉庫には、70人が3日間過ごすことを想定した水や食料、毛布などの備えが詰まっています。
杜のまちやの設計を行ったのは、日本の建築家ユニット「アトリエ・ワン」さん。
かつて加賀・前田藩の下屋敷があった板橋区は、金沢と深い関係があります。「アトリエ・ワン」さんは金沢の町屋研究を行いました。他に2013年のグッドデザイン賞を受賞した江東区の「タマまちや」や、京都にある「理科まちや」などがある、「まちや」シリーズのひとつが杜のまちやです。
神社の木立を意味する「杜(もり)」。まちやはまさに杜を象徴する木造の外観ですが、実は消防法の関係で、このような建築は難しかったそうです。
しかし、まちやの建築はコンクリートの柱を木材で覆う構造になっていて、耐火構造が実現されています。
できた当初は「借りたいという人が来てくれるのか」「施設として立ち行かないのではないか」と心配の声もありましたが、杜のまちやはさまざまなコミュニティの場として地域の人に愛されてきています。
まちやの入り口や階段に吊るされたかわいらしい照明。
「それは神社の古い灯篭で、使われなくなったものを明かりに再利用しているんです」と教えていただきました。神社と地域の人々で開設されたこの場所ならではの面白い魅力です。
「建築当初はもっと木の香りがしていたんですよ」と小林さん。5年経った今でも、そこにいるだけで心安らぐような柔らかい木の香りを感じました。
絵本のまちイベントに期待すること
「ボローニャと天祖神社は、板橋区立美術館の国際絵本原画展を通して以前から交流がありました。ボローニャの方が板橋区を訪れた際に、ときわ台小学校の合唱部の子どもたちが天祖神社で歌を披露したりして歓迎していました。ときわ台小の児童がボローニャに行ったこともあるんですよ」
まるで交換留学のような濃密な国際間交流があったことに驚きです。
8月1日~8月9日にかけて開かれるオオノ・マユミ展「蝶々、日々花々」。杜のまちやでこのイベントを催すにあたって、どんなことを期待するかをお聞きしました。
「やはり、杜のまちやを通して地域の活性化につなげられたらと考えています」
「近所の人にこそ来ていただきたいです。絵本やオオノマユミさんを好きな方は、遠くからでもいらっしゃると思います。それも喜ばしいことですが、この地域に住んでいる人が、『近くでやっているからちょっと行ってみよう』と気軽に歩いて来てくれるとうれしいです」
ときわ台駅前は、有名な都市と比べると大きな商業施設などもない素朴な商店街です。しかし、「ただ寝に帰るだけ」のまちではなく、この地域にしかない価値を発信することで、地域に元気を与えられると小林さんは考えています。
おわりに
今回は、杜のまちやの地元ならではの特色や魅力をご紹介しました。絵本のまち板橋のイベントだけでなく、そのほかのイベントの機会にもぜひ足を運んでみたいと思える、とても魅力的な場所でした。
心安らぐ「杜」をぜひ肌で感じてみてください。
たくさんお話を聞かせてくださった小林さん、神社の皆さま、本当にありがとうございました!
杜のまちや
東京都板橋区南常盤台2丁目4
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ときわ台天祖神社ホームページ
オオノ・マユミ展
「蝶々、日々花々」
2021年8月1日(日)〜8月9日(月)
11時 - 19時
杜のまちやにて
※緊急事態宣言に伴い、板橋区立美術館で開催される2021ボローニャ関連イベントは、会期中の開催は中止となっています。
※一部のイベントは、映像の配信や秋以降の開催が検討されています。詳しくは公式ホームページをご確認ください。
※新型コロナウイルスの感染予防対策については、各施設、店舗によって異なりますので来店される際には各店舗のホームページやSNSをご確認の上、ご協力ください。